情報
「あー、もしもし。今、大丈夫ですか?」
誰え? という羽生の疑問には無視し、電話の相手の返事を待った。少しして戸惑ったような声が電話から聞こえてきた。
『問題はないが、珍しいな。清水じゃなく俺にかけてくるなんて』
電話の向こう側でも誰ですか? という声がした。電話をかけた相手は葉瀬だ。誰ですか? という声が長崎のものだったことから生徒会室にいるのだろう。
「……いや、あの、葉瀬さんの力が借りたくて」
『そうか。で、なんだ』
健は息を吸い込んだ。ふと横を見ると三人は息をつめて健を見守っていた。
「……あの、獅子真紅ってご存知ですか?」
電話の向こうで葉瀬がため息をつくのが分かった。
『……なんでだ』
「……え?」
葉瀬さんの口調は重々しいものだった。仕方が無いので今回の馬鹿依頼のことについて説明する。説明を聞き終わった葉瀬はフーッと大きく息を吐いた。そういうことか、と独り言のように小さく言った。
『……じゃあ、教えてやるけど。……獅子ってやつはな……ちょっと厄介で。まあ、いい。顔写真と今のところ分かっていることをパソコンにメールで送る。そいつのアドレス類はいらないな?』
「はい。学校内で済ませますので」
『……大した自信だ』
そう言って意味ありげに苦笑した。なにかあるんですかと聞こうとする前に電話は切れた。“通話終了”と出た携帯電話のディスプレイを見つめる。
「葉瀬さん?」
と北が聞いてくる。ああ、と健は答え、羽生に指示する。
「羽生、パソコン!! メールが送られてくる」
「りょーかい!!」
羽生が自分のMacのノートパソコンを取り出し、起動させる。偽善同盟用のフリーメールアドレスは作ってあり、そこに送られてくるはずだ。
「おお! もう来た」
マジかはえーな、と健は適当に答え、羽生の元へ急いだ。加藤と北も覗き込む。
「えーと、パワポのファイルがくっついてんなあー。……よし」
つまり葉瀬は一人一人の資料を作っているということだ。健は葉瀬の根気に敬服する思いだった。羽生がそのファイルを開くと、まず飛び込んできたのは顔写真だ。北がうおっ、と声を上げる。健も目を見張った。
「すごいね……」
羽生が感嘆の声を漏らした。この写真は学生証にはられているような物だろう。
肩まで伸びた金髪に、高い鼻は外人を思わせる。遠くを見つめているような切れ長の目はどこか冷たく、触れられないような鋭さをを感じさせる。キツさも感じるが、健が今まで見たことの無いような美人だった。
健達が見とれていると、加藤は鼻で笑った。
「確かに美人だが、言う程のことではないだろう。染めているしな……おい、聞いてるのか」
加藤は焦ったように他の三人に問いかけた。五秒ほどして、健がはっとしたように加藤の言葉に答えた。
「……え? ああ。染めてんな」
健の答えはどこか外れていた。そしてそのことを自覚していた。この獅子という奴は、ヤバい。美人すぎる。佐部があれだけ“超絶美女”と言っていたのも納得できる。北と羽生に至っては見とれてしまってもう何を言っても答えない状況だ。
「あ、そういえば」
健は葉瀬が“今のところ分かっていること”が書いてあると言っていたのを思い出し、画面をスクロールした。北や羽生の不満の声を覚悟していたが、そのような声は上がらなかった。
「……は?」
備考の欄にはまず太字で、“強い。とにかく強い”と書いてあった。そしてその下には今までの武術の経験が書かれていた。
「三歳の時に合気道を始め、平行して剣術も習い始める。五歳で空手を始め、剣術はやめる。合気道、空手は早鷹に転校する際まで継続。現在はどこの部活にも入らず、習い事もしていない。……かあ。……わーお。つよそー」
羽生が声に出して読んでおどけて肩をすくめた。
「どこから転校してきたんだ?」
加藤の質問には北が答えた。
「ほら、ここに書いてるよ。……あ、いや……生まれは鹿児島で、鹿児島の実家の地元の高校から来たとしか書いてない」
「そうか」
羽生がさらに下にスクロールした。
「げ。ちょっとコレ見てみ」
「なんだ?」
健が身を乗り出すと、そこには身長や体重などが書いてあった。体重の方は見ないようにした。お年頃の女子が体重を見られたくはないだろう。
「……なんでこんなことわかったんだ? 葉瀬さんは。……まあ、いいけど。……ええ!? デカっ! 170あんのかよ。女子で!」
「まあ、川崎もそれに近いけどな」
北がすかさずツッコむ。
健がだけどさ……と言うのを遮って羽生が口を開いた。
「まあ、武道女子はでかいんだよ」
「新庄とかがいんじゃねーか」
「あーそうか。じゃあ川崎とか獅子とかは特別か」
「女子で170はデカすぎる。オレだって170あるかないかなのに」
「そういや伊勢ってそんなデカくないよな」
「北ッ、お前はそうやって見下ろしやがって……ッ!」
どうでもいい話題に花を咲かせる健達とは別にパソコンの画面のスクロールをしていた加藤が声を上げた。
「おい。ちょっとコレを」
どれどれ、と軽い気持ちで加藤の近くに行った。しかし、覗き込んだ三人の顔は途端に曇った。マジかよ……と羽生が声を絞り出したように言う。
最後の、“この学校での暮らし”という欄だ。
その内容を読んで、健は冷たい汗が噴き出してくるのを感じた。




