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「おい。待てよ……長崎」


 そう言うと、黒尽くめの奴は凍り付いたように止まった。どうやら健の推理に間違いはなかったようだ。横では羽生がポカン、としている。まあ仕方がないだろう。


「……どうして、わかったの……?」


 こちらに顔を向けないで長崎が絞り出すような声で言った。


「マジで長崎ちゃんなんだ……」


 長崎の声を聞き、羽生がつぶやく。


「……うん。そうだよ」 


 長崎は振り返った。ゆっくりと帽子を脱ぎ、サングラス、マスクをとる。間違いなく、どこからどう見ても長崎だった。


「なんで、分かったの?」


 もう一度長崎が聞く。羽生も興味津々な顔でこちらを見てくる。

 健は小さくため息をついた。

 うぬぼれんなよ。コノヤロー。素人がやったら証拠なんて大量に出てくんだよ! ……なんてことは言えない。

 仕方がないから健は自分の推理を話すことにした。


「……まず、手塚が襲われた時、犯人は羽生がいるのにわざわざやった。だから犯人は、羽生を試してるんじゃないかと思った。だが、次の日の手紙で犯人はオレと羽生、つまり生徒会第一支部を試しているんだということが分かった。で、長崎しかいないという訳だ」


 五秒ほどの沈黙。その後、羽生と長崎は同時に、は? という声を上げた。


「それだけ?」

「なんの根拠にもなってないじゃん」


 おぉっと。端折りすぎたか……。


「……今回の依頼が清水先輩からのだと知ってるのは、羽生が教えた長崎と、生徒会長だけ。で、被害者が騒がなかったことから、犯人と被害者はグル。……実際、スカートをめくられてるとこは誰も見てないしな。手塚と谷本と仲いいだろ、お前」


 また沈黙。早口で言ったから頭の整理が追いついていないらしい。数秒経って、長崎が口を開いた。


「それだけ!? それだけで私が犯人だって!? そんなのだめでしょ」

「まあ、実際そうだったんだから良いんじゃないの? 別にオレはコナンじゃないし」


 ポカン、とする二人を前に、健は続けた。


「……どうせ、お前を捕まえられれば“合格”なんだろ? だったらいいだろ」


 長崎は目を見張った。


「……なんでそんなことまで分かったの?!」


 健は苦笑した。


「それしかないだろ」


 また沈黙。

 その数秒後、長崎は大きくため息をついた。感嘆のため息だろうか。……なんかくすぐったい。

 すると、やっと話についてきた羽生が素っ頓狂な声を上げた。


「え? じゃあ、昨日の夕方に長崎ちゃんのアレは演技だったの?!」

「うん。まあ」


 昨日の夕方……ということは健が長崎にひどいことを言ってしまったときのことだ。

 ズキン、胸が痛む。健は無意識的にうつむいていた。


「だいじょーぶ?」


 羽生の声だ。そして顔を覗き込む気配があった。瞬間的に顔をそらす。

 ……あれ? 顔を逸らした先には羽生がいた。しっかり立っている。……ということは……。

 ……恐る恐る右を向いた。向いた先の鼻がくっつきそうなところに顔があった。長崎だ。


「うおっ!!」


 つい声を上げて退いてしまった。


「どうしたの?」


 長崎は本当に不思議そうな顔をしている。こいつ、自分のしたことが分かってないらしい。……天然? 健は心臓の鼓動を感じながら、そう思った。だが、極めて冷静になるように努めた。


「……いや、なんでもないよ。……ただ……近かったから」


 長崎は最初はキョトン、としていたが、二、三秒経つと、気づいたように顔を赤くした。


「ち、ちがうよ。……そういうことじゃなくて……。あの、昨日のこと、気にしてるんなら、忘れて。……って言おうとおもって」


 ああ、そうだよね、と心の中でアホな声を出している健を見ながら長崎は寂しそうに笑った。そして続ける。


「……別に、私のこと嫌いでもいいよ。私が嫌いにさせる原因を作ったってことでしょ」


 長崎の……ことが……嫌い……。その言葉を心の中で繰り返した。

 ……本当にそうか? いや、昨日まではそうだったかもしれない。だが、長崎とこうやって話してみて、いろいろな面が見えてきた。……もしかしたらすごく良い奴なんじゃないか、こいつ。とさえ思った。

