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魔神学園  作者: 秋月白兎
15/40

determination

リュウキとケンジの対戦後,Eibonの世界を訪れた魔神使い一行。

そこで新たな決意がなされるのだった。

 冷え冷えとした石造りの部屋で,初老の男が大勢の若者達に囲まれている。詰問されている真っ最中だ。初老の男はEibon。囲んでいる若者達は前原をはじめ12人の魔神使いとアサミだ。

「Eibonさん,これはどういう事なんですか? 僕達が操る魔神はあくまでも『器』に過ぎないから,何度でも復活するはずでしょう」

 前原が先頭にたって問い詰めるも,Eibonはのらりくらりといなしてしまう。

「おう,そう言えば言っておらなんだのう。いやウッカリしとったわい,すまんすまん」

 軽い調子で謝られても,「話が違うじゃないか!」と怒っている相手に通じるはずもない。むしろ火に油を注ぐだけだ。そして真っ先に注がれてしまったのが――イサムだった。それまで左顎の傷跡を弄っていた手を止め,腕まくりをしながら前に出た。

「ちょっと待てジジイ! それが謝る態度か!」

「実際に謝っとるんじゃから謝る態度じゃろう」

「こんのぉぉぉ!」

 湯が湧きそうな程の熱気を撒き散らしながらイサムが掴みかかる――が,フワフワとした感覚を残してすり抜けてしまった。

 たたらを踏んでなんとか持ちこたえる。

「忘れたかの? ここにいるワシはアストラル体じゃぞ。感触こそあれ,捕まえるなど不可能じゃ」

 踏ん反り返って見下ろすEibon。それを見て溜息を吐く一同。だがイサムの攻撃的な双眸は,まだ光を湛えたままだ。

「ほう。じゃテメェにも『感触』はあるってワケか」

「まぁの。そうでなければ何かと不都合があるでな」

 そう聞いた瞬間,イサムの手が動いた。

「ぬぉほほほ! バ,バカ者め! 何をするんじゃ!」

 Eibonが身をよじり,数歩さがった。いきなり腋の下をくすぐられたのだ。

「いやぁいい事聞いたぜ。これから……お仕置きタ~イムだ」

 十指をワサワサと動かしながら迫るイサムに,ヨウスケが同調した。

「俺もやるぞ! おらぁ!」

「おぉ,話が分かるじゃねぇかアンタ! いくぜ!」

 前後から挟んだ体勢で,勢いよく同時に襲いかかる。そして――すり抜けた。

「……!」

「……!」

 重い石をぶつけたような鈍い音をたてて,両者の額が激突したのだ。二人とも痛みのあまり声が出せない。

「……じゃから言ったろう。ワシはアストラル体なんじゃ,すり抜けると何度言ったら分かる? お主ら張り切り過ぎじゃ」

また一同から溜息がもれる。今度は諦めにも似た感じが強いようだ。

「……テメェなにしやがんだ! おらぁ!」

「お,俺が悪いのかよぉ!?」

 掴みかかるヨウスケ。逃げるイサム。何故かこの二人の追いかけっこが始まってしまった。

「待ておらぁ!」

「だから何で俺があぁぁぁ!」

 賑やかなやり取りをBGMに,前原は話を進める事にした。彼らに構っていては話がすすまない。

「……それではEibonさん,この戦いで負けた魔神は全て『ああいう事』になると考えていいんですね?」

 敢えて「死んだ」と言わないのはケンジに対する配慮だが,当のケンジが気付いたかどうか。

「うむ,そうじゃ。じゃがまぁ,安心せい。別に死んだわけではないからの。あれはあくまでも像を依り代として,力を宿らせただけじゃからして」

 ケンジの顔がパッと明るくなった。だがそれも長くは続かなかった。

 Eibonはこの戦いを最後に,この時代を去る予定なのだ。それに伴って魔神も回収する。敗北した魔神は全てその場で――ワイバーンと同じ事になる――,最後に勝ち残った魔神は願いを叶える時に回収すると告げたのだった。

