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魔神学園  作者: 秋月白兎
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Battle in bubble ①

イサム達とフリー・アライアンスとの戦い以降、それぞれの陣営でそれぞれの動きが活発化していた。 


 イサム達と自由同盟フリー・アライアンスとの戦いの翌日。


 薄暗い部屋に差し込んだ昼下がりの光が、奥に並んだ工作機械を照らし出す。ここはS市の北にある廃工場。ヤンキーグループの根城だった。

 怒声と同時に嫌な音が響いた。顔面を激しく殴られる音だ。続いて何か――重い物が倒れた。倒れた「もの」は呻き声をあげている。

「おらぁ! 立てやゴルァ!!」

 濁声が叱責する。声の主は大きな目をギラギラさせて倒れた「もの」を睨みつけていた。

 倒れているのは……茅野ケンジだった。イサムとリュウキに負けた後もこうして制裁を受けたのだが、そのイサム達が今度は自由同盟フリー・アライアンスを退けた事で、もはや無視できない勢力となった責任を追及されているのである。

 完全にとばっちりだが、「元はと言えばお前が負けたからだ」となるのである。

「これで終わったつもりかぁ! 立ておらぁ!」

 濁声でまくし立てるのは坪田ヨウスケ。このヤンキーグループのNo.2である。筋肉質のゴツイ身体と異様な光を放つギョロ目、そして角刈りがトレードマークだ。

「待ぁってくれ坪サン」

 新たな声が制止した。丸刈りの頭がむっくりと起き上がった。中肉中背だが、妙にすばしっこそうな印象を与える。

「コウ君……でもコイツは」

「いぃや、そいつぁ――ケンジはまだ分かってない。ハッキリ分かってもらわにゃぁな。おぉいケンジ、ワイバーンを出せ」

 言われるままにワイバーンを出すと、命じた本人――山本コウタも魔神を出した。その姿は一つ目の巨人、サイクロプスだった。

 本来は自宅と学校でしか魔神は使えない――だが彼等は、「自宅では使えなくていい、代わりにこの廃工場で使えるようにしてくれ」とEibonと交渉し、実現させたのである。選んだ魔神が大き過ぎたのも一因だ。


 サイクロプスが一歩踏み出す。

「おぉいケンジ、かかって来いや」

 ケンジの表情が変わった。過去の経験から、このコウタに逆らってはいけないと身にしみているのだ。逆らえば――半殺しではすまない。

「行きます、コウタさん」

「おぉう」

 ワイバーンが電撃を纏って突撃する――が、風を巻いての突進が一撃で叩き潰された。サイクロプスの鉄拳一つで。

「がっはあぁぁぁ……」

「分ぁかったか。以前のオメェはここまで弱くはなかった。これじゃ戦力にゃならねぇ。じゃぁどうすりゃいいかは……分かるな?」

 コンクリートの床に這いつくばりながら頷くケンジ。コウタは坪田ヨウスケと取り巻きの女子達を引き連れて出ていった。開いたドアから新鮮な空気が流れ込み、それまで気にならなかった機械油の臭いと――自分が流した血の臭いが鼻腔ををついた。

 


 同じころ、Eibonの館でいつものトレーニングバトルに勤しむイサムとリュウキの姿があった。

 だが今日はいつもと違う。これまでの戦績は常に五分五分だったのが、リュウキの三勝一敗と明確な差がついているのだ。

「くっっっそおぉぉぉ!」

「これはいい気分だな」

 結果から見る程、内容に差は無い。ギリギリのところで一歩及ばないという感じだ。

 床を殴りつけて怒りを発散させるイサムを、Eibonが安楽椅子に腰掛けたまま眺めていた。

「ま……それがFAITHの差じゃよ」

 フリー・アライアンスとの一戦で、リュウキは41ポイントリードしていた。その差が現れているのだった。これまでもFAITH POINTで上回る相手に買ってこれたのはタッグで戦っていた事に加え、普段のトレーニングと作戦によるところが大きい。

 ところがこの二人のように互いの手の内を熟知した者同士なら、FAITH POINTの差による基本ステータスの違いがハッキリと現れてくる。

「くそ! やっぱり騎士の方が見栄えがいいからか!」

「と言うよりお前、最後のあたりは姿を消してたろ。それじゃFAITHは集まらないんじゃないのか?」

 イサムの身体が固まった。そこへEibonの笑い声が響く。

 透明化は戦闘においては絶大なアドバンテージをもたらすが、意識され続ける事を目的とする「FAITH集め」ではこの上なく不利になる。

 見た目が分からなければ印象は極めて薄いものにならざるを得ないのだ。

「こりゃ傑作じゃの。じゃが早い段階で気付けて良かったではないか」

「うっせぇジジイ! つーか先に言っとけよ!」

 Eibonは肩をすくめて見せた。イサムがどういう戦い方をするかまで予測しろと言われても困るのだ。

 結局その日はイサムが更に二連敗したのだった。


 翌日の早朝。S高校では異例の早朝職員会議が行われていた。その中で生徒会長・前原ススムが熱弁をふるっていた。

 校長や教頭、各学年主任を相手に一歩も引かず丁丁発止のやり取りを繰り広げている。大人達を向こうに回して五分にやり合うとは大したものである。

「今のこの状況、先生方でも収束させる事は不可能でしょう。既に自制心を失いつつある『魔神使い』がいる事は先日の件から明白です」

 フリー・アライアンスの二人が校舎を破壊した事は、まだ教師達の記憶に新しい。「忌まわしい事件」として心に苦く刻み込まれている。

 嘆息を漏らす教師達の中から一人立ちあがって発言を求めた。濃いサングラスがトレードマークの体育主任・町口である。

「君の言いたい事は分かったし、我々に有効な手だてが無い事は確かだ。だが……君の言う通りになったとして、その後が平和になる保証はあるのかね?」

「あります。何故なら……僕達に魔神を授けた人物の目的がそれだからです」

「どういう事かね?」

「……これからお話する事は他言無用でお願いします」

 前原は全てを話す事で、教師達を味方につける作戦だった。Eibonが打ち出した世界を守る計画の為には、ほんの僅かでもFAITHを多く集めねばならない。それを校と言う特殊な環境で行う為には、どうしても教師達の協力が不可欠なのだ。

 三十分後、生徒達が登校し始める頃に会議は終了し、前原は「成し遂げた男の顔」で会議室を後にした。

今回は繋ぎといいますか、そんな感じですね。

ここを境に盛り上がって……いくはず。

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