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モノポリー


 ガラ。健達は恐る恐るドアを開けた。殺風景な部屋の奥で、テーブルを取り囲んで、四人の生徒が座っていた。清水、長崎、そして名前の知らない気の弱そうな男子が一人と眼鏡をかけたオタク風の男子が一人だ。生徒会執行部はこの四人だけしかいないのは、清水から聞いている。

 健達が入っていったのに、四人は全く気づかない。何かに集中しているようだ。清水先輩がオタク風の人に突然話しかける。


「なあ、葉瀬(はせ)。お前バージニア持ってんだろ。300ドルで譲れよ」

「いやだね。300ドルぽっちで譲れる訳が無い。パークプレースも付けてくれたら考えるけど?」

「……いや、パークプレースはきつい」

「……そう、じゃあ交渉決裂だな」


 ……。モノポリーやってるよ。この人達。健は呆気にとられた。

 このオタク風な人の名前は葉瀬というらしい。そして、清水とは同級生、つまり高三の先輩のようだ。……そしてこの人、加藤並に表情がない。だるそうで今やっていることに興味が無いような感じだ。……この人の目は“死んでいる目”と言うのかもしれない。


「……あのー。すいません。いいですか?」


 気の弱そうな人が申し訳なさそうに手を挙げる。……もしかしたらこいつ、田島?


「何? 交渉? 田島」

 

 清水先輩がすこし苛立たしそうに言う。やはり田島だったか。


「いや、あの……。そちら……」


 田島が健達の方を指差す。モノポリーをやっていた四人が一斉にこちらを向く。


「あ、伊勢君」


 一番最初に声を上げたのは長崎だ。長崎の顔を見たらなぜだか知らないが少しドキッ、とした。


「おお、よう。こっちに来るなんて珍しいな。どうした?」

「いや、全員揃ったんで、挨拶に」


 健はそう答えた。


「ああ、うん。……で?」


 清水は戸惑ったように首を傾げた。

 沈黙。……挨拶って、どんなことすりゃいいんだ?

 葉瀬が口を開き、沈黙を破る。いつの間にかパソコンを机の上に置いている。


「……まあ、この前田島(たじま)の件に関してはすまなかったな。……おいそこの赤メガネ!」

「はいッ! なんすか?」


 北がビクッ、と反応する。葉瀬は小さく息をついた。


「……いや、“メガネくん”、厄介なやつらを一掃してくれてありがとう。あいつら、いろいろとジャマだったからな」

「とんでもないっす」


 葉瀬さんはパソコンから目を上げて北を見た。


「お前、なんとなく気に入ッた。北だっけ? 俺と同じにおいがするよ」

「はいッ。葉瀬さん、よろしくっす!」

「うん。よろしく」

 

 葉瀬は北とそんな会話をしていてもだるそうなことに変わりはない。そして葉瀬はまたパソコンに目を戻し、カタカタと何かを打ち込んだ。

 ピロピロリン。電子音が鳴る。北がハッとし、ポケットから携帯電話を取り出し、開いた。


「あ」

「それ、俺のメアドだから、電話帳、登録しといてよ」


 沈黙。


「なんだ? どうした?」


 皆が黙ってしまったので葉瀬が不思議そうに皆に問いかける。


「……いや、葉瀬さん、なんで俺のメアド持ってたんすか?」

「俺を誰だと思ってんだ? 生徒会の庶務だぞ」

「はあ。そうなんすか」


 北がしっくりこないような顔で頷く。


「お前、なんでその子のメアド持ってんの?」


 清水が聞く。はあ? と葉瀬が声を上げる。


「お前まで知らなかったのかよ……。俺が普段なんでパソコンやってるんだと思ってんの? 学校にまつわる掲示板の管理してんだよ? 俺。そのためにはメアドも必要になるから、全学年のメアドは持ってるよ。一年のはまだ集めきれてないけど」

「マジ!?」

「マジだよ」

 

 葉瀬は少しため息をついてからまたパソコンに目を通し始めた。


「私のも……?」


 長崎の問いに葉瀬はパソコンから目を上げずに答える。


「当然」

「マジ……?」


 長崎は気味の悪いものを見るような目つきで葉瀬を見た。……まあ、仕方ないだろう。


「……ってことは、葉瀬先輩、葉瀬先輩は……パソコンを使って生徒を守ってるってことなんですか?」


 北の言葉に葉瀬は目を上げ、キョトンとした表情になった。長崎はげ、という表情になる。健も長崎と同じような表情になった。


「……まあ、そうなるが」

「……すげー!! オレ、一生葉瀬さんについていきます!」

「……ああ、そうしろ」


 葉瀬は興味がなさそうにまたパソコンの画面に目を戻した。

 北は目を輝かせている。

 沈黙。北と葉瀬の話が終わったからだ。

 清水が大きなため息をつく。


「……まあ、いいや。お前ら、用事無いならもう帰れ」

「ういーっす。失礼しましたー」


 ガラガラ、と騒がしく戸を開けたのは羽生だ。……早い。


「あ、おい。待てよ。オレが先だーーー」

「……っせーな。……大人しくしろよ」

「まあ、健。今日ぐらいはいいだろう」

「今日なんかあったっけ?」


 ガラ。戸を完全に閉めて外に出てから、加藤はああ、と頷いた。少しだけ微笑んだ……ような気がした。


「今日は、四人が揃った、いつも通りに戻った日だ」


 沈黙。沈黙の中で、加藤、健以外の二人はどんどん笑顔になっていく。


「そうだなー!! よっしゃーー、頑張るぞー」

「適度にがんばろおおおおおお!!!」

「全力を尽くせよ」

「んなこと言ったてよ……」


 羽生が口を尖らせる。その顔がおかしくて、健は吹き出してしまった。


***


「……あいつら、はしゃぎ過ぎだよ」


 伊勢達が出て行ってから清水さんはため息まじりにそう言った。……伊勢君達、とても活き活きとしていた。あんな中に私が入ったら、変だっただろうな……と長崎は思った。


「……まあ、いいんじゃないの? 元気があって」


 葉瀬がパソコンから目を上げずに言う。


「はは……ほんとにそうですね」


 田島が笑いながら言った。清水は少し笑みを浮かべた。


「……なんだかんだ言ってあいつらよくやるからな。…………よーし、オレ達も頑張るかぁ」


 そう言って清水は伸びをする。葉瀬がパソコンから目を上げた。そしてうっすらと笑みを浮かべる。


「清水。頑張る前にモノポリーの決着をつけよう」

「……あ。すっかり忘れてた。…………長崎もやんだろ?」

 

 清水が長崎に問いかけた。

 長崎はもちろんです、と笑った。そして思った。


 この一週間とちょっといて分かったけど、やっぱり執行部はいいところだ。先輩も優しいし、何より……


 ……楽しいし。


 そう思って長崎はわくわくとした気持ちで席へ向かった。


「お前、やる気満々だな」

「あ、そんな分かりやすかったですかー?」

「あ、ああ」


 清水が戸惑ったのは長崎が驚くほどに笑顔だったからだろう。


「お二人さん、早く席につきなさい。……さあ、俺からだったな」


 葉瀬がそう言って薄く笑い、生徒会執行部の活動(モノポリー)は始まった。


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