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魔神学園  作者: 秋月白兎
14/40

Battle in bubble ③

いよいよ始まった公開バトル。 

リュウキとケンジの因縁に終止符が打たれる。

が,その後に意外な現象が……。

 前原に指示されるまま、リュウキとケンジが闘技場の両端に立つ。アサミの魔神アストライアが闘技場の奥手へと移動し、黄金の天秤を掲げた。

「では……これより第一試合を始める。両者、魔神を」

 リュウキのトリスタンとケンジのワイバーンが現れ、闘技場へと上がった。そこは周囲への安全配慮の為にEibonの結界で追われていた。中に入るのも魔神だけだ。本体は結界の縁に陣取り、魔神を操作する事になる。

「二人とも……準備はいいかね?」

 前原の問いに二人が頷く。同時にトリスタンはランス(突槍)とイージスの盾を構え、ワイバーンは翼を広げた。

「では、始め!」

 前原の凛とした号令と共に、ワイバーンが一気に上昇した。風を巻いて飛び立つワイバーン。

 だが、およそ五十メートル程の高度で見えない壁にぶつかり跳ね返された。激突したあたりの空間が淡い虹色に輝いた。Eibonの結界にぶつかったのだ。そのまま四方八方に飛んでは結界にぶつかり跳ね返され、周囲に虹色の輝きを撒き散らした。

「なにやってんだケンジ! おらぁ!」

 ヨウスケがだみ声で怒鳴る。怒りで顔が真っ赤に染まっていた。イサムの大天狗といい勝負なほどだ。

「まぁったく、あのアホが……」

 コウタも呆れている。ケンジに「メチャクチャに暴れろ」と言ったのはコウタ自身だが、それはメチャクチャに飛べという意味ではないのだ。

 それでもコウタはしっかりと観察していた。ワイバーンが激突している個所を繋ぐと、結界の広がりが大まかにだが推測できる。

 直径約四十メートルの闘技場の上に、高さ約五十メートルの結界がすっぽりと被さっている形だ。やや縦長の泡が乗っているようなものである。

 ワイバーンが高速で激突しても問題はなさそうだ。相当な強度なのだろう。とはいうものの,このまま結界にぶつかっていたら、自滅するだけだ。

「いい加減に……」

 コウタがじれ始めた時、ようやくワイバーンが攻撃に移った。

「いくぜ! 円楽の騎士ぃぃぃ!」

「円卓だって!」

 リュウキの訂正を無視してワイバーンが襲いかかる。電撃を纏い空気を切り裂いて、トリスタンめがけて突っ込んだ。

 鈍い衝突音が響き,ワイバーンが弾き返される。イージスの盾が難なく防いだのだ。ワイバーンが旋回して間合いをとり,再び襲いかかる。が,それもまた弾かれた。

 この時点でケンジのFAITH POINTは,ようやく70を越えた程度だった。すでに300ポイントに迫ろうかというリュウキとは大きな差が開いているのだ。イージスの盾による攻撃の無効化は万全といえよう。

 トリスタンがランスをしごく。いよいよ攻撃に移ろうとした時だった。

「ケッ! あの時と同じだと思うなよ!」

「確かに! FAITHが激減してますよね」

 リュウキが挑発するも,ケンジはニタリと笑う。

 空中でワイバーンが口を大きく開いた。刃を思わせる牙に囲まれた口蓋に,淡く揺らめく炎が生まれた。

「くらえ! プラズマ・ブラストォォォ!」

 淡い炎が輝きを強め,トリスタンめがけて発射された。咄嗟に掲げたイージスの盾が炎を無数の砕片に引き裂き,消滅させる。

「バカな……+αできる能力は一つだけのはずなのに」

「ケッ! バカはテメェだ。『応用』って単語を知らねぇのか?」

 ――そうか,電撃か―― リュウキはすぐに理解した。ケンジは電撃をまとうだけではなく,高電圧でプラズマを発生させる事を思いついたのだ。プラズマ弾のコントロールも,ただ履き出すだけではなく,電磁波か何かの形で誘導しているのだろう。

