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ツンデレ

「あーあ、もう嫌だよー。もう疲れたー。なんでこんなことしなきゃいけないんだー?」


 そう言って北は広大な中庭の上に寝転んだ。

 今は四人で草むしりに没頭しているところだ。もう一時間弱やっている。もうすぐ五時半になるのであと一時間は学校にいていいことになる。

 加藤が汗を拭きながら北に応答した。


「いや、効果はあったぞ。さっきから、うちの担任のミサキ先生と生活指導部の先生数人が感心している素振りを見せながらオレ達のことを見ていた」

「よっしゃー、ミサキ先生はともかく、生活指導部はこういうことを評価するからねー。よかったー。ってか北っちゃん、やれよ」


 羽生が間の抜けた様子で喜び、北に注意する。やはり羽生にも疲れが見える。健もそろそろ精神的に限界だ。かっこつけちゃったけど。北はあいよ、と言いながら起き上がり、あぐらをかいた。

 その時、うおっ、という声が北の口から発された。


「どうした?」


 北以外の三人が北の方を向いた。

 うおっ。健も心の中で声を上げた。

 北の前には女の子がいた。もちろん、この学校の生徒だ。

 身長は160センチくらい。そして黒い髪の毛を肩まで伸ばしている。顔は比較的かわいい。……ってか、すごくかわいい。スタイルもいい。そんな女の子が北の目の前にいた。立ち居振る舞いから勝気な感じを受ける。


「太もも……エロい……」


 北はその女の子のそれをじっと見つめていた。口に出して言うとは、勇気あるな、北。

その子はすぐ見られていることに気づき素早く一、二歩退き、顔を赤らめた後、つん、とした表情で言った。


「ちょっと、エロい目で見ないで。あたしは二年D組の川崎絵美。依頼に来てあげたわ」

「え? 何?」

「なにか、悪いことしましたか」


 健達の思考回路は疲れて働いていない。なにを言われているのか全く分からなかった。


「はぁ? なに言ってんのよ。依頼しに来てあげたのよ。い、ら、い」


 ポカン、とする健たちに川崎はもう一度言った。依頼? ああそうか。と健が思い出した時、加藤が口を開いた。


「“あげた”というのはどういう意味だ?依頼する身としてその言い方はどうなんだ?」


 加藤は多少憤慨しているようだ。厳しいね、加藤。

 川崎はパッ、と顔を赤らめて俯いた。そして小さい声でごめん、と加藤に言った。加藤は不思議そうな顔をした。だが、健の頭には稲妻が走った。他の二人も健と同じような表情をしている。

 これってもしかして……と健が思うのと同時に健は後ろから引っ張られた。

 北と羽生だ。健達はもじもじする川崎と無表情の加藤に背を向けた。北が小声で健と羽生に話しかけた。


「おい。あいつもしかして……というか確実にツンデレだよな」

「だよねー。アニメ以外で初めて見たー。伊勢っちもそう思うだろ?」


 羽生が健に問う。健はうなずきながら答えた。


「ああ。あれはそうだな。最初ツンツンしてたのに今はデレてる。うん。ツンデレだな」


 我ながらものすごいテキトーな理論だ。まず、“ツンデレ”の定義がよくわからないからな。だが羽生達にそのことを気にする気配はない。


「だよねー」


 そう言ってから羽生は少しデレっと締まりのない顔をした。そして続ける。


「オレ、会って少ししか経ってないのにもう“萌え”ちゃったー」


 沈黙。

 三次元に対して“萌える”とかいう言葉を使わないでほしい。……いや、アイドルとかにならいいけど、同学年の奴にはだめだろ。

 そんな時、健達を加藤が怪訝そうに見た。


「お前ら、何してるんだ?」

「……何でもありませんッ!」


 健達三人は声を揃えて加藤と川崎の方に向き直った。加藤はその様子を見てやれやれといった感じでため息をつき、川崎に向き直る。


「で、依頼があるんだったな。何だ?」

「え、えーと、あの……その……」


 川崎がどもりながら答える。

 その瞬間、健の頭の中にまたもや稲妻が走った。

 健は北、羽生を引っ張り、加藤、川崎に背を向けさせた。そして先程と同じような体制にし、健は二人に小声で話しかけた。


「川崎は加藤に気があるんだよ。だから川崎は普通、男子には“ツン”だけど加藤だけには“デレ”なんだよ」


 テキトー理論再び。

 しかし、北は納得したように頷いた。


「なんでいつも静なんだよー。しかも、あんなにかわいい子に」


 羽生はそんな愚痴をたれている。

 羽生の言う通り、“いつも”加藤はモテる。健には加藤のどこが良いのかよく分からなかったが、確かに顔は“イケメン”の域だろう。

 何人もの女の子が川崎のように明らかに加藤に恋心を抱いていたが、加藤はそれに一度も気づいたことがない。加藤が誰かに対して恋心を抱くこともない。超がつくほど恋愛に疎いのだ。だから、高二になっても彼女はいない。ちなみに彼女がいないのは加藤だけではない。四人ともだ。

 少なくとも健にはそう見えた。


「ちょっと何やってんの。あんた達。さっきからうるさいわよ。」


 デレから復活した川崎が眉をひそめて言った。それに北が答える。


「“うるさい”ってことはないはずだ。なぜなら、オレ達はわざわざ君らに聞こえないように小声で話していたからね」


 ウザい。というか、うるさい。小学生かこいつ。健は北に改めてそんな感情を持った。だが川崎は


「そういう意味じゃないわよ。バッカじゃないの」


 と北に冷たく言い放つ。……超クール。北は“じゃあどういう意味で言ったんだ?”などと聞こうとしていたのだろうか、口を開こうとした。だがそんなことをされたら面倒だ。健は北を手で制す。

 なんだよ、とでも言うような視線を感じる。少しして北はため息をついた。諦めたようだ。


「なあ、お前意識してるだろ」


 ……諦めたのかと思ったら突然北は言い出した。


「何をよ?」

「……いや、何でもない」


 北はは躊躇ったようにした後、そう答えた。川崎はわざとらしく大げさにため息をつき、言う。


「あんたらといたら話が進まない。……まあいいわ。本題に入るけど、私の依頼の内容は……」


 話が進まないっていうのは自覚してるよ。だけど“あんたら”の中に加藤は入っているのかな? そんな意地の悪いことを考えながら健は他の三人と共に依頼の内容を聞いた。


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