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魔神学園  作者: 秋月白兎
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boys meets oldman ①

「風変わりな男」が消えてから約三年。


今,運命の歯車が回り出す!

 奇妙な男が商店街に現れてからしばらくの間は、「商店街に消えた男」の怪情報が人々の口の端に上った。

 いわく、「実はジェ○イの騎士だ」「遅れてやって来た最終戦争の戦士だ」「シャンバラから秘密結社を作るためにやってきたグランドマスターだ」「地底世界アガルタの住人で、人類に真のアセンションを促すべく活動している」等々……。

 だが口さがない人達はすぐにそんな噂も忘れ、新たなネタに食いつく。その絶好のネタは翌年から現れたのだった。


 

 時は流れ2024年4月半ば――商店街にほど近い県立S高校。新入生も、進級した上級生たちも新しい生活に慣れた頃。放課後の第一校舎の裏に不穏な空気が漂っていた。薄暗く湿った空気と人目の無い独特の雰囲気。湿った土には雑草が点在していて、手入れが行き届いていない事が見てとれる。

 そんな中、塀際で一人の生徒が三人の生徒に囲まれていた。襟章から一年生が上級生に絡まれているのだと分かる。

「いや……先輩、誰にも言いませんから……その……」

「ああ? どこの誰かも分からねぇ奴の言う事なんざぁ、信用出来るわきゃねぇだろうが」

「そうそう、お前がうっかり口を滑らせたら俺達の進学に差し障りが出るんだわ」

「だから保険として、口止め料を払ってもらおうか。なぁ?」

 ヤンキー風の上級生達がゲラゲラ笑い出す。この一年生はここで待ち合わせをしていたのだが、運悪く一服していた上級生達と鉢合わせてしまったのだった。

「あの……口止め料って、普通は黙ってもらう側が払うんじゃ……」

「ああん!? なんだオメェ! 先輩にたかる気か! ああ?」

「いえ、そんなつもりは……」

 一年生にしては肩幅もあり、身長も低くはない。だが色白の優しげな顔立ちは、ヤンキー達にとって格好の餌食だった。

 ――さてどれだけ巻き上げようか――肉食獣の獰猛さがヤンキー達の頭を支配した時。

「おーリュウキ、待たせたなぁ」

 全ての雰囲気をぶち壊すノーテンキな声が響いた。

「イサム!」

 絡まれていた一年生の顔がパッと輝いた。イサムとは声の主の名か。

「ああん? なんだオメェは! 関係ねぇ奴は……」

 ヤンキー達の凶悪な視線が声の主に集まる、その一瞬前。イサムと呼ばれた少年は猛犬の如くダッシュしていた。ヤンキー達の真ん中に突っ込むと同時に、くぐもった打撃音が二度続く。肉を殴打する音だ。続いて湿った物を叩きつける音と「ゲロッ!」という気持ち悪い声が響く。

「うわぁぁぁ! 何だこれは!」

「ウシガエルだけど。そんな事も知らねぇの? セ・ン・パ・イ」

「そういう意味じゃない!」

 どこに隠し持っていたのか、三人目の顔面にウシガエルを叩きつけたのだ。

「このガキ、ふざけやがってえぇぇぇ!」

 ウシガエルを投げ捨てて拳を振りかぶる。だがイサムは拳の動きに吸い寄せられるように一歩踏み込んだ。上級生が思いっきり振りかぶった右拳を自分の右手のひらで突き、バランスを崩させる。すかさず右足を跳ね上げ――股間を直撃した。

 呻き声をあげ、酔っ払いのように倒れ込むヤンキーを見下ろしながら、傲然と問いかける。

「まだやるの? 先輩」

「テメェ……ぶっ殺す……」

「待て!」

 一人が制止した。

「こいつ、噂の『ケンカ屋 上杉』だぞ」

「なに!?」

「一人で他校のヤンキー十人を血祭りにあげて、全裸にひん剥いたあげく国道に放り投げたっていう、あの凶悪な上杉か!」

 イサムは苦笑しつつ肯定した。

「そうだ、『あの上杉』がどの上杉かは知らないが、多分その上杉であろう上杉はこの上杉だ」

「え~っと……」

 どこまでも人を食った物言いである。ヤンキー達も普段なら何の事はない筈の内容なのだが、完全に上杉に飲まれていたためか、訳が分からなくなっていた。毒気もすっかり抜かれたようだ。

「……とにかく! 行くぞみんな。それとテメェら一年坊主! 覚えてろよ!」

 タンキー達がお決まりの捨て台詞を残して去っていくのを見届けて、上杉が絡まれていた一年生に向き合った。

「リュウキ……お前なぁ、自分で片付けろ。空手二段のくせによ、あんなの楽勝だろうが」

「仕方ないだろ、僕の拳は凶器なんだから。それに、ああいう時はイサムのケンカ殺法のほうが有効だ」

 よく似た体格の二人だった。百七十センチ辺りの身長、筋肉質な体型、60kg台半ばの体重。だが後から来た上杉イサムは日焼けした顔に、ややくせ毛気味の黒髪がよく似合っている。目立たないが、左顎に小さな傷跡があった。かつてのケンカで付いたものだ。

 一方の絡まれていた若園リュウキは色白の大人しそうな顔立ちとサラサラヘアーがマッチしている。どちらもいわゆるイケメンの部類に入るだろう。

「それよりもイサム、お前どこでウシガエルを?」

「いや、テニスコート脇の溝にいたんだよ。なんか鳴き声がするなぁと思っていってみたらよ……。んで、対リュウキ用の奇襲兵器になるかなぁと」

「……なんで僕が奇襲されなきゃいけなんだ」

 もっともな疑問である。気にしていないのは奇襲兵器を用意した本人だけだろう。

「それよりも問題なのはさっきのデタラメな噂話だろうが。何が悲しくて野郎を裸にむかなきゃならんのか……まぁ『国道に放り投げた』ってのは個人的にウケたから構わんけど」

