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魔神学園  作者: 秋月白兎
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plotter & schemer ③

暴走を止めないヒロミチとユウジ。そこへやって来た前原達。事態は混迷の度合いを強めていく。 

イサムとリュウキはどう出る?

 ヒロミチの魔神が、その姿を現した。 

 小山のような巨体。身長はゆうに4mを越えていようか。その頭が天井にぶつかっている。ずんぐりとした体躯はとてつもない重量感を備えていた。そして甲冑をまとった人間を思わせるフォルム。だが体表は明らかに石造り――ストーンゴーレムだ。

 ユウジの魔神も同じく現れた。

 悪鬼を思わせる顔と人間によく似た身体。背中には蝙蝠の様な翼。人間並みのサイズだが、これまた石の身体――ガーゴイルだった。

 そうしている間にも校舎の破壊は続く。天井のみならず、床にも亀裂が入りだしたのだ。学食は一階にあるので、床が抜けても修理だけで済むだろう。だが天井の上は……ごく普通の教室だ。このままでは大変な事になる。

「ちょ……おいアンタ達、気は確かか!?」

 イサムが悲鳴にも似た声で訴えた。

「このままじゃ犠牲者がでるぞ!」

 リュウキも声を限りに叫ぶ。

 だが、ヒロミチとユウジは薄笑いを浮かべていた。

「ああ~気は確かさ、なぁ」

「そうそう、俺達は『お墨付き』をもらってやってるんだからなぁ。そうでなきゃ、こんな事をやる訳がない。だろ?」

 イサムもリュウキも言葉を失ってしまった。

「なんだと……?」

「誰がそんなものを……?」

 ヒロミチとユウジは揃って粘着質な笑みを浮かべ、頷きあった。

「お前達が知る必要はねぇんだよ。なぁ?」

「そうそう、俺達の側につかねぇってんなら……黙ってぶちのめされてりゃいいんだよ! そうだろ?」

 「自由同盟フリーアライアンス」を名乗っておきながら、やっている事は暴君紛いである。

 いよいよ本格的な攻撃が始まる気配が漂ってきたというのに、イサムとリュウキは未だ決断を下せないでいた。ここで魔神を出せば対抗できるだろうが、どんな被害が出るか想像もつかない。といって話し合いが通じる相手でもない。完全に手詰まりだ。

「待ちたまえ! 『お墨付き』だと……そう言ったね」

 凛とした声が響き、その場にいた全員の視線が集中した。声の主は――生徒会長・前原ススムだった。この騒動はすぐさま生徒会室に報告されていたのだ。

 前原が悠然と歩を進めてくる。自然と人混みが二つに分かれ道が出来ていく。存在感が段違いだ。

「一体どこの誰が……そんなものを君達に与えたんだい?」

 問われたヒロミチ達は一転、苦虫を噛み潰したような表情になった。一気に形勢が逆転した――その事実が彼らの行動を縛りつけているのだ。

「君達……分かっているんだろうな!」

 どこか金属質な声がヒロミチ達に突き刺さる。前原の後ろに着いて来ていた副会長・日陰キョウジだ。

「ああ、分かってるさ。ちゃぁぁぁんとな。なぁ」

「そう、ちゃんと……だろ?」

 意味ありげな含み笑いを漏らす。

 日陰が忌々しそうに舌打ちを、前原はうんざりしたように溜息を漏らした。

「どうやら何を聞いてもまともに答えそうにないな。まぁ、まずは魔神を収めたまえ」

「嫌だといったら……?」

 ヒロミチが挑戦的な視線を投げつけた。

「僕なら被害を出さずに君達を制圧できるよ。疑うなら試してみたまえ」

「くそっ……」

 実力に裏付けされた自信は、強迫になど小揺るぎもしない。結局ヒロミチ達は魔神を収めた。

「さて、事の次第は大体聞いているが……」

 前原は報告で聞いた流れを説明した。

「……という事でいいのかな?」

「そうっスね」

「大体合っています」

「まぁな」

「……」

 四人共それぞれの答え方で肯定した。実際、内容はほぼ間違いなかったのだ。

「まったく。校舎まで壊して、一体どうするつもりだったんだね?」

「へっ、知るかよ!」

 ヒロミチが吐き捨てるように毒づいた。

「君と言う奴は!」

 日陰が声を荒げた。普段は目立つ事をせず、温和で前原の良きサポート役と見られていたのだが、今回は腹に据えかねているようだ。

「ハッ、そう熱くなりなさんな……。言ったろう、お墨付きをもらって、分かった上でやってんだよ。なぁ」

「そう、だから口を割る事もない。だからって拷問にかけるなんて訳にゃいかんよなぁ。そうだろ?」

 下卑た薄笑いを浮かべながら返すヒロミチ達。憎らしさも倍増である。

 実際、この分では説得にも応じる筈もない。かと言って何かペナルティを与えようにも、魔神は口実に出来ない。こんな超常現象を理由に停学だのなんだの、一般社会は受け入れないのだ。過去に起きた魔人同士のバトルによる設備破壊事件も、処分に困り「厳重注意」で幕を閉じているのが現実だ。