「そんな……一方的過ぎるじゃありませんか!」

日陰キョウジが高めの声を張り上げた。だがEibonは悠然たるものだ。

「ならば聞くが……お主ら,いつまでも魔神を使い続けられると思っておったのか?」

 そう言われては黙るしかない。モラトリアム故の甘い考えだったのだ。

 Eibonはあくまでも自分の目的のため,地球を旧支配者の手による破滅から救う為の手段として魔神を貸し与えているに過ぎないのだ。決して慈善行為や教育としてやっているのではないのだ。

「じゃぁよ,Eibonの爺さん。俺達ゃあんたにいいように使われるだけだって事か?」

 コウタが一歩前に出て睨みつける。

「そこまでは言っておらん。それに最も多くのFAITHを集めた者――要するにこの戦いに於ける最終的な勝者――には,願いを一つだけ叶えると言ったはずじゃ」

 イサムとコウタを除く全員が毒気を抜かれた顔になった。魔神の消滅という現象に気を取られ,当初の条件を忘れていたのだ。ショッキングなシーンを目の当たりにした事もあるのだろうが,迂闊と言うほかなかった。

「ではEibonさん」

 生徒会書記の川上シヅルが前に出た。長いポニーテールが揺れる。

「願い事の件は,貴方から我々に対するせめてもの誠意――とみていいのかしら」

「うむ,それで構わんとも」

 これでシヅルが納得したのかどうか。その表情からはうかがい知る事は出来なかった。

「分かりました,それで結構です。私はこのまま参戦します」

 驚きの声は,主に生徒会側から上がった。皆それぞれ目的をもって魔神使いになったとはいえ,想定外の事態に直面して決意がぐらついているというのに――まさか女性が最初に参戦継続を表明するとは。

「どうせEibonさんがその気になれば,いつでも魔神を回収できるのでしょう。だったら……せめて願い事ぐらい叶えてもらわないと……損だわね」

 ――どうせ誠意なんかではなく,餌に決まっている――そう読んでいたが,そんな事はおくびにも出さず微笑んでみせた。大したものである。

 シヅルに引っ張られたのか飲み込まれたのか,皆が口々に継続参戦を表明した――イサムもだ。

 いつの間にか追いかけっこを終え,こちらに来ていたのだった。荒い呼吸を整えようとしているのだろう,深い呼吸を繰り返しながら汗を拭っている。身体から湯気が立ち上っていないのが不思議なぐらいだ。

「俺も……やるぜ。アンタの思惑なんぞ……関係ねぇ! 俺は……俺の目的のために……やるぞ!」

「うむ。では……そっちでへたばっておる坪田よ。お主も参戦という事でよいな?」

 Eibonの視線を追うと,数十メートル向こうで天井を仰いで荒い呼吸を繰り返しているヨウスケがいた。Eibonの言葉に頷き同意を示している。

「ならば決まりじゃの」 

 Eibonが手を叩いた。

 

 二十分後,イサムとリュウキ,アサミはハンバーガーショップにいた。Eibonの世界を出てから解散し,まだ日が高いのと,今日は道場もアルバイトも休みという事で,これまでと今後について話し合う事になったのだ。

