strategy meeting.
前原VSコウタの一戦が終わり,イサム達はいつもの作戦会議を始めた。気になるのはヴリトラの無敵級の強さと,まだ何も分からない日陰の持つ魔神。
彼らに打つ手はあるのか?
前原VSコウタ戦の余韻冷めやらぬ中,イサム・リュウキ・アサミの三人はいつものハンバーガーショップで次の闘いへ向けての作戦会議を開いていた。夕食時だからなのか最大手のハンバーガーチェーンが不祥事で売上が大幅にダウンした影響なのか,店内はいつもより賑わっていた。
そんな中での作戦会議は大きな声を出さなければ聞こえない。回りに聞かれて困るわけでもないので,遠慮なくやらせてもらっているのだった。
ただ元々カップルであるリュウキとアサミは並んで座り,対面して座っているイサムはどう見てもお邪魔虫にしか見えないのだが,当事者たちは全く意に介していなかった。
「俺よりもリュウキの方がヤバいだろうが,どう考えてもよ」
「そうよね,『アレ』はバリアよりも厄介かも……」
心配するのは二人。腕組みをして考えるのは一人。
「たしかにそうなんだけど……」
腕組みを解いてシェイクを手に取った。
「ヒントはあったよ,高谷先輩が語ったヴリトラの伝説の中に。それと……ウチの猫にね」
「はぁ?」
猫がヴリトラ攻略のヒントになるとはどういう事なのか。イサムとアサミが異口同音に疑問の声をあげていた。
「それよりもイサムの方はどうなんだ? 相手は副会長の日陰先輩だろう。実務はほとんどあの人がやっているそうじゃないか。経験もFAITHも豊富な筈だぞ」
「とは言っても今の俺達程じゃねぇだろうが」
確かにキョウジから感じられるFAITHはギリギリで1000 POINTに満たないものだ。だが自分達は大きなFAITH差をひっくり返して来たという事実がある。今度はこちらがそうならないとも限らないのだ。ましてや相手は魔神使いとしてのキャリアも豊富な筈だし,何よりも実務を取り仕切ってきたのだから実戦経験も自分達よりもあろう。頭の回転もいいだろう事も疑いない。
「う~ん……やっぱり要警戒か……」
「当然でしょ! 日陰先輩の魔神はかなりの基本性能だって話よ?」
「ちょっと待ってくれアサミ,たしか魔神はどれも初期性能は同レベルの筈じゃないのか?」
たしかにEibonはそう言っていた。どういう事なのか,リュウキは問いたださずにいられない。
「そうなんだけどね……例えば大天狗は最初から色々な術を使えるじゃない?」
「ああ,そりゃまぁ……」
イサムは鈍い返しをしながらも漠然と理解していた。そしてそれは正解だった。特殊な能力は乏しい代わりに基本的な能力が高いという事だ。
「トリスタンだって武器が色々とあるじゃない? でも日陰先輩の魔神はそういうのはほとんど無いんだって。その代わり……」
「基本スペックが高いのか……」
リュウキが腕を組んで考え込んだ。
「あのな,お前が考え込んでどうすんだ。つーかよ,それなら俺が戦いやすいタイプの相手なんじゃねぇの?」
イサムはあくまでも楽観的だ。確かにトリッキーな戦い方を得意とするイサムにとってはやりやすいのかも知れない。だがそれだけなのだろうか。それだけでシヅルやマドカの上にいられるのだろうか。
「そりゃまぁ副会長だし,立場的にもそうなるんじゃねぇの?」
「それならいいけどな……」
「でも油断だけは禁物よ?」
「分かってるって!」
ハンバーガーショップを後にしてリュウキはアサミを送っていき,イサムは自宅に戻っていった。
部屋に入ると鞄を投げ,ベッドに転がる。壁のポスター――砂漠と岩山,そして太陽が写っているだけだ――を眺めながら考える。
この一連の出来事は自分にとってどんな意味があるのか。最後の勝者になれば願いが一つだけ叶うが,ただそれだけなのだろうか。もしそうなら次で負ければ……何の意味も無かった事になる。だがどうしてもそうは思えなかったし,思いたくもなかった。ならばどうする? 答えは簡単だ,勝てばいい。そして自分のやった事に自分で意味を与えればいい。それだけの事だ。
腹を括ったイサムは対策を考えようとして止めた。相手の能力や傾向が分からないなら考えるだけ無駄だ。それよりは大天狗の能力をどう生かすかを考えた方がいい。そして何よりもベストな状態で戦いに臨む事だ。
「よし,今日は早めに寝よう」
まるで緊張感のない結論に達したイサムだった。
翌日。普段通りに過ごしている――と思いきや,休憩時間毎に一人になり腕を組んで考え込んでいるイサムの姿があった。リュウキはというとこちらは本当に普段通りに過ごしていた。やはり「試合」というものに慣れているのだろう。
そして時間は流れ,放課後放課後となり,決戦の幕が上がった。
相変わらず遅いですね,更新が。ぼちぼち大詰めなんだからちゃんと書かないと……。夏休みのうちにどれだけ書けるのかが勝負!




