悪夢
真っ暗だ。真っ暗。
そんな中にオレは一人だけいる。でも、人の気配はする。ざわついている。この音は、いや、この声は、声の集まりには聞き覚えがある。
……そうだ。休み時間とか、朝のHR前の教室。……じゃあなんで暗闇なんだ?
いや、待てよ。暗闇じゃない。じゃなかった。なんでオレ、暗闇だと思ってたんだ? 周りにはクラスメイトがいるし、普通じゃん。全然、普通の…………いや、違う。何かがおかしい。
「おい加藤。何かおかしくねーか?」
斜め後ろを向く。あれ? ここ、加藤の席じゃなかったか? オレが振り向いたのは、今まで見たこともないような奴だった。そいつはキョトンとした後、気持ち悪そうにこちらを見た。
……なんだよその目は。化け物を見るような目で見んじゃねえよ。
じゃあ、席替えしたのか? オレの隣は……相内だ。横を向くと、隣に相内はいた。
「おい相内、席替えしたっけ?」
「……あまり親しげに話しかけないでください。席替えなんてしてませんよ?」
「じゃあ加藤は? 加藤静は?」
相内は怪訝そうにこちらを見てから眼鏡を押し上げた。
「誰ですかソレ?」
健は目を見張った。……うそだろ? 相内は加藤を一番意識していたはずだ。ライバルとして。忘れた訳がない。
……そうだ!! 北は? 羽生は?
健はガタッ、と立ち上がった。途端にクラス内のざわめきが収まった。
「おい、北!! 羽生!!」
健は辺りを見回したが北も羽生もいない。
クラスのざわめきが戻る。長崎が最初に声を上げた。
「やだ、アイツどーしたのー?」
「さあな、ぼっち過ぎて頭おかしくなっちゃったんじゃね?」
「ってかキタとかハニュウって誰?」
「え、こわ〜。ぼっちってこわいわ〜」
「ってかアイツ誰? ちょーキモいんだけど」
「確か、イセ……イセタニ? とか言ってたような気がするけど」
クラスから起こるクスクス笑いに耐えきれず、健はガタン、とその場に座り込んだ。
加藤、北、羽生はいなくなっちまったのか? ってか、オレぼっち? 長崎、生徒会のこと、忘れたのか?
健はハッ、と目を見開いた。
ここは、アイツらがいない世界なんだ。アイツらがいなければオレには友達もできず、“ぼっち”で、キモい奴扱いなんだ…………
……おき……だ……
……起……て…………
………起きてください!!!
ガバッ、と健は起き上がった。
隣で大きなため息が聞こえた。
「全く、熟睡ですか……。まあ授業中じゃないからマシですけど……。あと二分くらいで授業始まりますよ?」
相内だ。ぼーっとする頭のままで答える。
「……お前。……オレに親しげに話しかけていいのかよ」
はい? と相内が怪訝そうな顔をする。だがさっきとは違ってどこか柔らかい。
「何を言っているんだ。寝ぼけているのか。……次は阿久保先生の授業だぞ? しっかりしろ」
「……加藤!!」
つい叫んで立ち上がってしまう。斜め後ろの席には加藤がいた。ビクッ、と加藤が少しだけ動じた。
「夢ん中でワンダーランドにでも行ってたのかー」
北の声だ。続けて、羽生の声もした。
「あははー。それにしても伊勢っちよく寝てたねー。昼飯くえてないでしょー」
羽生の声に続いてその他の男子が囃し立てる。
「あと二分だぞー。食え食えー」
「かっこめー」
「暴食して保険室に運ばれろー」
その男子に対して長崎が注意を入れる。
「あんたらさー、気遣いってもんがないよねー。伊勢君は疲れてんだよー? ……ってか、こんなギリギリになるまで起こしてあげないってどーゆーことなの」
「じゃあ長崎が起こしてやりゃあよかったじゃねーかよ」
「……え? ……わ、私は…………その……」
「おお? やっぱ長崎、完全に伊勢ちゃんのこと好きだな」
「…………違うよ!!」
「だってよ……オレらのことは“あんたら”なのに伊勢ちゃんは“伊勢君”だぜ? 確定だろ」
長崎が赤くなって否定しているのを横目に見ながら、健はぼーっとする頭で考えていた。頭がズキズキする。
ああ、そうかオレ、寝てたんだ。じゃあ、さっきのは夢か……。それにしても恐ろしい夢だった。……いや、もしオレが、オレに幼馴染がいなかったら、あんな感じだったのか? 健は身震いした。生徒会第一支部もオレがいなくたって大丈夫だろうし。オレって、つくづく役に立ってねえなあ。
健は大きくため息をついた。……ん? 今、なんか気になること言ってたような…………
「って、長崎オレのこと好きなのか?!」
言ってから後悔した。クラスメイトが、湧いた。長崎の顔はもっと赤くなり、必死で否定し始めた。
そんな時、ガラッ、とドアが開いた。
「おらお前らチャイムが聞こえなかったのか。……おい長崎ィ。お前生徒会なんだから生徒の見本に鳴らなきゃダメだろーが」
「……あ、すいません」
「……俺が一昔前の教師だったら校庭十周ぐれえはさせてたなあ」
そう言って阿久保は冷ややかに笑った。
ふー。助かった。健は阿久保にそう心の中で手を合わせた。




