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魔神学園  作者: 秋月白兎
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Battle in bubble ②

前原の働きにより、教師達が動いた。魔神使い同士の争いを終わらせる為、校長以下教職員が事態の収拾を図る「舞台」を容認したのだ。

 前原が教師達との話し合いをしたその日。各教室でのホームルームで、放課後に体育館で全校集会が開かれる事が伝えられた。ヤンキーグループは当然サボるつもりだったが、教師から「全員に関係のある話だから絶対に出るように」と釘をさされた。

 楽天家な生徒は大して気に留めなかったが、それは少数派だった。多くの者はこの学校が「普通」ではない事を自覚していたし、何よりも先日の「校舎破壊事件」が危機感を肌で感じさせているのだ。

 下手をすれば多くの死傷者を出しかねなかった事態に、学校側が何も対応しないわけがない――そう確信していた。

 様々な憶測が飛び交う中で時間は流れ、放課後を迎えた。


 体育館の無愛想な空間に生徒達がぞろぞろと集まって来る。それ自体はよくある光景だが、いつもとは雰囲気が違った。どこか剣呑な、ほんの僅かな刺激で集団ヒステリーが起こりそうな――張り詰めた雰囲気が漂っていた。

 程なく集会が始まり、最初に校長が登壇して挨拶もそこそこに本題へと入った。

「……先日の校舎破壊事件の際、皆さんを危険に晒してしまった事を深くお詫びします」

 校長が額を演台にぶつける音が響いた。良識派で知られる校長・枝松は心底生徒達に謝罪したのだ。

 続けて校舎破壊事件は老朽化による事故として処理され,補強工事が行われる事を告げた。

 そして残念ながら自分達には魔神が暴力に及んだ際、そのの力を押さえる術が無い事、その為に生徒会の協力を要請する事を明言した。

「……幸い生徒会の諸君は揃って魔神使いです。学園内の自治を担う彼らが、人知を超えた暴力に対抗しうる力を持ってくれていた。これはこの学園にとって最後の希望と言えましょう」

 だが今度は生徒会が暴走しはしないか? 誰もがその疑念を持たずにはいられなかった。

 枝松は生徒達の表情から察したのか、本来は生徒会の自治には最低限のアドバイスしかしない教職員が全力で「心の指導」を行うと明言した。更には校長たる自分自身もそれに加わる、どうか信頼して欲しいと力説した。

 枝松の熱意が通じたのか、生徒達の表情が明るくなってくる。頃合いと見たのか、枝松は生徒会長・前原とバトンタッチした。

「皆さん。先程の校長先生のお言葉通り、我々生徒会は学園の秩序維持の為に全力を挙げて取り組む覚悟です。では具体的にどうするのか? その問題と、魔神について皆さんがまだ知らない事を話そうと思います」

 体育館内をざわめきが埋め尽くした。魔神はただのモンスターではないのか。一般生徒が知らない事とは何なのか。不安に襲われた生徒達は平静を保てなくなっていた。

 イサムやリュウキと仲の良い者は彼らを捕まえて問い質したが、「ああ、まぁこれから前原先輩が説明してくれるから……」とお茶を濁すだけだ。実際のところ質問に答えるどころではない。旧支配者の復活など誰も信じないに決まっている。Eibonの存在も明言できないだろう。「Eibonの世界」は招かれねば入れないのだから、証明できない。ましてや、この状況下でEibonが願い事を叶えてくれる事を知られたら……。

 魔神使い達は皆、前原が何を言い出すのか固唾を飲んで待った。

「魔神のその力の源は……皆さんの感情です。僕達に魔神を授けた人物はそれをFAITH・信仰と呼んでいました」

 どんな形であれ、常に意識され続ける事。それが魔神の力となる。魔神同士で戦った場合、負けた方の持つFAITHは勝った方に移動し、勝った方はより強大になっていく。つまり魔神同士の戦いはこのFAITHの奪い合いになっている。そこまで話した時、生徒の間から不満の声が上がった。

「なんだよ、それじゃ俺達はアンタらの餌なのかよ!」

 同調する声が一斉に噴出した。体育館を怒号と罵声が揺らす。教師達がなだめようとしても、その声がかき消されてしまう。

 数分後、ようやく館内が静かになってきた。あれだけの罵声を一身に受けても落ち着いた態度を崩さなかった前原も大した肝っ玉だ。

「皆さんの気持ち、当然です。本当に申し訳ありません」

 前原も演台に頭がぶつかる程に頭を垂れた。だが彼は謝罪するために登壇したのではない。

「皆さん。今現在、魔神使い達の中で争いが起こり、その過程で様々な因縁が生まれています。そんな中で私と……我々に魔神を授けた人物とで、その全てに決着をつけると同時に、この学園に平和を取り戻す方法を考案しました」

