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デート


 最後の曲が終わり、大歓声の中でそのコンサートは幕を閉じた。終わって照明が付くと、もう終わりということだ。名残惜しい。新庄は隣の加藤を見た。なぜか顔を少し赤くして立ち尽くしている。


「……もう帰ろうよ」


 いつまでも動き出さない加藤に新庄はそう言った。二、三秒後、加藤はハッとして新庄の方に向き直り、慌てふためく。


「…… あ。……すまん。……ち、違う。……あ、いや、…………気にしないでくれ」


 そう言って加藤はまた新庄から目を逸らした。明らかに変だ。


「……どうしたの?」

「……いや、なんでもないんだ」


 新庄が顔を覗き込むと、また慌てたように顔を逸らして言った。……何でもなくないことが見え見えだったが、答えないというなら仕方がない。あえて追及はしなかった。


「……じゃ、じゃあ、行こうか」


 加藤が前に立って歩き出す。自分の顔を見ないようにするためだろうか? と新庄は思い、そんなに気にはしていない。なんせあの加藤くんだもの。しょうがない。と持ち直す。

 それにしても暑い。結構な量の汗をかいてしまった。ハンカチで汗をふく。


「……あ」


 つい声を出してしまった。自分の額の変化に気付いたのだ。

 前髪がかき分けられていた。コンサートに夢中で、全く気付かなかった。

 慌てて前髪を直す。

 そこで、新庄はあることに気付いた。


 ……加藤くん、私の素顔を見れなかったってことは……。今までネガティブな考え方をしてきたけど、もしかして、もしかして、逆の考えもできるんじゃ……。


 そんなことを考えてしまい、新庄は自分の顔がみるみるうちに熱くなるのを感じた。

 ……いや、ないない。そんなことぜっっっったいない。ないって。

 

「…………おなか、空いたね」


 考えていることを忘れるために違うことを言ってみる。

 加藤はああ、と私を振り返った。そしてほーっ、と胸を撫で下ろす。髪型を直したからだろうか。……いや、違う。違うって。


「どこか、入る?」

「……あ、ああ。……電車、長いからな。……ここら辺は混んでいるだろうから、ここからは少し離れるか」


 加藤はワンテンポ遅れて答えた。うん、と頷く。

 ……それにしても、私の考えがもし本当だったら……

 ……いや、絶対に、ない。

 新庄は改めて首をフルフルと横に振った。


***


「見て。あそこ」


 そう言って新庄が指差したのは有名なファミレスの看板だ。こういうところに入らない加藤でも名前ぐらいは知っている。


「入ろうか」


 加藤は即答した。汗を拭きながら。雨は降っていないものの、湿気が多く、暑いので早く室内に入りたいと思っていた。


「うん」


 見れば、新庄も汗をかいていた。前髪がまたかき分けられ、白い額も見える。もう見慣れたのでいちいち顔を赤くする程ではないが、やはり直視はできない。


「いらっしゃいませー。何名様でしょうか」


 少し歩き、自動ドアをくぐると涼しい風を感じると共に元気の良い店員の声が聞こえてきた。


「二人です」


 と答えると、ではこちらにどうぞ、と加藤達をテーブル席に案内した。

 加藤が席に付き、その向かいに新庄が座る。


「……涼しい……」


 ふと口に出してしまうほどに涼しい。何よりちょうどいい湿度だ。だんだんと湿度でイライラしていた気持ちが収まってくる。冷静になってくるにつれ、自分が今置かれている状況を再認識した。あることに気付く。

 ……マズい。向かいには新庄がいる。つまり向き合っている。しかもこれから食事だ。これってもしかして、とても親しい者同士ではないとやらないことなのではないか? もしかして、俗にいう、……で、デートというやつじゃ……。

 そう考えると心臓の鼓動が早まり、余計に正面にいる人物を見られなくなった。

 だが、新庄に、そんな加藤のことを気付いている様子はない。何にしようかな、などと呟いてメニューを広げている。

 ……そうだ。ここはレストランだぞ? 腹が減ったから来ただけのことだ。そうだ。何を意識しているんだ。デートじゃなく、依頼だ、依頼。新庄だって全く気にかけていないぞ。何やってるんだ、オレ。そう考えると気持ちに余裕ができ、この状況を楽しんでやろうという気持ちが出てきた。オレは新庄のことを好きになった。だったら好きな人と一緒にいられるだけ幸せだろう。


「何?」


 新庄が怪訝そうにこちらを見る。……いけない。新庄の顔を見つめてしまっていた。……らしい。加藤は慌てて顔の前で手を振った。


「……いや、なんでもないんだ。……それより、メニューをくれないか? 新庄は決めてからで良いが」

「あ、もう決めたからいいよ。……はい」


 新庄は加藤にメニューを手渡した。


「ほう……」


 見ただけでは味は分からないが、安い。財布を気にすることなくたくさん注文できる。

 これと、これと、これにしよう。そう加藤が決め、メニューを置いた時、新庄がタイミングよく店員の呼び出しボタンを押した。ちゃんと見てくれていたのか。そう思うと少し恥ずかしい気持ちになるとともに、嬉しい気持ちにもなった。

 そうだ。いいじゃないか。デートだってなんだって。楽しもう。そうしないと相手にも迷惑だ。

 そう考え、水を一口飲んだ時、加藤と新庄の周りに人だかりが出来始めていた。

 何だ? なにかやってしまったか? 加藤は心の中で自問した。


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