 それぞれのセットメニューを受け取り,テーブルに揃ってから,口火を切ったのはイサムだった。

「なぁアサミちゃん,なんで今まで黙ってたんだ? 俺達も同じ魔神使いになったんだから,黙ってる必要はなかったんじゃねぇの?」

「おいイサム」

 無遠慮に過ぎる問いかけを,リュウキが咎める。が,アサミは予想していたのか,動じる様子を見せなかった。

「あ,いいのよリュウキ君。当然の疑問だしね……全て話すわ」

 一呼吸おいて,手にしていたシェイクも置いて姿勢を正した。

「正直ね……リュウキ君達が闘う事になるとは思っていなかったし……なんだか,皆を戦わせているような……そんな気になってしまって……」

 気の優しい女の子なら確かにそうなるのだろう。イサムも納得した。何よりも引き受けた時点では,現実感もなかった事だろう。そう考えれば尚更だった。

 イサムはもう一つの問いを投げかけた。深刻ではないにせよ,記憶の中で刺のように引っ掛かっている問題。

「もう一ついいか? 前原先輩が言ってたよな,アサミちゃんと前原先輩は『俺達と同じようなものだ』って。確か噂じゃぁ最初の魔神使いって……」

 リュウキが目を見開いてアサミを見た。

「前原先輩だ……それじゃぁ!?」

 アサミが小さく頷いてみせた。

「実はね……最初に魔神を授けられたのは……私なの」

「ええ!?」

「なぬ!?」

 Eibonがやってきたのが2021年。その直後に魔神を授かったのがアサミであり,話を聞いている最中にやってきたのが前原ススムだったのだ。

 二人は入学前から全体を貫く根本的な計画を聞き,それぞれに役割を与えられた。前原は矢面に立ち,全体の流れを誘導し,アサミは最終バトルの審判とFAITHのリアルタイムコントロールを担う。その為にアサミは特殊な魔神を与えられ,前原は時間をかけて魔神を選ぶ事ができたのだった。

「なるほどね……それが前原先輩の強さの一因だったのか。人望や実績によるFAITHも大きかろうけど,それ『だけ』じゃなかったんだな……」

 リュウキが納得する。

「確かに重要な要素だわな」

 イサムが腕を組んで頷く。実際には大した事を考えているわけではない。ただ納得しているだけだ。

 リュウキもただ話を聞いているだけではない。ハッキリさせなければならない事があるのだ。

「僕からも一つ聞きたい事があるんだけど……いいかな」

 アサミからのOKをもらって,かねてからの疑問をぶつけてみた。何故かたくなに写真を撮らせなかったのか。もしかすると,魔神と関係があるのかと。

「うん,もう知っておいてもらった方がいいわね。実はね……魔神使いになると,写真を写すと瞳の色が変わってしまうの」

「やっぱり……」

「そうなのか……」

 瞳の色はそれぞれの魔神の象徴的な色に変わる。アサミの場合はアストライアが持つ黄金の天秤を象徴する金色になっていた。イサムが写真部の級友に頼んでGETした写真は確かにそうなっていた。

 ならば試してみるしかない。イサムとリュウキはそれぞれに,ケータイで自分撮りを試した。結果,リュウキは瞳が銀色っぽく変化していた。

「これは……甲冑の色かな?」

「もしかしたら剣の色かもね。イサム君は?」

 イサムはケータイを見つめて考え込んでいた。

「ちょっと待ってくれ,もう一回」

 再び自分撮りをして,また考え込んでいる。

 リュウキ達が画像を見せてもらうと,特に瞳の色が変わったようには見えなかった。

「なぁアサミちゃん,全員が変わるってワケじゃねぇんじゃねぇの?」

「う~ん,皆が変わると聞いたんだけど……」

 アサミが形の良い眉をひそめて考え込む。その時,リュウキが気付いた。

「よくみたら……少しだけ色が淡くないか?」

 三人揃って画像を覗き込む。リュウキとアサミが画像とイサムの瞳を繰り返し見比べ……確かに,僅かだが違うと結論した。

「いや,なんでだよ! 大天狗といやぁ赤い顔か……せいぜい葉団扇だろうが!」

 三人して考え込んでしまった。天狗でやや淡い茶色……何があるだろうか。数分後,アサミが声をあげた。

「分かった! この色,下駄じゃないの?」

「下駄!?」

「はぁ!?」

 言われてみれば,確かにそれしかない。しかし,よりによって下駄とは。イサムがガックリと肩を落とす。

「なんでまたそんな……」

「まぁ確かに象徴的ではあるけど……」

「地味よね……」

 誰ともなく笑い始めた。三人揃って笑い転げる。周囲の視線も気にならない程に笑い,アサミは涙まで流しながら笑い続けた。

 本来のアサミは快活でよく笑う女の子だったのだが,リュウキ達が魔神使いになって以来すっかり笑わなくなっていたのだ。

 リュウキとイサムは,久しぶりに見たアサミの笑顔に懐かしさと安らぎを感じたのだった。

「まぁいいや,今さら愚痴っても仕方ねぇ。絶対に勝ち残ってEibonに土下座させてやる!」

「いや,僕も負けるわけにはいかないし,今のところリードしているのは僕だぞ」

「頑張ってね,二人とも」

 アサミに方を叩かれて気合を入れ直す二人。仲がいい反面,負けられないライバルなのだ。

 ハンバーガーをパクつきながら,写メを眺めて改めてイサムは思う。

「それにしても……変わり映えしねぇな……」




 


GWなので,頑張って更新です。

もう一話書ければいいんですが……。

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