表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔神学園  作者: 秋月白兎
21/40

beauty vs beast

とうとう始まったシヅル対マドカの一戦。 

野次馬の好奇心を歯牙にもかけず,憎しみの炎に囚われたマドカの猛攻が始まる!

 翌日のマドカは荒れていた。話しかけられただけで大声をあげて怒り,誰彼構わず食ってかかり,その状態は時を追う毎に悪化していった。午後には字を書き間違えただけで大声で叫び机を殴りつける始末だ。

 公然の怨敵であるシヅルがいつもの通り――いや,いつも以上に冷静な態度であるだけにマドカの有様が際立ち,例の噂についての憶測を呼んだ。

 つまり前原ススムを巡っての恋の鞘当てである。マドカは周囲にもそれと分かるほど態度や行動に現れていたが,シヅルはそれらしい態度や行動を現した事はない。むしろ恋愛に関しては淡白なタイプと思われている。

 一度だけ取っ組み合いの争いになったのも,マドカが突っかかって行ったからである。

 実際のところ,前原とシヅルの関係は誰にも分からないのだ。絶対的と言っても過言ではない程の信頼関係は見てとれるが,慣れ慣れしくする事もないし,二人だけで話し込む事もない。周りには極めて事務的にみえるのだ。

 だからマドカがケンカになるほど突っかかる理由が,周囲には分からないのである。嫉妬にしても度を超えている。一体何故なのか――その理由が明らかになるのかも知れない――マドカの周囲の者はそんな期待を胸に,放課後を待つのだった。


 放課後を迎えたグラウンドには闘技場が黒光りする威容を現し,その周囲を取り囲むようにわらわらと人だかりが出来ていた。

 いつものように魔神使い達が最前列に陣取っている。今回に限ってざわめきが大きいのは,初の――そして最後の――女性同士による一騎打ちだからだ。やはり特別な雰囲気が場を包んでいる。なにか「一つの破局」が訪れそうな予感とでも言うべきものが一面を覆っていた。

 そんな会場の空気を優雅に揺らしながら,アサミの魔神アストライアが闘技場の前に進む。ただ歩いているだけでも着衣の下の優美な肢体が浮かび上がり,男女を問わず視線を釘付けにしてしまう。

 アストライアが闘技場に着くと,今回の闘技者――シヅルとマドカがコールされた。

 マドカは豊かな胸を反らしてギャラリーの声援に応えた。が,シヅルは控え目な胸を反らすというよりは背筋を伸ばしたまま,マドカから視線を離さない。

 マドカはショートヘアを軽く流して可愛らしさを強調し,シヅルはポニーテールが綺麗にまとまって育ちの良さを感じさせる。体型や態度から髪型に至るまで対照的な二人が魔神を現し,闘技場の中に進めた。 

 マンティコアはいきなり巨大化した状態で現れた。その巨躯が威圧する。それだけではない,「人面ライオン」とでも言うべき恐ろしげな顔がギャラリー側を見るだけで,潮が引くように一同が後退る。

 アルテミスは前回と何も変わらない。左手に白銀の装飾が施された弓を携えているだけだ。白いペプロスを短くたくし上げた姿もそのままだ。 

 恐怖その物とすら言える巨獣と艶やかな肌も露わな女神。この世ならぬ光景がそこにあった。

「では……始め!」 

 前原の号令が飛ぶ。マドカの顔が歪み,怒声をあげる。これが本当にマドカなのか。年齢よりも幼い,まだあどけなささえ残るあのマドカなのか。誰もが己の眼と耳を疑った。。

「食うぅらえぇぇぇ!!」

 胸の中のマグマを吐きだすような叫び。マドカがこんな声を出すとは。

 それが耳に届かないのか,シヅルは見られたものが凍結するような冷たい目で,闘技場に視線を送り続ける。

 マンティコアの尾が闘技場に穴を穿つ。その穴一つでアルテミスが三人ほども入ってしまいそうだ。

 見ているイサムが顎の傷跡を弄りながら首を傾げた。リュウキも気付いたようだ。

「リュウキ,これって……前回と違うだろうが」

「ああ,どちらかへ追い込むってワケじゃなさそうだな」

 攻撃位置に規則性がないのだ。敵を右に追い込むのであれば,動きを先読みして敵の左側に攻撃を入れなければならない。あからさまでは作戦を読まれるのでランダムに反対方向も入れるが,今回のマドカはどう見ても何も考えていない攻撃なのだ。