 そこまで考えたのはいいが,対策を考える時間までは与えられなかった。

 ワイバーンが既に次弾の準備を整えていたのだ。

「さぁ,ドンドンいくぜぇぇぇ! プラズマ・ブラストォォォ!」

 ただでさえ攻撃しにくい空中から遠距離攻撃を繰り返されては,いくら強くなったトリスタンといえども防御に徹するしかない。

 だが守り続けるだけ――というわけにもいかない。攻撃しなければ勝てはしないし,何よりも最も恐れていた事が起こり始めたのだ。

 少しづつだが,イージスの盾から伝わる手応えが変化してきたのだった。ほんの僅かづつだが確実に重く,ハッキリとしたものになってきているのだ。

 ケンジもFAITHが増える時の独特の感覚――胸の中に熱く濃いものが溜まる感じ――がしているのを認識していた。

 リュウキがアストライアの方をちらりと見ると,右手に掲げた黄金の天秤の左皿が僅かに下がり,仄かに赤く色づいた光が流れ込んでいた。

 ――アレがFAITHか―― 

 理解した瞬間,リュウキの中で何かのスイッチが入った。「FAITHのリアルタイム変動」が闘争本能に火をつけたのだった。

  プラズマ・ブラストに続いて,ワイバーンが電撃を纏って襲いかかる。またしても突撃――誰もがそう思った。

 激突寸前で体勢が変わり,後脚の鉤爪が襲いかかる。咄嗟にイージスの盾で防いだものの,そのまま盾を掴まれてしまった。

 間髪おかずワイバーンの牙が襲いかかる。何とか身をよじり,或いはランスで防ぐトリスタン。どんな格闘技だろうと動物だろうと,頭上からの攻撃には基本的に防御するのが精一杯なのが現実だ。

 アサミが隣のイサムの袖を掴んで揺すりながら悲鳴に近い声をあげる。

「ねぇ! 大丈夫だよね! リュウキ君,負けないよね!」

「あ,ああ,大丈夫……だかりゃ!」

 揺すられながらではまともに喋れない。

 そんな状態でもイサムは考えながら見ていた。トリスタンも体格がいいとはいえ,まともな人間サイズだ。それが翼開長数メートルにも及ぶワイバーンを「片腕で持ち上げている」のだ。

 ――これだけ体格差があるのにパワー負けしていない―― FAITHで上回っているからこその現象を見抜いていた。

「こりゃ案外……決着が早いかもな」

 イサムの呟きを余所に,ワイバーンの猛攻は続く。バイティング(噛みつき)攻撃は激しさを増し,ついにランスを咥えてしまった。

「くっ!」

「もらったぜ!」

 そのままワイバーンが羽ばたく。ランスを――あわよくばトリスタンもろとも――空中へ放り出そうというのだ。

 トリスタンの前進に力が漲る。足を開き腰を落した。空手の「四股立ち」だ。

「ふんっ!」

「ぅおわぁ!」

 鋭い呼気と共にランスごとワイバーンを床に叩きつけた。轟音と床の破片が吹きあがる。

「おいおい……こりゃぁパワー勝ちしてんだろ」

 イサムが呆れ気味に呟いた。その声も歓声にかき消される。

 今度はアストライアの持つ黄金の天秤が右に傾き,右皿に白銀に煌めく光が流れ込んで行く。リュウキは自分のFAITHが高まっていくのを感じていた。

 ワイバーンの長大な尾が跳ね上がるが,イージスの盾が難なく弾き返す。その僅かな隙を狙ってワイバーンが羽ばたき,空中に陣取った。

 それまでの「人間視点」から「魔神視点」に切り換える。よりリアルに状況を感じる為だ。そうして気付いた。これだけの距離をとるのは,もう接近戦では勝てないと判断しているのだ。

 それだけでリュウキの作戦は決まった。イージスの盾を高めに掲げ,半身になって体の大半を隠した。

「ケッ! 臆病風に吹かれたかよ! 騎士様に空中戦は無理だよなぁ! あのクソ天狗さえいなきゃテメェなんざぁ!」

 ケンジが濁った光をを湛えた目でイサムを睨みつけた。

「誰が『クソ天狗』だ」

 イサムが一歩踏み出したが,そこで自制した。さすがにバトルの最中に殴りかかるわけにもいかない。

 アサミは胸の前で手を組み祈っている。無論リュウキの勝利をだ。同時にアストライアにも祈る。公平であれと。

 ――アストライア,これはあくまでも一人のFAITH。お願い,あくまでも公平に。大丈夫,それで勝つから,リュウキ君は――

 自分の祈りがアストライアに干渉する事を恐れたのだろう。リュウキがズルや贔屓で勝つ事を潔しとしない性格であるとよく知っているからこそだった。

 空中でワイバーンがプラズマ・ブラストを放つ。イージスの盾で防いだトリスタン。その目でリュウキは見た。ワイバーンが結界のすぐ傍に移動したのを。

 数瞬の間もおかず,トリスタンが手にしていた武器を投擲した。風を切り裂き飛来したそれは,ワイバーンの尾をかすめ――Eibonの結界に跳ね返され,ワイバーンの背中に激突した。

