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魔神学園  作者: 秋月白兎
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reconciliation

キョウジVSイサムの戦いも決着の時を迎えた。残すは最後の一戦のみ。

それに備えて動く一団の姿があった。

 キョウジが胸を押さえ呻きつつ膝をついた。アフラ・マズダもその輝きと力を失い,塵となって崩れていく。同時に「チャーム≪魅了≫」」の効果も切れ,大歓声が周囲から沸き起こった。


日陰キョウジ  FAITH POINT 3458 PONT LOST

上杉イサム   FAITH POINT 3458 PONT GET TOTAL 6414 POINT


 遂に決勝戦に進む二人が決定した。大本命の前原ススムは敗れ去り,最も経験の浅い一年生二人が7000 POINT近いFAITHを手に入れて最後の決戦に臨むのである。

 普通ならここで一年生二人に注目が集まるところだが,今回はそうならなかった。もう一組の「因縁の二人」に視線が集中したのである。


「キョウジ……」

「……放って……いや,好きにしてくれ……。全く情けない。消えてしまいたいよ……いっその事,殺してくれたら……!」


 キョウジの声が打撃音で打ち切られた。闘技場の上に倒れたキョウジが痛む頬を押さえてススムを見上げた。


「確かに情けないな。君が一度や二度の敗戦でここまで腑抜けてしまうとはね。今日まで僕が頼りにしてきたキョウジは何処へ消え失せた?」


 キョウジの目は驚愕の色に満たされていた。自分の発言・行動が何を意味していたのかをススムは理解できていなのだろうか。これまでの関係を根底から破壊した筈なのに。


「今日の事を償いたいのなら……いや償ってもらう! 有無は言わせない! 拒否する事も許さない! これから君は,これまで以上に僕を助けてくれ! それで今日の事はチャラだ。いいな?」

「…………」


 言葉が出ないキョウジ。だが沈黙は重苦しいものではなかった。暖かな,柔らかいものが滲んでいる沈黙だった。


「本当に……いいのか? 僕がした事は……許されるものなのか?」

「……この場合,それは僕が決める事だ。そして……それはもう言った。答えはどうなんだ?」


 差し出された手を躊躇いながら――そしてしっかりと,キョウジが握った。伝わってくる温もりが頑なな心に沁み込んでいく。自分を偽らないでいられる日は遠くない――そう感じられた。


「なんだか,いい所を持って行かれたな」

「いいじゃねぇか,別にヒーロー気取りなワケじゃ無ぇだろうが。それともお前はヒーローのつもりだったのか?」

「まさか」


 自嘲気味に笑うイサムと苦笑で返すリュウキ。二人の決着はギャラリーなど不要ない。互いが納得できればそれでいいのだ。だが巻き込まれた者達はそうはいかない。結末を見届けねば納得できはしないのだ。

 二人の周りに魔神使い達が集まり,闘技場から下りた前原達がやって来た。


「いよいよ決戦の時だね」

「僕が言えた義理ではないが――悔いの無いようにな」


 前原が柔和な顔で,キョウジが強い意志を湛えた目でイサム達を見つめた。

 

「はい!」

「最初っからそのつもりでやってきてんだろうが!」


 気合いのこもった返事を返すリュウキと憎まれ口をたたくイサム。あくまでも対照的である。

 アサミが素早く背後に接近し,イサムの後頭部をひっぱたいて二人の腕を掴んで去っていく。もちろん愛想笑いは欠かさない。

 ため息と乾いた笑いが少しだけ空気を温めた。そしてキョウジが深呼吸を一つすると,「自由同盟フリーアライアンス」の二人に向き直ると,精一杯に頭を下げた。


「君達には申し訳ない事をした。本当にすまない……謝って済む事じゃないが,謝らせてくれ……」


 野崎ヒロミチは頭を掻き,池上ユウジは腕を組んでそっぽを向いている。当然と言えば当然の態度だ。騙され使い捨ての道具にされてしまった二人はいい面の皮なのだ。だが三年生のヒロミチは少しだけ大人の態度がとれるようだった。大きく息を吐くと,ゆっくりと口を開いた。


「……まぁ……なんだ,オメェの事情も分からなくも無ぇ。考えてみりゃあんな甘言に乗っちまった俺達もバカじゃぁある。けどよ,さすがに『謝ったからもういいです』なんて訳にゃいかねぇ。それは分かるよな?」

 ゆっくりと顔を上げたキョウジが頷いた。覚悟を決めた男の顔だ。対するヒロミチ達の含みのあるニヤケ顔。そして目を合わせて頷いた次の瞬間、キョウジの足をそれぞれ掴んで引きずり倒した。そのまま息を合わせて回転運動に入る。プロレスで言うジャイアントスイングだ。

 キョウジは両手で頭を抱えて悲鳴を上げているしかできない。本人はあずかり知らないが、その態勢は受け身の取り方として正解だった。この場、とにかく頭部を守らなければならない。