「仕方ないな……では取引といこう。ああ、心配には及ばない。魔神に関する事件において、僕は校長からほぼ全権を任された」

「ほう……そりゃ初耳だな。で、どうするってんだよ」

 ユウジはまだ疑念を隠さないが、ヒロミチは乗り気になりつつあるようだ。

「今朝決まった事だからね、知らないのも無理はない。で、まずは場所を校庭に変えて……この一年生二人と決着をつけたまえ」

 前原がイサム達の後ろに立ち、両手で二人の肩を叩いた。

 場が一斉にどよめく。一番驚いているのは当事者達だ。

 ――結局やらせるのか。止めに来たのではないのか――

 当然の疑問が皆の心中に湧きあがる。

「どうせここで止めても、同じ事を繰り返すんだろう? なら、僕とキョウジが立会人になるから、そこで決着をつけたまえ」

 穏やかな凄味とでも言うべきものが前原から放たれ、当事者四人を圧倒していた。何よりもフリーアライアンスの二人は、自分達がどう動くのかを読まれてしまったという屈辱感に襲われているのだった。

「……いいだろう。でもなぁ! こいつらをぶちのめしたら、俺達側に組み入れる! いいな! なぁ!」

「好きにしたまえ、出来るならね。ただし、君達が負けたら……その二人にはもう干渉しない事。それと君達をそそのかした人物が誰なのかを白状したまえ。いいね?」

 イサムとリュウキは「え?」という顔だ。自分達の頭越しに話が進んでいるのだ、無理もない。

「いやあの……前原先輩、俺達の意向ってヤツは無しっスか?」

「そうですよ、僕達に選択権は無いんですか?」

 当然の抗議だが、あっさりと撃沈してしまう。

「降りかかって来る火の粉に対して、選択権だの意向だのが通じると思うのかい? それに彼らが勝てば、君達につき付ける要求は同じだよ」

 ヒロミチ達を視線で指し示しながら問う。

「ああ……そりゃまぁ……確かに……」

「そうですね……」

 少なくとも前原達がいれば、卑怯なまねや無関係な生徒達を巻き込むような事はすまい。そう考えると、この条件を飲むのが現状でベストの選択と言える。

「ようし! そんなら、やってやりゃぁぁぁ!」

「や……『やりゃぁ』?」

「ええい、ツマラン事を突っ込むな!」

 それにしても緊張感に欠けるコンビだ。

「へん、まともに喋れもしねぇ奴が俺達に勝てるかよ。なぁ」

「まさか赤ん坊レベルだったとはな。これじゃ引きこむ必要はなかったかもな。そうだろう?」

 一瞬だけ頭に血が上ったが、イサムは大きく息を吐いて自分を落ち着かせた。カッカしていては負ける――それを経験則として身につけているのだ。

 前原とキョウジは軽い驚きの表情を浮かべた。「ケンカ屋」と呼ばれるぐらいだから、すぐに激発するタイプだと思っていたのだ。

「これは認識を改めないといけないな。さぁ、表に出よう」

 前原とキョウジは食堂にいた生徒達に、安全の為に売店で食事を済ますように指示し、駆けつけてきた教師に状況を説明しながら、当事者四人を連れて校庭に向かった。

 道すがらキョウジが前原に質問をぶつける。

「会長、本当にこれでいいんですか? 一年生が負ける可能性の方が高いのでは……そうなっては校内の秩序が……」

「かも知れないね。だが事を収めるにはこれしかないよ、どんな結果になろうともね。何よりも……僕が力で抑えつけていたのでは、彼らと同じになってしまう」

 キョウジが真剣な表情で前原を見た。

「でも正直、意外でした。会長が魔神での私闘を認めるなんて」

「快くは思っていないがね。でもこれで一年生コンビが勝ったら……フリーアライアンスはFAITHを失って壊滅状態になる。戦力が倍増するか壊滅状態になるか……のるかそるかの大博打だ。当の野崎君達は負ける可能性を考慮していないようだがね」