 先刻の不良が言っていた噂話の事である。実際にぶちのめしたのはヤンキー三人でしかない。それでも三対一で圧勝したのだから十分凄い。だが本人が「人をおちょくるのが何よりも大好き」という困った性格なせいか、内容が誇張されて話が広まってしまっているのだ。

「そんな事を言ってるから尾鰭が付くんだろうな。それよりも頼んでおいたアレは?」

「おう、例のブツか。ちょっと待て、手を洗ってくる。さすがにウシガエルを触った手じゃぁな」

 イサムを見送ったリュウキは、いかにも待ちきれないといった様子でウロウロしている。ウシガエルは何処かへ行ってしまったようだ。

 程なく帰って来たイサムは、胸の内ポケットから封筒を取り出した。

「ほれ、例のブツだ」

「待ってました!」

 ひったくるように受け取ると、リュウキは封筒から一葉の写真を取りだした。

「おぉぉぉ! ナイス! サンキューだイサム!」

「全く、お前の彼女も変わってるな。写真はおろか写メもプリクラも一切ダメだなんてな。普通は撮りまくるもんだろうが」

「何か事情があるんだろうさ。ああ、これで念願が叶った……」

 リュウキの彼女である水川アサミは、イサムも少し羨ましくなる美少女であるが、何故か写真等に写る事を極端に嫌っていた。理由は誰も知らない。リュウキがどれだけお願いしてもアサミは応じてくれないので、イサムを通して写真部の者にこっそりと写してもらったのである。「校内の日常」を撮影するという名目で写した中のワンショットであり、「その一部を少々拡大しただけ」である。「盗撮」と言われかねないが、ギリギリで言いわけができそうなラインである。

「交友範囲が広い割に、写真部の知り合いがいないんだな」

「誰がどの部活をしているかなんて、確率の問題だよ……うん?」

 写真の中のアサミはいつものアサミだ。間違いない。だが、その瞳の色がやや金色っぽく写っている。普段は淡いブラウンなのだが――きっと光の加減だ――そう結論した。

「どうした?」

「いや、何でもない。そろそろ行こう」

 今日はイサムはアルバイト、リュウキは町の空手道場に通う日だった。二人が歩き出した所へ、一人の男子生徒が姿を現した。百八十センチはある長身。日焼けした肌に、やや明るめの髪が似合うイケメン。生徒会長の前原ススムである。

「前原先輩……」

「どうしたんスか? こんな所に……あ、女子と密会とかっスか?」

 バカな質問は、無論イサムである。

「……違うよ。さっき生徒会室に報告があってね、ここで一年生が上級生に虐められていると聞いたんだ。で、僕しかいなかったんでね、飛んで来たってわけさ」

 どうやら目撃者がいたらしい。目撃者を同行させなかったのは、復讐のターゲットにさせない為の配慮だろう。

「ああ……」

「それなら、通りすがりの正義の味方が解決してくれたっスよ、うん」

 返答に困ったリュウキをくだらない冗談でフォローするイサム。ススムも気を削がれたようだ。大きな溜息を一つ吐く。

「ふ~ん、まぁそういう事にしておこうか。僕の『アレ』を使わなくてすんだのなら、それに越した事はない。さ、気を付けて帰りたまえ」

 二人は前原に別れの挨拶をして、その場を後にした。正門を出て東へ曲がり、寂れた商店街を歩く。

「まさか前原先輩が来るとはね」

「あの人が『アレ』を使ったらなぁ……ヤンキー共が気の毒だろうが。俺がぶちのめして正解だったってわけだ」

「……一年坊主にやられるのも、十分に気の毒だけどな」

 前原と、そして二人が言う「アレ」とは。S高校の生徒なら誰もが知っている。初めて見た者は、一様に言葉を失うか腰を抜かすかだ。

 羨ましくもあるが、自分の力だけを恃む二人はそれ以上は話題にせず、気分を切り替えた。 

「……そういや、アサミちゃんは普通に部活か」

「ああ、吹奏楽部は真面目に練習してるよ」

「つっても大した成績はあげられてないだろうが」

「……空手部自体が無い僕はどうするんだよ」

 彼らが通うS高校には空手部が存在しない。なので「学校での実績」がゼロのリュウキには部の成績をどうこう言えないのである。

「お前は流派の大会で県上位に入ってるだろうが」

「でも学校では無名だよ。どこかの『ケンカ屋』と違ってね」

 お互いに憎まれ口を叩きながら歩いていると、ふと左側から奇妙な感覚を受けた。まるで磁石が引き寄せあうような、体の中を引っ張られる感覚。それを二人同時に感じたのだ。

 顔を見合わせていぶかしむ二人。

「……なんだったんだ? 今のは」

「イサムも感じたか。なんだか左の方から……」

 左側を見て二人とも言葉を失う。体をねじ込んだら身動きが取れなくなるであろう隙間に、広大な空間が広がっているのだ。一面に広がる芝生と奥手側に茂る森。その手前に石造りの小さな建物がぽつんと建っている。

 生まれた時からこの町に住んでいる両者だが、市内にこんな場所があるとは聞いた事もない。

「なんだよこれ……」

「ここはこんなんだっけ……?」

 そこは既に空家になっている元時計店と洋服店の間――三年前に風変わりな男が姿を消した場所だった。


 予定通り(約)一週間で更新できました。いきなり送れなくて一安心です。

さて、イサムとリュウキがどうなりますやら、乞うご期待!

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