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魔神学園  作者: 秋月白兎
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Conquer②

日陰キョウジと前原ススムとの過去が今,明かされる。


鬱屈した感情と理性のせめぎ合い。理想と現実。二人の間に横たわった溝は,前原には想像も出来ないほど深く広いものだった。


そして対戦相手のイサムは……?

 日陰キョウジの豹変ぶりに,彼を知る者は動揺を隠せないでいた。これまで幼馴染みの前原に対して敬語を使い,献身的に支えてきた彼が突然,対抗意識――あるいは敵意――を剥き出しにしてきたのだ。驚くなと言う方が無理な話だ。


「……キョウジ……」

「ススム,君でさえ先入観に縛られてしまうとはね。そしてそれに三年間も気付かないとは……失望を隠せないな」


 見下した視線。薄く浮かべた冷笑。爆発しないだけに底知れない悪意が見え隠れする。殆どの魔神使い達と生徒会メンバーはいまだに自分達が目にしている光景を受け入れられないでいた。


「キョウジ……何故……?」

「何故だと? 君は……自分が僕をどれだけ傷つけてきたか分からないのか! いいや分からないだろうな。 だからこそ! 僕は尚更傷ついてきたんだ!」


 二人が出会ったのは三歳の時だった。親同士が仕事の都合で知り合い親交を深めた事で引き合わされたのだった。同い年だった事もあってすぐに打ち解けて親友となり,それ以来の交友が続いてきた。

 だが年齢を重ねるにつれて徐々に違いが明らかになってきた。キョウジは全ての点においてススムに及ばなかったのだ。生まれながらにリーダーシップに溢れ,陽気で気さくなススム。対して自分を主張する事が苦手で好き嫌いがハッキリしているキョウジ。

 容姿においても溌剌として生命力に溢れ,イケメンなススムと痩せぎすなキョウジ。スポーツ万能なススムと運動音痴なキョウジ。

 唯一自信を持っていた知力でさえもススムに及ばないと思い知らされた時,キョウジは人知れず涙した。

 だがそれでも決してススムを憎む事はなかった。自分よりも優れた者に対しては敬意を持って接しなければならない。日陰家の家訓であり,キョウジの人生哲学でもある。それによって自分を保ってきたといってもいい。

 そんなキョウジに転機が訪れた。魔神である。そして一つの計略を考えついた。「自由同盟フリーアライアンス」を唆して暴れさせ,生徒会――ひいては前原への信頼を揺るがせて自分がトップに立つというものだ。平時なら例え魔神の性能で勝とうと難しい事は自分で分かっていた。それだけでは人望は得られない。だが非常時なら事態を収められる者へこそ,信頼と期待が寄せられる事は歴史が証明している。これ以外に前原に勝利するチャンスはなかった。


「僕は今日,ここで! 君を超えるんだ!」


 抑えつけていたが故に歪み,圧力を蓄えてきた感情が爆発した。額には汗が滲み,双眸は粘着質な輝きを放っている。狂気にも似たオーラを纏うその姿は前原をすら圧倒した。誰も声一つ出せなかったのだ――正面に立つ一人を除いて。

 イサムがわざとらしい咳払いをしてキョウジの視線と意識を自分へと引き戻す。


「あ~っと……そろそろ再開しねぇ? 相手をほったらかしといて,そっちだけで盛り上がってんじゃねぇよ」

「ふん。相手にしてもらえなくて拗ねているのか?」

「なにぃ!」


 どこまでも分かりやすい男だ。なら早々に終わらせてやろう――キョウジが攻勢に出た。アフラ・マズダの輝きが一気に膨れ上がったのである。熱波すら放射しそうな輝きはもはやまともにアフラ・マズダの姿を見る事さえ不可能にした。


「ちょっ……そんなのありかよ!」

「出来るんだからありに決まっているだろう! 覚悟しろ!」


 イサムの脳内で警戒警報がフルパワーで鳴り響く。一瞬遅れて大天狗が光り輝く腕に貫かれ――消えた。得意の「質量のある分身」である。


「くそ! 姑息な真似を!」

「出来るんだからありに決まってるだろう!」

「この!」


 いつの間にかアフラ・マズダを囲っていた無数の大天狗を片っ端から薙ぎ払い,打倒し,蹴り飛ばしていく。自分が使った論法をそっくり返されて頭に血が上っているのか,観衆の前で恥をかかされたと思っているのか,遮二無二暴れている――そんな戦い方だ。