 キョウジは黙って頷き、歩き続けた。 



 一行が校庭の中央に到達した。自然と前原達を間に挟み、イサム達が西側にヒロミチ達が東側に陣取り向かい合う状態になった。

「ではこれより決着のバトルを開始する」

 前原が朗々たる声で宣言した。ルールはタッグマッチ。校舎や設備への意図的な攻撃、無関係な生徒や教職員への攻撃は反則負けとなる。またあくまでも魔神同士での戦いとし、本体への意図的な攻撃も即反則負けである。時間は無制限――とはいかず、予鈴が鳴るまでの約二十分間だ。

 両者が間合いをとる。その距離 約三十メートル。安全とバトルの邪魔をしない為に、前原達も下がる。こうして直径約三十メートルのリングが生まれた。四人が四人とも魔神を出して身構える。

「では……始め!」

 裂帛の号令が響いた。同時に鞍馬の大天狗とトリスタンが空気を切り裂いて突進する。

「先手必しょ……ぶふ!!」

「ぐはぁ!」

 いきなり鞍馬の大天狗とトリスタンが地面に突っ伏した。

 苦悶の声だけだったリュウキはともかく、威勢のいいセリフを潰されたイサムは腹が立つわ恥ずかしいわ苦しいわで、顔が真っ赤になっている。

 二人とも全身に強烈な負荷を受け、目を白黒させていた。低空を高速で飛んでいた大天狗が墜落して巻き上げた砂煙が、やけに低くたなびいているのが見えた。

「これは……重力か!」

 イサムの声にヒロミチが大きく頷いた。

「そう、俺のストーンゴーレムが持つ能力は重力操作グラビディコントロールだ。理解した事は褒めてやるよ。で……実際にくらうとキツイだろ。なぁ?」

「確かにな……けど、これぐらいなら……」

 イサムはリュウキの方に目を向け――愕然とした。リュウキ自身が既に片膝をつき、息を喘がせているではないか。

 トリスタンも地面に突っ伏したままだ。鞍馬の大天狗はもう起き上がりつつあるというのに。

「そうか、重力だからか……」

 上から押さえつける圧力なら、大天狗とトリスタンは同じ負荷を受けるだけだ。だが重力では話が違う。山伏装束と宝剣だけという軽装の大天狗と重装備――フルプレートアーマーとイージスの盾、更に今回はロングソードだ――のトリスタンでは比較にもならない。

 1kgと10kgが同じ比率で重くなったらどうなるか。その違いだ。

「ちなみに、今は5G――通常の5倍の重力だ。大した事ない数字に思えるだろうが、一度ぶっ倒れようもんならなかなか起き上がれねぇもんだ。特にヤワな騎士じゃぁなぁ」

 親友の危機を察したイサムは、まだ見せていない鞍馬天狗のブースト能力――13秒間の乱気流サーティーン・タービュランス――で一気に突っ込むべく体勢を整えた。

 が、そこを見逃してくれる相手ではなかった。

「何か出来るつもりか? まだ俺がいるだろ」

 目を剥くイサム。そうだ、まだユウジは何もしていないのだった。

 ガーゴイルの姿が消えた――と見えた瞬間。トリスタンの上に何かが落ちてきた。凄まじい衝突音と、低い砂煙が湧き起こる。

 そこにあるのはガーゴイルと、押しつぶされ半ば地面にめり込んだトリスタンだ。

「な……」

 状況が理解出来ないイサム。リュウキは声も出せずに両手足をつき、肩で息をしている有様だ。

「分かったか? 俺がガーゴイルに付加したのは……テレポート能力だ。こういう使い方もあるんだよ。意外だろ?」

 石像であるガーゴイルがフライング・ボディプレスの要領で、トリスタンの上に落ちてきたのだ。しかも5Gの重力で。

 これはマズイ――この二人、意外な程に強い。イサムの頭の中で警戒警報がが大音量で鳴り響きだした。

「リュウキ!」

「ああ……なんとか……くそ!」

 重荷になっているフルプレートアーマーが、今度は身を守ってくれたのだ。だが石像であるガーゴイルが、高重力下でトリスタンにのしかかっている、一秒でも早く助けねば。

「待ってろ、すぐに!」

 鞍馬の大天狗が宝剣を握り締めた。刃が陽光を跳ね返して疾り、真横からガーゴイルの脇腹に激突した。 

 


 


思ったより長くなっていますが、次でこの賞は終わる予定です。あくまでも予定ですが……。

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