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青、あお、アオッッ!!


「……楽しみだね」

「…… ああ」


 加藤と新庄は熱気の中にいた。座席についたのである。

 ……それにしても凄い人混みだ。いくらHAVESだからといって二時間半も耐えられるか……? 今更ながら加藤の中に不安が芽生え始めた。そして、人混みだということは……隣の新庄とは当然肩同士などが触れ合っているということになる。意識してしまう。コンサートに集中できない。

 新庄はというと……全く不安がる素振りは見せず、前髪のせいであまり見えない目が輝いているように感じられた。加藤と同じ位、いやそれ以上のファンなのだろう。新庄は独り言のように最初の曲は何かな、などとつぶやいている。……そうだ、今はHAVESのコンサートだぞ? オレも、集中しなくてはな。そう自分に言い聞かせた。

 その瞬間、視界が暗くなった。周りから歓声がワーッ、と湧き起こる。

 続けて激しくて特徴のあるギターの音。とても早い。この音を聞いた瞬間、加藤の中にあった雑念はすべて吹き飛んだ。


「“やっちまえ!!”だ!」


 ついそう叫んでしまった。そしてだんだんと幕が上げられ、彼らの姿が見えてきた。軽くリズムに乗りながら、ギターを弾いている女の人はこのバンドのギターとボーカルを担当しているフウ。また、マイクしか持っていない男の人はデスボイス担当のソウという。そしてメガネをかけたドラムの男はシンだ。シンはラップも担当する。ちなみに、フウはとても容姿がきれいだということで有名で、それを目当てに来ている客も少なくない。このバンドは、ルックスのレベルも高い。歌唱力も、作る曲のセンスも良い。それが加藤がこのバンドを好きな一番の理由だった。


「……私の好きな曲だ」


 うるさい中なので、新庄は今までになく声を大きく張り上げていた。


「オレもだ」


 加藤も声を張り上げた。新庄は少し微笑み、それからは曲にあわせて体を揺らしたり、歌を口ずさんだりしていた。

 ちなみにこのバンドは、ハードコア特有のデスボイスだけでなく、ラップや一般受けしそうな声も取り組んでおり、それを三人でこなしている。加藤がHAVESを凄いと思い、好きなのにはそのような理由もある。

 勉強の合間にウォークマンを使ってよく聞くが、生だとやはり迫力が違う。

 あっという間にサビが来て、あっという間に終わってしまった。これだと二時間半なんてあっという間だな、と思い、加藤のなかの不安は全て無くなった。新庄のこともだ。新庄には悪いが、HAVESはやはり……最強だ。


「え〜。本日は、ご来場いただき、ありがたい限りでございます」


 一曲目が終わり、ソウが深々と頭を下げる。

 クスクスと笑いが起こる。歌っているときは、三人とも攻撃的な性格をしているように思えるのに、普通にしゃべると案外腰が低くて驚く。そして、テンションがものすごく低い。こうしたギャップがあるからこそ人気があるとも言えるのだが。加藤はこの性格の変化が計算によるものではないということを信じている。横を見れば、新庄もおかしそうに笑っていた。


「ええ。本日は二時間半、お付き合い下さい。楽しんでってください!!」


 ソウの言葉に、会場は沸き立った。それは合図に、シンがドラムを早いリズムで叩き始める。二曲目が始まる。


***


「次が最後の歌です。名残惜しいですが、最後の最後まで楽しんでください」


 え〜、と不満の声が上がる。もう二時間半程この人混みの中に立っているのにそれが気になっていない。それどころか、まだ続けて欲しい、という気持ちもあるぐらいだ。新庄も、え〜、という声を上げていた。



「じゃあ、最後の歌、行きまーす! “青、あお、アオッッ!!”」


 フウの声に会場は沸き立った。

 加藤も歓声をあげたい気分だった。その曲は加藤の一番のお気に入りの曲だったのだ。

 激しいドラムの音。続いて、フウの綺麗なギターの音。この曲はハードコアの曲にしては静かな曲だ。といっても、デスボイスなどはしっかり入っているから、このバンドの特徴を表しているといえばそうなるだろう。


“あなたの青春は何色? 私はーー”


 その後に題名が入る。つまり青春が青色だと言うのだ。意味はよく分からないが。その部分が終わると、ソウのデスボイス。なんと言っているのかは聞き取れないが、特に歌詞については気にしない。とにかく何かを言っていて、そのリズムが良ければそれでいいのだ。

 加藤リズムに乗りながら、その歌を聞いていた。

 加藤は特に意識せずに横を見た。その途端、目を見張ってしまった。

 新庄が、新庄の髪の毛が、汗に濡れたりなとして、分けられていた。つまり、新庄の顔全体が見えたのだ。色白な額までもが見えている。

 ……ヤバい。咄嗟に生まれて初めての言葉を使ってしまう。心の中でだけだが。美しいというか可愛らしい。加藤の心臓の鼓動が早まる。これが、これこそが好きという感情なのだろう。顔が火照るのを感じる。じっと見つめてしまう。新庄はそのことに気づいていないが。

 ……あ、いけない。これは最後の曲なのだ。集中して聞かなければ、そう半ば自分にに言い聞かせるように小さく口に出し、加藤はまたステージの方を向いた。早い鼓動は止まらない。

 ……あれ? そんな時、一瞬だけデスボイスの歌詞が聞き取れたような気がした。ソウはこう歌っていた。……気がした。


“声にだしてッ、ださなければッ、後悔しっぱなしーー”


 グサッ、とその言葉が何故か胸に刺さる。加藤が自分に向けて言われているような気がしてならなかった。……新庄に、思いを伝えた方が良いのか? そんなことを考えると、再び顔が熱くなり、その後歌に集中することができなかった。


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