「なに!?」

 後ろに気を取られた僅かな時間が勝敗を決定付けた。

 プラズマ・ブラストをコントロールする為に「魔神視点」になっていたケンジがトリスタンに目を向けた時,既にトリスタンは弓に矢をつがえて引絞っていたのだ。

 トリスタンは円卓の騎士の中でも「黄金の射手」と呼ばれる程の弓の名手だ。本来なら騎士は狩猟でしか弓を使わないが,そうも言っていられない。

 放たれた矢は唸りをあげて飛び,狙い違わずワイバーンの翼を貫いた。間髪をおかず第二射,第三射と放ち翼を撃ち抜いていく。

 もはや飛翔能力を維持できなくなったワイバーンが,耳をつんざく悲鳴をあげて落下する。

 トリスタンが長剣を抜いて走る。その勇ましい姿は猛虎を連想させた。

 アストライアの黄金の天秤は更に右に傾き,FAITHが大きく流れ込む。

 ――いける。一撃で!――

 瞬く間にワイバーンの下へと到着したトリスタンは,長剣を下段に構えて狙いを定めていた。首元へと。

「うおぉわあぁぁぁ!」

「つぇりゃあぁぁぁ!」

 ケンジの悲鳴とリュウキの裂帛の気合が重なり――ワイバーンの首が落ちた。

 地響きとともに胴体も落下した。

 苦鳴とともにケンジも膝をつく。

 新技を開発し,一対一という条件で負けてしまったショックもあるのだろう,なかなか立ち上がらない。

 観衆は戦いの興奮に湧きかえり,ちょっとした騒ぎになっていた。

 イサムとアサミは手を取り合って,リュウキの勝利を喜びあっている。

 一方

ヤンキーグループのコウタとヨウスケは厳しい顔で言葉を交わしていた。そこだけ別世界になっているようだ。

「なぁコウ君,あの負け犬……どうするよ?」

「まぁあ予想以上に善戦はしたし,そぉれに能力の応用って可能性も見せてくれたしな……許してやるさぁ」

 闘技場ではアストライアが集まったFAITHをトリスタンに浴びせ,勝利の祝福をしていた。

 負けたケンジのFAITHとリアルタイムで集まったFAITHが一気にリュウキに流れ込む。

 

茅野ケンジ FAITH POINT 92ポイント LOST

若園リュウキ FAITH POINT 92ポイント+42ポイントGET TOTAL 409POINT

 

 リュウキがこれまでにないFAITHの充実ぶりに驚いていると,ケンジの悲鳴が周囲の耳目を集めた。

 ワイバーンの身体が崩れているのだ。全身に細かい亀裂が走り,角や牙、尾の先端から崩れ始めていた。

「うわあぁぁぁ! 誰か! 誰かコイツを助けてくれえぇぇぇ!」

 魔神使い全員が血相を変えて闘技場に上がった。

「おぁい! 前原! こぉりゃそういう事だ!」

「前原ぁ! テメェなんでこうなる事を黙ってた! おらぁ!」

 コウタとヨウスケが前原に詰め寄った。

「待ってくれ! 僕も知らなかったんだ! 本当だ!」

 押し問答の間にもワイバーンの崩壊は止まらない。先端部は完全に消失し,崩壊は脚部や翼部,頭部に至っては既に半分も残っていない。ケンジの悲痛な叫びだけが空しく響く。

 コウタ達の追及はアサミにも及んだ。

「おぉい,一年の女。オメェも知ってて黙ってたのか?」

「女でもただじゃおかんぞ! おらぁ!」

「私も……し,知りません」

 前原が止めに入るが,怒りに支配された二人は止まらない。

 リュウキとイサムがアサミの前に立った。

「待って下さい。知らないって言ってるじゃないですか!」

「そうだぜ,なんならこの後で皆そろってあのジジイのとこに行って白黒つけりゃいいだろうが。それより今は――」

 イサムがケンジの方へと目で促した。

「……まぁあ,確かにそうだな。けど前原と女,それとお前ら二人。一緒にEibonのところに行ってもらうぞ」

「逃げるなよ,おらぁ!」

 コウタ達はケンジの方を叩きながら励まし始めた。

 胸を撫で下ろしたアサミは,リュウキ達に礼を述べた。

「しかし……負けた方がこんな事になるとはな」

「そりゃ怒るのも無理はねぇよ」

 イサム達が咎めるような視線を前原に投げかけた。

「おいおい,僕も本当に知らなかったんだよ。これ以上責めるのは勘弁してくれたまえ」

 大きく息を吐いてケンジの方を見ると,ワイバーンの身体は完全に崩れ,灰色の塵へと変わってしまった。

「うぅ……おさらばぞ 静かに眠れ ワイバーン……」

 ケンジが涙声で一句詠んで別れを惜しんでいた。

「辞世の句か……」

「いやちょっと違うだろう,それは」

 こんな時でも天然でボケるのがイサム,つっこむのがリュウキである。

「くっそおぉぉぉ! 前原あぁぁぁ!」

 ケンジが前原に掴みかかる。やはり取り仕切っている前原が疑われてしまうのだ。

「ま,待ちたまえ! 僕は本当に……」

「うるせえぇぇぇ!」

 拳をかためたケンジを生徒会総出で止める。

 なんとか事なきを得た前原が一息つき,提案した。

「みな納得いかないようだね,無理もないが……。では仕方ない,これから魔神使い全員でEibonの所に行こう。そこでハッキリさせるしかない。どうかね?」

 誰も否やはなかった。

 

 

どうも更新が遅れ気味です。

風邪だのなんだのとあったのですが,良くない傾向ですね……。 


4/26改稿。ケンジの攻撃を少しえげつなく。

4/27改稿。崩壊の様子を少し詳しく。

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