 健が黙っているのを見てか、長崎はまた寂しそうな顔をした。

 ……ヤバい。どうしよう。オレ、こいつのこと嫌いじゃないのに。ああー。こんな時、どんなことを言えば良いんだ……?

 健は焦りながら口を開いた。


「いや、違う。オレ、……。長崎のこと……」

 

 やべえ……なんて言えば良いんだ? わかんねー。健はとにかく焦っていた。特に考えもせずに一言、口走ってしまった。


「……好きだからさ」


 その場が凍り付いたように静かになった。だが、そのすぐ後、長崎の顔は火がついたように一気に赤くなった。そのまま俯く。

 ……え? なんかマズいこと言ったか? 健は今言ったことをもう一度頭の中で唱えた。


「あ」


 顔が一気に熱くなる。ヤバい。……今、“好き”って言っちゃった?


「……おおー……。い、伊勢っちまさかの告白?」


 羽生の野次。やっぱりそう聞こえるよな……。当然だ。

 ……こんなことを考えている場合じゃない。否定、否定。


「……ち、違うよ。オレが言ったのはそういう意味じゃなくて、長崎のことを嫌いじゃないってことで、あの……見直したっていうか……」


 長崎が顔を上げる。そして顔を赤くしたまま聞く。


「ホント? 告白じゃないの?」


 健は顔の熱さを感じながらこくりと頷いた。

 長崎はほっと胸をなで下ろした。

 ……ちっ、そんなに露骨にほっとしなくても良いじゃん。

 ……あれ? オレ何考えてんだろ? と一瞬で否定する。


「……まあ、良かったー。生徒会の人達が優秀な人達で」

「まあね」


 急な展開で戸惑っている間に羽生が胸を張る。


「おいおい。今回はお前、何もやってねえじゃん」


 健ははすかさず突っ込んだ。


「ちぇー。なんだよ。良いじゃん」


 羽生が文句を言う。健が笑い、ダメだよと追い打ちをかける。

 ……いつもの、風景だ。


「……面白いね。伊勢君達」


 長崎が唐突に言った。そして続ける。


「うん。ここなら楽しくやってけそう。私を生徒会に入れて」


 その言葉を聞いた途端、健は顔をさーっ、と青くした。

 あ。やっちまった。……長崎は大きな勘違いをしている。……説明、してなかったー。

 長崎が怪訝そうに健を見る。不安そうな表情も混じっている。


「……ごめん。一個推理間違えた」

「……え?」

「……長崎は、オレ達を試していた。だけど、生徒会としてだ。生徒会第一支部(・・・・・・・)としてじゃない。試すべきだったのは、執行部の方だ」

「え?」


 健の言葉に長崎は今まで見た中で一番、アホな顔をした。

 そして羽生があーあ、と両手を上に上げて、言う。


「最近の生徒会事情は、複雑なんだよ」


***

「で、結局、執行部の方入ったてよ」

「へえー。なんで」

「“伊勢くん達も優秀だったからその上の機関はもっと優秀だろう”って自分に言い聞かせるように言ってたよ」

「ハハ。そうか。……なんか、悪いことしちゃったみたいだな」


 そんなに気にすることないんじゃない? と羽生は軽く答えた。そうかな、と健は曖昧に頷いた。


「そういえばさ、何で伊勢っちさ、長崎ちゃんのこと嫌いだったの?」


 突然の羽生の疑問に健は苦笑しかけたが、堪えて真顔で答えた。


「いや、今思えば大した理由じゃないよ」


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