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決闘


 ヤバイ、と思いながらも北は後ろの筒から木刀を一本抜いた。そして筒ともう一本は傍に放り投げた。カラカラ、と暗い空に音は虚しく響いた。

 北は昔していたように中段に木刀を構えた。それを見て、赤橋、野中、飯田はギョッとたじろぎ、包丁をギュッ、と握った。奴らも慣れてはいないらしい、と北は感じた。それは北にとっても同じことだが。北は今までに無いほど緊張していた。竹刀ならともかく、本物の刃物と向き合うとなるとやはり違う。北は背中にじっとりと汗をかいていた。

 三人が一向に攻撃を仕掛けてこないので、北は自分から仕掛けることにした。まずは赤橋だ。赤橋の包丁を木刀ですばやく押しのけ、小手を開けさせる。そこに向かって木刀を打ちつける。絞るなどということは不要だろう。赤橋はううっ、とうめき声を上げ、包丁を取り落とした。


「このやろう!!」


 飯田が叫び、包丁を構えて突進してきた。北はふうー、と息を吐き、飯田の体に木刀を押しつけ、無理矢理軌道を変更させた。そして北に背中を向けた飯田の後頭部に木刀を打ちつけた。飯田はそのまま静かに倒れた。

 よし、体がだいぶあったまってきた、北はそう思い、最後の一人である野中の方を見た。

 野中は驚き、戸惑った様子で、


「お前、剣道とかやってたか?」


 と聞いた。


「ああ、やってたよ」


 北がそう答える。北は野中が降参してくれるのかと思い、木刀を下げた。だがそうはいかないようだ。野中はいつものようにニヤッと笑い、また包丁を構えた。


「お前、ホントに剣道やってたのか?にしては……弱いな」


 勝手に言ってろ、と北は心の中で吐き捨てたが、確かに体は鈍り、剣の腕は落ちただろう。

 北がそのようなことを考えていると、背中に衝撃が走った。


「……うっ!?」


 北は最初、殴られたのかと思った。だが違った。北は二、三秒して衝撃を受けた部分から流れ落ちるものに気がついた。北は背中の左側を見た。不気味な笑みを浮かべた赤橋がいた。

 流れ出るものは、どす黒い赤色をしていた。

 ……とどめ、刺しときゃよかった。そう今更後悔した。


***


「貴様のような者は教師をやる資格はなあああい!!!」


 加藤が阿久保に向かって大声で叫んだ。加藤は何かが吹っ切れたように怒っている。いや確かに、怒るのは分かりますけれども、そこまでではないのでは? と健は心の中で慌てながら言った。

 阿久保は唖然としてから、低い声で笑い出した。


「お前、今殴ったな……」


 そこで阿久保は少し息を吸い込んだ。


「先生様を殴ったらどうなるかわかってんだろうなあ!!!」


 阿久保は大声で怒鳴った。健はビクッ、とした。本気で怒っている。だが、加藤にビビる素振りはない。


「オレはどうなっても良い。とにかく貴様は許せん」


 阿久保は短く笑った。……加藤、“貴様”とか言っちゃてるし!


「フン、そうか。……大した度胸だ。いいだろう。教えてやるよ」

「何をだ」


 阿久保は加藤の顔の前に自分の顔を持って来て、ニヤッと笑った。


「“たじっち”いや、田島をいじめさせたのは……この俺だ」


 ……おかしい。なぜそのようなことを言う必要がある? 阿久保先生にはリスクしかない。健は目つきを鋭くした。

 健の思いとは関係なく加藤は硬直した。そして絞り出すような声で言う。


「……どういうことだ」


 加藤は今まで見せたこともないような重々しい顔をしていた。


「……わからないのか?奴、田島は邪魔だったんだよ。生徒会でなあ。田島だけは俺のことに従わなかったんだ。……俺の本性(・・)が分かっていたのかもなあ」


 そして阿久保は顔からニヤニヤ笑いを消し、だんだんと暗い表情に変えていった。そして続ける。


「あいつ、普段は弱えのに、俺には刃向かってきやがる。あの目でな……そう、ちょうどお前らみてえな目だよ」


 違う。何かが違う。おかしい。何かが引っ掛かる。


「弱くねえよ」


 羽生が呟くように言った。羽生達は全く引っ掛かっていないようだ。

 羽生は皆の視線に気付き、照れくさそうにまた普通の表情に戻った。羽生の前髪が風に揺れた。しかししゃべるのはやめない。


「……いや、そいつ強いよ。先生に反対ができる奴なんてそういない。いつもおとなしくしてるだけだよ。きっと」


 阿久保はフン、と嘲るように鼻で笑い、言った。

 会話は通常に進行しているのだろう。だが、健は違和感を覚えた。


「馬鹿か。あいつは弱いんだよ」


 そう言い放ったものの、阿久保はだんだんと暗い表情へと変わっていった。


「……だけど俺がいじめさせても一向に生徒会をやめやがらねえ」


 分かった。閃いた。阿久保先生は嘘をついている。芝居だ。臭すぎる。

 健は初めて口を開いた。


「……先生、無茶苦茶です。オレ達、少なくともオレは騙されません。子供じゃないんです。……悪い先生ぶってもダメです」


 阿久保先生はその場で凍り付いた、ように見えた。目を見張って地面を見ていた。


「どういうことだ?」


 加藤が眉をひそめた。羽生に至っては全く意味が分からないというようにポカン、としていた。


「話してください。……先生の……家族のこと」


 阿久保先生はゆっくりと目を上げた。


「知っているのか……教頭先生に聞いたんだな……」


 そして阿久保先生はぽつぽつと話し始めた。


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