 イサムもケンカの経験からその危険さを理解している。こういう時は想像もつかない攻撃をしてくるものだ。意味も無く時間稼ぎをしているわけではない。


「久山先生! ちょっとこっちに来て! 早く!」

「な,何なんだ……」


 野球部顧問の久山教師を呼んだイサムは意外な行動にでた。久山のトレードマークである濃いサングラスを奪ったのである。


「あ,こら!」

「とりあえず貸して! この試合が終わったら返すから!」


 強面のイメージとは正反対のつぶらな両目を伏せがちにして「仕方ないな……」と呟きながら戻る久山の背中を,押し殺した笑い声が叩く。

 そんな場外でのやり取りの間も大天狗の分身は倒されていき,残り二体を残すだけだった。


「もう観念したらどうだ!」

「そりゃどうかな!」


 キョウジの後頭部に衝撃が走った。


「な……おい! それはどういう事だ!」


 イサムが久山から奪ったサングラスをかけているのだ。


「フハハハハ! あんたの魔神がいくら強かろうと,俺の臨機応変さには敵うまい!」

「そんな事をしていいとは決まっていないぞ!」

「してはいけないとも決まっていない!」


 汗を浮かべた顔で前原の方を見るキョウジ。


「まぁ……確かにダメとは決まっていないが……上杉君,恥ずかしくはないかね?」

「全然!」

「……なら仕方な……いや,構わない。続けたまえ」


 挑発的な笑みを浮かべるイサムと,苦虫を噛み潰したようなキョウジ。その間も大天狗の分身は増殖していく。


「ええい,そもそもサングラスは校則違反だろう!」

「今は放課後だ! あんたは海に行ってもグラサンをかけないのか?」

「くっ! だがここは校内だぞ!」

「だから放課後なのは同じだ!」


 反論になっていないが今はこれで十分だ。アフラ・マズダに連続して打撃が撃ち込まれた。キョウジの身体にも衝撃が走る。


「くそ!」

「ハッハハハハ! よく見えるぜ!」


 勝ち誇るイサムを見据えるキョウジ。その眼が座っている。


「なら……こっちもこうだ!」


 アフラ・マズダの指先から細い光が飛び,大天狗の分身を貫いた。ひらひらと舞い落ちる羽根は穴が開き,その周囲は黒く焦げている。


「へっ,光を収束させたビームかよ。それがどうしたってんだ?」

「こうすると言うんだ!」


 ビームを放つ指を一閃させた。光の軌跡が何体もの大天狗を両断し,断ち切られた羽根が幾つも中を舞う。


 ――これはヤバい――


 まさかビームをワイパーのように薙ぎ払うとは思っていなかったイサムの背中を冷たいものが伝い,表情も変わってきた。いつものおちゃらけた顔からケンカ屋の引き締まった,そして危険な物へと。


「もう出し惜しみしてる場合じゃねぇな。一気に行かせてもらうぜ!」

「強がるな! もう君には何も残っていないだろう!」


 イサムの顔が「してやったり」と笑みを浮かべた。


「ま,忘れてるのも無理は無ぇ。俺がそう仕向けてきたんだからな……。さぁ思い出してもらおうか! 13秒間の乱気流サーティーン・タービュランス!」

「!!」


 誰もが,リュウキでさえ忘れていた,イサムが大天狗にプラスしたブースト能力。敢えてそれを使わず隙を突く戦法だけで勝ち続けて来れたの,は本人と魔神の相性が良かったのだろう。

 そして今,封印を解かれた大天狗は圧倒的なパワーとスピードを得てアフラ・マズダに襲いかかっていく。元のパワーが低いとはいえ2000 POINTを超えるFAITHと,今回は八倍に跳ね上がったパワーである。幾らアフラ・マズダとはいえ滅多打ちにされていく。

 そしてとどめの一撃が光り輝く胸板に吸い込まれ,背中から突き出した。

 



今回の更新は特に間が空いてしまいました。PCを自由に使える環境でなくなってしまったので……。

出来る限り早く更新・完結させるつもりです。


よろしければお付き合いください。

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