 この時マドカは,誰にも想像できない憎しみに支配されていた。まともな思考が出来ない状態だったのだ。

 感情任せに闇雲な攻撃を繰り返すマドカの胸に,これまでの事が蘇る。初めて出会った一年生の春。その時は気にも留めていない,名前も聞かない,シヅルはそんな存在だった。

 マドカは両親から常々「女の子は男の子に守ってもらわないといけない。男の子は女の子を守ってあげなくてはいけない」と言われ育ってきた。故にマドカが男子を見る際の最優先事項は,「自分を守ってくれるかどうか」だった。逆に男子に守ってもらう気が全く見えないシヅルは,マドカの判断基準からすると最低ランクの女子だった。

 だが月日が過ぎるごとに状況は変わっていった。徐々にシヅルの評価が上がり,マドカを追い越すに至った。教師からの評価,クラス委員長への推薦と就任。それらは全て常に真摯な態度と確かな判断力,そして優しさからくるものだった。そしてその頃には男子からの人気も高まり,ラブレターの数も眼に見えて増加していた。

 マドカにとってシヅルは自分の価値観に反する存在として大きくなっていった。

 そこに一石を投じる物が現れた。前原ススムである。力に溺れた上級生の魔神使い達を単独で撃破して,学園内に平和と秩序を取り戻したヒーローとして現れたのだ。前原の実力と誠実さが圧倒的なFAITHを集め,撃破された上級生達は対照的にFAITHを失っていった。その働きにより,特例として(当時の生徒会長の強い要望もあって)二年生に進級すると同時に生徒会長に就任した。

 マドカにとっては紛れも無く「白馬の王子様」だった。父は銀行の頭取で,その長男。その上ハンサムで長身スマート体型。さらにスポーツ万能というこの上なく理想的な男子だった。マドカが物心ついた時から待ち望んだ運命の相手――マドカはそう確信した。

 だが守ってもらう為には,最も近しく,最も愛しい存在にならなければならない。距離を縮めるために,前原が主宰する生徒会へ入ろうと選挙に立候補した。立候補者への説明会の席でマドカは想定外の人物――シヅルを目にしたのだった。


 不愉快な記憶とも戦うマドカの攻撃は続く。だが一向に当たらない攻撃に業を煮やしたか,更に雑な動きになっていった。もはや狙いさえ付けているとは言い難い。そしてそれを見逃すシヅルではなかった。

 アルテミスの動きと逆方向へとマンティコアの尾が向かった瞬間,一気にアルテミスをダッシュさせた。巨大なマンティコアの下に入り込むやいなや,体勢を入れ替えて左前脚の付け根に矢を放った。まさに電光石火の早業である。

 空気を切り裂いて飛んだ矢は,狙い違わず関節を射抜いて見せた。痛みに暴れるマンティコアに踏み潰されぬよう,闘技場の端へと滑るように移動したアルテミスと,魔神視点で見ていたシヅルは驚くべき物を目にする。

 それはマンティコアの牙だった。

「くっ!」

 なんとか横っ跳びでかわすアルテミス。だが息をつかせる暇も無く追って来る巨大な牙。飛び,転がり,走ってかわすが,それでもひたすらに追いかけて来るマンティコアの凶暴な,そして巨大な顔。牙が噛み合う度に耳障りな衝突音と,生温かい呼気が降りかかって来る。

 ギャラリーはやんやの大喝采だが,シヅルはそれどころではない。この凶獣をなんとかしなければならないのだ。

 シヅルの目が鋭い光を反射した。マンティコアの牙をかわしたアルテミスの位置がこれまでよりも遠くなる。サンドブラストで使う風に乗ったのだ。

 着地した時にはもう,矢をつがえていた。迫りくるマンティコアの口の中に放たれた矢は喉の奥に突き刺さった――が,それでも攻撃は止まらなかった。痛みを感じていないのか。

「このおぉぉぉ!」

 マドカの絶叫と共にマンティコアの顎がアルテミスを捕らえた。

今回は切りの良いところで更新です。 

よろしければご意見・ご感想をお聞かせ下さい。 


8/27 改稿。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