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メガネくん


 リリリリリリ……

 ケータイの着信音が鳴った。健は家にいて、漫画を読んでいたのだ。“ゴルゴ13”だ。

 そのケータイの持ち主、伊勢健は漫画を机に置き、ケータイを開いた。

 そこには“川崎絵美”とあった。一瞬、なぜ?と思ったが、すぐに昨日のことを思い出した。川崎と健は電話番号を交換したのだ。

 健は少し震える指で着信ボタンを押した。“ツン”とはいえあんなにスタイルが良く、かわいい女子に電話をかけられるのは生まれて初めてだ。多少、いや普通に緊張する。

 健はケータイに耳を近づけた。


「……もしもし」


 昨日とは違う遠慮がちな声が聞こえてきた。


「……はい」


 健は緊張しながら答えた。だが川崎は黙ったままだった。二、三秒の沈黙。


「……なんでしょうか」


 健は恐る恐るたずねた。その途端、川崎の“ツン”が発動したようだ。空気が変わった。


「悪かったわね。……き、北がおかしいの。親友なんでしょ。どうにかしなさいよ!」


 川崎は早口でまくし立てた。先ほどの遠慮した感じは微塵も無い。


「え、あの……」


 健はなぜお前が北のことを心配すんの? というか“悪かった”って何が? など、たくさんのことを聞きたかったが、聞こうとした時にはもう電話は切れていた。

 プー、プー。

 健のことをバカにするような音だけが電話から聞こえる。

 健はため息をついてケータイを閉じた。

 北か……。

 健は昨日の北を思い出した。

 いつものお茶らけた感じではなく、どこか重苦しかった。

 あのようなひきつった笑い……妙な嘘……。

 昨日は今まで見たことがない、と不安になった。

 やっぱり、あんなのおかしい、と健は改めて思った。北はふざけていて、ゲーム好きの廃人で、アホだから北なのだ。こんなことを言うとぶっ飛ばされそうな気がするが、と健は心の中で付け足した。

 時計を見るともう五時を過ぎている。飯だ、飯。健は夕飯の準備をし始めた。健の父親は帰りが遅いので、夕食作りは健が担当しているのだ。



「いただきます」


 作り始めてから五十分強経った今、健は皿によそわれたカレーと向き合っている。父親の分はラップをかけて冷蔵庫に入れてある。健はスプーンでカレーを口に運んだ。


「うまい」


 つい声に出してしまった。我ながらに上出来だ。健は得意げな気分になった。

 おなかもすいていたので、箸、いやスプーンが進んだ。




「ごちそうさまでした」


 十分ちょっとで食べ終わった。ふー、満腹満腹。健は食器を片づけた。 

 食器を洗った後、健はパソコンの前に座った。SONYの大型のパソコンだ。使い心地が良いので気に入っている。

 画面には“ドラクエ13について語り合う掲示板”があった。“ゴルゴ13”の漫画を読み始める前、多少目を通していたのだ。

 この掲示板は最初は“メガネくん”という人によって去年の夏頃に“ドラクエがもし13くらいまで行ったらどうなるか”という題で立てられたものだ。その“メガネくん”と“あかばえ”と“きょんしー”と“タルロス”と“たじっち”はその掲示板内でわいわいやっていた。彼らは全員同じ学年であるそうだ。また、書かれていることから彼らが通っている中学は健が通っている中学である早鷹高校で間違いがないようだ。

 だが、途中からその掲示板は“たじっち”へのいじめの掲示板に変わっていったのだ。ちょうど今年の初めくらいからだ。

 “メガネくん”はそのことに反対だったようで多少の抵抗をしていた。だが、その他三人の意志が揺らがないと思ったのか、すぐに書き込みをやめている。

 ちなみに“あかばえ”と“きょんしー”と“タルロス”のいじめはパシリ、またお金関係のことが多かった。週に二回くらいのペースでだ。

 健はそれを顔をしかめて見ていて、“メガネくん”も薄情な奴だな、と思った。

 いじめをしている三人が分かっているのなら、そいつらに直接言ってやめさせればいいのに……。

 健はため息をついた。そしてページを適当にスクロールした。

 健の目にある言葉が飛び込んできた。“メガネくん”の数少ない抵抗の書き込みだ。


『いじめなんてするな。世の中にはゲームという素晴らしいものがある。それで十分じゃないか、少年たちよ』


 健はどこかで聞いたことがある、と思った。読むと多少寒くなるこの仰々しいセリフ。っていうかこいつ、書き込みがくどい。なんかたくさん書いてある。

 なんだか読んでいるとわざとらしく押し上げられる赤いメガネが……


「北だ!!!」


 健は思わず叫んでいた。他に誰もいないこの部屋に健の声がこだました。まさか北が“メガネくん”? そういえば書き込みの中に見える“メガネくん”の人物像が北と一致しているような気がした。それに“メガネくん”が『オレ、剣道強いんだぜー』と自慢している書き込みがあるが、北になぜ声がデカいのか、と聞いたときに小学生の時剣道をやっていたと言っていた。

 重大なことが分かった。

 そう思いながら健はF5ボタンを押した。誰かが書き込みをしたかもしれない。

 ……お? さっきまでレス数234回と書いてあったのに235回になっている。 誰かがこの掲示板に書き込んだということだ。

 健は急いでページを一番下まで移動させた。

 一番下にあったのは

 “メガネくん”

 つまり、北の書き込みだ。


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