力試し
健の親友、羽生は廊下の真ん中で寝転がっていた。
「おい。そんなとこで寝転がるなよ」
羽生はゆっくりと健の方を向いた。戸惑った様子はない。
「何?」
羽生特有のゆっくりとした口調で問う。だがその口調の中には、いつもとは違い、少しの棘があった。……ような気がした。やはり本格的に怒らせてしまったようだ。健は再び後悔した。だが、後悔ばかりでは前に進むことはできない。そんなよく聞くセリフを心の中で繰り返しながら健は口を開いた。
「……昨日は、ごめん」
沈黙。その後、羽生は少しため息をついた。だが、どこか照れ臭そうでもある。
「……いいんだよ、別に。謝ることじゃない。謝るなら長崎ちゃんに謝りなよ。……どうせ、長崎ちゃんの話、聞いてなかったんでしょ?」
やっぱり分かられていたか……。羽生も案外勘が良い。
「……」
健が黙っていると羽生はため息をついた。
「……じゃあ、言ったほうがいい? 依頼の内容」
健は黙ったまま、こくりと頷いた。
「じゃあ、帰りながら話すよ。もう遅いし」
そう言って羽生は腕時計を見る素振りをした。健もつられて腕時計を見た。もう五時だ。最終下校は六時半だが、もう帰るのか。
「……行こうよ」
羽生が催促する。
「わかったよ」
健はそう返事をし、健達は校舎を後にした。
***
「ええ!? スカートめくり?!!」
驚きすぎて大声を上げてしまった。内容が内容なので周りの通行人が怪訝そうにこちらを見る。は、恥ずかしい……。健は顔を赤くしながら羽生に小声で話しかけた。
「長崎が“スカートめくり”されたのか。……で、お前がさっき追ってたのが犯人か……」
「そうなんだよ。見てた? あいつさ、すげえ速かったよね」
「ああ。あの怪しいヤツな。」
羽生は昔からかけっこだけは得意と言われていて、かなり速いと思っていたのに、全く追いつけていなかった。……あれ? その時、健に疑問が生じた。
「お前、なんで分かったんだ?」
「え? 何が?」
「何であれが犯人だと分かったんだ?」
羽生はえーと、と思い出すような仕草をした。
「……ああ、えっと、オレが廊下にいた時、例のソイツが教室ん中入って行って、“怪しい奴だなー”って思いながらトイレに行こうとしたら教室の中から手塚ちゃんの悲鳴が聞こえて、何事かと思ったら“スカートめくりされた。捕まえて”って手塚ちゃんがいってさ。それで追いかけたってわけ」
「ふうん」
羽生なりに頑張った解答なのだろう。
「……あれ?」
健はおかしなことに気付いた。どうしたの? という羽生の疑問に疑問で返す。
「お前と手塚以外には誰もいなかったのか?」
「……え? うん。そりゃまあ」
ふーん。健は腕を組んだ。そして聞く。
「……じゃあ、もしお前が万引きするとして、どんな時を狙う?」
これにはさすがの羽生も戸惑ったようだ。
「え? 話が飛びすぎて、わかんないんだけど。……ってか、オレ万引きしないし」
「知ってるよ。“もし”だよ。“もし”」
「えぇー。“もし”かぁ……。うーん……。そりゃあまあ、人がいない時?」
「だよなあ。……じゃあ、もしそのお店に人が一人いて、その人がいなくなればもう誰も来ないだろう、っていう状況の時にはどうする?」
少しの沈黙の後、羽生は口を開く。
「……そりゃあもちろん、その人がいなくなるのを待つだろ…………あっ!!」
ようやく健の言おうとすることに気付いたようだ。
「だろ。さっきだって羽生がいなくなれば六時近くまで人はほとんど来ない。だったら羽生がいなくなってからやればいいじゃないか。……向こうが羽生に気付いてなかったわけじゃないんだろ?」
「うん。だって手塚がいる教室の真ん前の廊下にオレはいたわけだし」
「だったら、そいつは自分の性欲を満たすためにやったわけじゃないということだ」
「じゃあ何の為に?」
即座に聞いた羽生に健は小さくため息をついた。
「……多分、俺らを試すために」
羽生は硬直した。だがすぐに戻り、当然の疑問を投げかけた。
「そんなやつなんている?」
健は大きく息を吸って、吐いた。
「……唯一考えられるとしたら……」
健はそう言って少し間を置いた。
「……清水先輩がいる」




