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積極


「どうする?」

「どーしよーもこーしよーもないでしょ……助けに行こーよ」


 羽生は今にも飛び出しそうな勢いだ。そんな羽生の腕を加藤がつかむ。


「なんだよ」

「……少し様子を見た方がいい」


 加藤がわかったか、と確認すると羽生は渋々といった感じで頷いた。

 クラス内が静かになったので、彼女らの会話は聞き取りやすかった。


「……ちょっとアンタ。焼きそばパン? マジ? だっさー」

「ゆみー。そんなこと言っちゃ失礼だよー。鹿児島の田舎じゃ、これでも高級品なんだよ」


 その言葉で女子集団に笑いが起こった。クソ胸クソ悪い、と健は顔をしかめた。握った拳が震えているのが分かった。

 獅子は黙っている。黙々と焼きそばパンを食べている。


「ねーちょっと、人が話をしてる時は食べんのやめろってママ(・・)から教わらなかったー?」


 そう言って、ゆみと呼ばれた女子が獅子の手から焼きそばパンをもぎ取った。獅子は少しだけ睨むと鞄から新しいパンを取り出した。


「ねーちょっと、あたしらの話聞かないとこの学校にいられなくなるよー」


 ゆみがそう言い、品悪く笑う。そしてゆみの隣の女子がパンをもぎ取った。

 獅子はまっすぐ前を見つめ、動じない。


「はあ? ちょっと怖いんだけど。何コイツ、ぼっちって怖……」


 我慢できなくなった。


「今日はオレが行く」


 と一言言い残して、健はG組の教室に足を踏み入れた。おいちょっと待て、という加藤の声は無視して、獅子のもとへと向かった。


「何アンタ?」


 気付いた女子軍団のうちの一人が睨んできた。内心ではびくびくしながら口を開いた。


「せ、生徒会の伊勢だ。獅子、来てもらう。それ以外は立ち退け」


 うわーなんかエラソー。言ってからなんだか恥ずかしくなった。獅子がパッと振り向いた。わー、美人だー。すっげー。……ってそんなことを考えている場合じゃない。

 ゆみが顔をしかめて口を開いた。


「……ハア? なにそれ? ってか話の途中なんだけど」

「偉そーだよねー」

 

 そういう声が次々と飛んだ。あーもう、ムカつく。

 その時、何かが吹っ切れた。


「うるさい!!」


 そう声を上げていた。女子軍団はビクッと身を縮こめ、黙った。だが、ゆみは黙らなかった。


「……ってかさー。女子だけのところに男子が入ってくるってどんなんなの? 話中だしさ」

「話しているようには見えなかったけどな」


 口答えはしてこないと思っていたのか、ゆみが少し怯んだ顔をした。健は続けた。


「話している、というのはつまり、会話しているということだろ? だけどお前らは何してた? 大勢で寄って集ってパンとりあげてただけだろ。そういうのをなんて言うか知ってんのかよ」


 相手の様子を伺ったが、黙ったままだった。仕方がないので、健は続けた。


「いじめだよ。……そしていじめてるお前らは不良だ。オレが最も嫌う奴ら」


 憤りの声を上げようとする女子軍団を、健は手で制した。ビクッ、と縮こまる。


「オレは生徒会役員だ。上に報告すればそれなりの対処は下されることになるよ? それでもOK?」


 健の脅しで女子軍団が静かになったのを見て、健は食べかけの焼きそばパンとカレーパンを女子軍団から取り上げた。

 手元に獅子からの強烈な視線を感じたので、健は獅子にパンを手渡した。獅子は無言で受け取り、少し頷いた。


「あ。あと獅子、ちょっと来い」


 健に呼ばれたのに気付いた獅子は健を上目遣いで睨んでから立ち上がった。

 健は背を向けてドアへ向かった。獅子がついてきている気配はある。G組の生徒の視線を感じながら、教室を出た。教室を出たところに北達がいたが、獅子と一緒なので、口パクで“あとは頼んだ”と言った。北が頷いたのを見てから健は屋上へ向かった。


「ここが屋上だ」


 屋上に着き、健は呟くように言った。


「……だから何」


 二、三秒の間が空いてから獅子から伊勢に対して声が発せられた。健は固まってしまった。思ったよりも澄んだ声だ。とても綺麗な声だった。


「……別に感謝はしていない」


 唐突に獅子が言った。


「どういうことだよ」


 獅子はため息をついた。


「……別に、あのままだって平気だった」

「パン、とられてたじゃねーか」

「……」


 沈黙。気まずい。気まずい。気まずすぎる。何で屋上なんかに来ちゃったんだ? 誰もいないし、もちろん助けを求められる者はいない。……まあ、仕方がない。

 健はまあさ、と言って腰を下ろした。


「食えよ。なんか気まずいし」


 獅子はコクリと頷き、健の隣に腰を下ろした。食べかけの焼きそばパンにかぶりつく。

 やばいどーしよ。近い。……いや、そんなでもないけど。五十センチくらいは離れてるけど、なんせ超絶美女だし。緊張すること、この上なし。冷静に話せるのが奇跡的なことに思えてくる。

 

「何だ?」


 獅子が怪訝そうにこちらを見た。無意識的に獅子のことを見てしまっていたらしい。ヤバい。なんか勘違いされたかも。キモいとか思われたかも。そう思い、健は慌てて顔の前で手を振った。


「いや、別に……」

「……はい」


 獅子がまだ開けていないカレーパンを差し出した。どうやら別の意味で解釈したらしい。


「い、いや、いいよ」


 と辞退する。獅子は辞退には答えず、健の膝の上に無理矢理カレーパンを置いた。


「礼。これで後はもう関わってくるな」


 …………。コイツ、とても悲しそうな目をしている。と健は思った。ふー、と息を吐き、壁にもたれかかった。


「あのさあ、獅子。オレってさ、地味だと思う?」


 気がついたら、そんなことを口に出していた。


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