「お、おぉぉぉ……」

「ウワーハッハッハァ! ソ~レソレソレ!」


 力ない悲鳴と全開で調子に乗った哄笑。対照的もいいところな両者を、周囲は笑いながら見守っている。だがいつまでも好きにさせているわけにもいかない。


「二人とも、そろそろ……気は済んだかな? 次の話に移りたいんだが」

「そうか、分かった……じゃぁもう少し!」

「や、やめぇぇえぇぇぇえぇぇ!」


 キョウジの悲鳴と共に三回転してジャイアントスイングは終わりを告げた。乱暴に投げ出される形ではあったが。

 地面を回転しながらスライドしていったキョウジは、眩暈との付き合いが長引きそうだった。前原が肩を貸して皆に向き合う。


「残すは決勝戦だけだ。この際だ、一気に決着をつけてしまおう」


 周囲がどよめく。イサムとリュウキもさすがに目を剥いて顔を見合わせる。


「……と言いたいところだが、時間もある。明日の放課後としよう。二人とも、それでいいかね?」


 一気に緊迫感が消え、イサム達は反射的に頷いた。この辺りは経験の差だ。

 三々五々解散し、部活に入る者、帰宅する者、教室でダベる者と別れていく。その中に生徒会室に集まる者たちがいた。

 前原をはじめとする生徒会メンバー達だ。全員が敗北を喫したというのに、しょげた顔は見当たらない。晴れ晴れとしながらもどこか力を失っている、そんな複雑な表情だった。


「やれやれ、最上級生が揃いも揃って……この様とはねぇ~」

「仕方ないじゃない、結果は受け入れないと」

「まぁ同士討ちというか、仲間内で潰しあってちゃ仕方ないかなぁ~」


 余計な一言を放った高谷コウゾウは女性陣からの刺すような視線に貫かれて沈黙した。「口は禍の元」という諺の意味を痛感した事だろう。

 だが彼らが集まったのはこれまでを総括する為ではない。これからを考える為なのだ。最後に勝ち残るのがイサムにせよリュウキにせよ、Eibonにどんな願いを叶えてもらうつもりなのか。その内容次第では新たな騒乱が起こるかも知れないのだ。場合によっては最終的手段――物理的方法を取らざるを得ないかも知れない。もちろんそうならないに越したことはないし望みもしない。しかし学園の秩序を守る事が役目である生徒会としては、万が一に備えておく必要があるのだ。


「考えすぎじゃないのかなぁ~。そこまで無茶な事は願わないんじゃないのかなぁ~」

「あくまでも備えておくというだけだ。考えすぎで済めばそれに越した事はない」


 キョウジの冷たい声にシヅルが賛意を示した。


「そうね、考えておくだけなら構わないでしょうね。特に空手家の……若園リュウキ君は常識人のようだし、心配はなさそうよね。問題は……」

「上杉イサム君だね」


 前原の言葉に一同が同意した。だが。


「そうは言うけどさ~、幾らケンカ屋だからって、そこまで無茶を願うかな~? 疑問に思わない~?」

「確かに……自分からケンカを売るという事はないらしいわね。でも売られたら無茶をするという話よ」


 議論になった時、コウゾウは事なかれ論や常識論、場合によっては逆に強硬論を主張して意見交換を活性化させるのが役割である。今回もそれによって活発なやり取りが行われ、当初の意見に加えて万が一の事態に備え先手を打つ事が決まった。


「よし、じゃぁ今日はこれで解散としよう。僕は決まった通り、Eibonさんに会ってから帰るよ」


 一同は頷いて解散となった。そして前原は一人Eibonの館で主と――この一連の事態の主犯とも言える人物と対峙していた。


「……と言う事で、もしもですが……上杉君が無茶な願い事をした場合は考慮していただきたいのですが」

「う~む、なんと言うか抽象的な相談じゃな」


 前原の表情が疑問を代弁していた。当然 受け入れてもらえるものと思っていたのだ。ましてや常識と良識の双方に則った要望と考えていたのが、このように言われるとは。


「では……もしも彼が犯罪的、もしくは他者の人権や自由意志、或いは尊厳を侵害する恐れがある願い事をした場合としましょうか」

「それはそれで……ちと考え物じゃな」

「何故です!?」


 Eibonは水煙草のパイプから口を外し、ロッキングチェアからテーブルの上へと飛び乗った。外見からは想像し難い、体重を感じさせない動きだ。だが前原は慣れたもので平然と

目で追っていた。


「例えばじゃ。彼奴が『誰かと両想いになりたい』と願ったとしようかの。それを叶えた場合はどうなる? その相手の自由意思に反するのではないかの? じゃが、お主等の年頃では最もありがちな願い事ではないか? 或いは『ビル・ゲイツのような大富豪になりたい』と願った場合は? 現金を用意するなら魔術で作り出した偽札か、どこかの銀行からアポート(物品引き寄せ)させるしかあるまいの。どちらも犯罪行為を『儂が』して彼奴は共犯或いは示唆じゃな。資源やビジネスチャンスを与えるのなら、年齢の問題もあろうから『今すぐ』ではないからの、約束が違うとなろうて」


 前原は一言もなかった。誰もが考えそうな、ささやかな恋愛成就の願いですら自由意志の侵害にあたる可能性があろうとは。観念的な議論ばかりで実行レベルで考えられなかったのは未熟と言うしかなかった。


「とは言え……儂も他人から恨まれるのはご免被るし、犯罪行為は後味が悪いでの。その辺りの匙加減はするつもりじゃ。安心してくれて構わんぞい」

「しかし……」

「恋愛成就なんぞは儂の専門外じゃ……まぁ知ってはおるでな、多少の効果はあるやも知れん。大富豪にするなんぞ端から無理じゃ。そういうのはネズミの国の魔法使いだけじゃよ」

「よく知ってますね……」


 ではどんな願いなら叶えられるのか。それが気になるところだが、気勢を削がれた前原はそれ以上言質を与えられず辞去する事となった。


「果たしてどんな願いが叶えられるのか……それ次第では更に一波乱あるかも知れないな」


 夕日に背中を照らされながら一人帰路に就く前原の胸中にはなにか、薄闇にも似た不安感が頭をもたげていた。


相変わらず遅い更新ですが、やっとここまで来ました。


よろしければお付き合いください。

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