 今度は館内をどよめきが埋め尽くした。――それが本当なら願ってもない事だが、そんな都合のいい方法があるのか? 自分達の安全は確保できるのか?――という半信半疑、或いは信じたいが信じきれないという複雑な感情が見てとれる。

「先程も言いましたように、魔神の力の源は皆さんからのFAITHです。それを一本化するのです」

 どういう事か分からない――そんな空気を払うように前原が続ける。

 どうしても因縁や策略で戦いが起こるのなら、それを特定の場所・環境で行わせる。皆の安全を守るにはそうするしかない。魔神は特定の場所でしか使えず、その中でも学校がメインになっているのだから、魔神を振るうにも学校がメインになってしまうのも当然と言える。

 ならば学校の中でも更に場所を特定してしまえばいい。それ以外の場所で魔神を振るう者に対しては、他の魔神使いが団結してこれを叩く。挑戦を受けた者は基本的にこれを受ける事とする――そうでなければ因縁は解消できないからだ。

 これが前原からの提案だった。

「どうですか? 魔神使いの皆さん、前に出て来て賛否の意思表示を」

 イサム達はぞろぞろと前へ出て行った。教師に促されるままに演壇に上がる。生徒会役員達、ヤンキーグループ、フリー・アライアンス、イサムとリュウキ、そして――リュウキの彼女である水川アサミがいた。

「アサミ! 何故……?」

「ごめんなさい。どうしても言い出せなくて……」

 イサムも驚きのあまり声が出せなかった。いやイサムだけではない、そこにいる魔神使いが揃って「何でこの娘が?」と呆けたような顔をしていた。

 唯一驚いていないのは――前原だけだった。

「前原先輩……知っていたんですか?」

 珍しくリュウキが前原を睨みつけている。同時に周囲の気温が僅かに上がったように感じられる。イサムだけはこういう時のリュウキの怖さを知っていた。――ヤバいな。暴発しそうになったら止めないと――そう考えながらリュウキを取り押さえやすい位置に足を移す。

「ああ知っていた……が、誤解しないでくれたまえ。何もやましいところは無い。ほとんど同時にEibonに会ったからというだけだよ。君と上杉君のようなものだ」

 アサミがうなずくのを見てリュウキから怒気が消えた。リュウキは前原に謝罪し、提案に対しても賛意を伝えた。

 イサムとアサミも同意し、フリー・アライアンスも賛同した。ここで反対してもメリットはない。全校生徒から反感を買い、FAITHを失うだけだ。それではEibonに願いを叶えてもらう事ができなくなってしまう。それに、このルールなら闘うにしても奇襲の類はない。そんな打算も後押ししたといえる。

 そしてヤンキーグループのトップ、山本も賛成を表明した。館内がどよめく。彼等は絶対に反抗する――誰もがそう思い込んでいたのだ。

「おぉい、そんなに驚く事ぁねぇだろう。坪サン、ケンジ。いぃよなぁ」

 両者がうなずいた。これで魔神使い全員が賛成した事になる。

「山本君、きみはちゃんとした判断が出来ると思っていたよ」

 前原が見せた安堵の表情も長くは続かなかった。山本が賛成する条件としてつき付けた内容によって打ち砕かれたのだ。

「たぁだし。この後すぐに! ウチのケンジとそこの! 一年坊主……若杉とかいったか? 騎士のヤツだ。そいつとで最初の一戦をやらせろ! それが条件だ」

「いや上杉と……」

「若園です……」

 名前を混ぜて覚えられたイサムとリュウキの訂正を誰も気にしていなかった。何がどうなるか分からない「最初の一戦」を、自分の手下にやらせようとするとは。その意図が読めなかったのだ。

 そんな中でただ一人、前原だけが苦い表情を隠し切れていなかった。

「……仕方がないな。論より実践と言うべきか――話はここまでだ。皆、校庭に出てくれたまえ」

 ゾロゾロと移動が始まるなかで、坪田が山本に問い質していた。

「なぁコウ君、なんでいきなりケンジにやらせんだ? 正直今のあいつじゃ勝ち目なんざぁ……」

「だぁからよ。もうFAITHの差がつき過ぎて勝てやしねぇ。フリー・アライアンスの連中にも勝てねぇだろ。一年に負けて以来のヘタレっぷりを見りゃ分かる、ありゃぁもう負け癖がついちまった。完全に負け星よ」

 ならば最後に役に立ってもらう。前原とEibonがこの計画を立てたのなら、必ず何かがある。これまで裏方に徹していたEibonが大がかりな事を始めたのだ、ターニングポイントになる事は間違いない。そうなると負けた方はFAITHを失うだけですむとは思えない。

 それにFAITHを一本化するという事は、第一線で戦う事がなくなった前原も参戦するという事だ。圧倒的なFAITHを持つ前原を倒す為には、自分がFAITHを集めると同時に、前原の更なるパワーアップを防ぐ事が必要になる。その為には……

「すぅこしでも情報が欲しいワケよ、出来る限り早い段階で」

 こうして山本がケンジに対して出した指示は、「とにかくメチャクチャに暴れろ」だった。細かい事を指示しても遂行できるヤツではない。ならば最大限に暴れさせて、それをこちらが分析する方が遥かにいい。そう考えての事だった。

「なるほど……さすがコウ君だ。俺にゃとてもそこまで考えるこたぁ出来ねぇ」

「まぁあ、ルールや舞台を考えた張本人の前原は当然知りつくしてるだろうからなぁ。そぉいつに勝つにゃぁ、少しでも隙を突く発見をせにゃぁな」

 全生徒が校庭に集合した。誰に言われなくともキチンと整列しているあたり、まだまだ秩序と冷静さをキープしていると見ていいだろう。

 前原の指示で全ての列が、普段よりも三十メートルほど後ろへ下がった。

 朝礼台を中心に、直径数十メートルの空間が出来上がった。その中にいるのは魔神使いだけである。

「さて、ここが戦いの舞台になる」

 前原の説明に全員が固まった。――ただ場所を空けただけではないか。これでどうやって皆の安全を確保するのか――誰も声にせず、表情だけでそううったえていた。

「では『舞台』を出そう。さがってくれたまえ。そう、皆がいる辺りまで」

 言われるままに下がると、前原が奇妙な言葉で呪文らしきものを唱えた。それがいつかEibonが唱えた呪文とよく似た言語であると気付いたのは、唯一イサムだけだった。

 他の者達は呪文が引き起こした現象に目を奪われていたのだ。

 朝礼台を中心とした半径二十メートルほどの範囲が、黒光りする石に覆われて盛り上がる。ほんの数十秒で円形闘技場ができあがってしまった。

 その規模は、直径約四十メートル、高さ約一メートル二十センチ。立派な闘技場だった。

 前原が皆に向き直った。

「これはEibonが事前に仕込んでおいた『舞台』だ。僕はそれを立ち上げただけだよ」

 Eibonが送った「風」がこれだった。これまで散発的だったバトルを定期的に行う事でギャラリーを増やす。これによってFAITH POINTの増減が大きくなってくるだろう。 

 だがそうなると、勝った方はいいが負けた方はFAITHの回復はもう見込めないレベルにまでイメージダウンしてしまうだろう。

「つまりこれが……クライマックスというわけですね」

 副会長・日蔭の問いに頷く前原。そしてこの舞台はEibonの結界で覆われており、内部で何が起ころうとも外への影響はない。対戦者は各々で魔神を出し、この舞台に上がらせて闘う事になる。勝敗は――どうせ一目瞭然になろうが――審判役を担う魔神に判断してもらうと説明した。

「それが……水川君の役目だ」

 頷いたアサミの身体がぶれて見える。姿を現した魔神は、輝いて見える程に美しい女性の姿をしていた。キトン(内衣)の上にヒマティオン(外衣)を羽織っているが、どちらも最上級のシルクと見える艶やかさだ。その右手には黄金の天秤を持っていた。

「……私の魔神は正義の女神アストライア。勝敗は彼女が判断します。そして……」

 アストライアが持つ天秤は本来であれば正義を測る為の物だが、この場合のみEibonの計らいでFAITHを測るようになっていた。これによって生徒達からのFAITHがリアルタイムでそれぞれの魔神に送られるのだ。

 これまでは戦いが終わった後に変動していたFAITHが、戦っている最中に刻一刻と変動していく事になったのだ。

「じゃぁ……いいとこを見せればジャンジャン強くなるってわけだ」

 イサムが単純かつ前向きな解釈に至った。だが事はそう単純でもない。劣勢に回れば逆の状況になる事も十分に有り得る。或いは判官贔屓で応援が殺到するかもしれない。何もかもが未知数なのだ。

「言われてみりゃぁ……」

 イサムが考え込んでしまった。だがリュウキは落ち着いて考える時間を与えられなかった。

「では……若園君と茅野君。両者とも前へ来たまえ。これより第一試合を始める」

 前原が二人を舞台の前へと誘った。

 

 

さて、ようやく「本番」です。ここからバトルの嵐が始まります!

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