女の子
「はあ?」
健は清水が先輩であることを忘れて大きな声を上げてしまった。清水ははにかんだ。深刻な表情はどこ行った、深刻な表情はッ! と健は突っ込みたくなった。
「ああ、よろしく。できれば女子で」
清水は生徒会に女子を勧誘して来いというのだ。もちろん、健達の組織にではなく、清水達執行部にだ。
「いや、部員三人はきついんだよ」
「なんで女子なんすか」
同情するが女子探しなんて面倒なことこの上ない。
「いや、それは……」
清水先輩はそう言って言葉を濁らせた。
「いや、加藤が帰ってくるまで待ってくれませんか。あいつなら軽く十人はいけるんで」
「いや、一人で良いんだけど」
羽生の言葉に清水先輩は苦笑した。それに、と清水先輩は付け加えた。
「加藤がそんなにすごいなら、伊勢だっていける気がすんだけど」
「……なんでですか?」
いきなり自分の名前が上がって驚く。二人の視線が健の顔に集中した。
「加藤と違って普通の高校生っぽいしな」
「うん。まあ、確かに、イケメンだよね。加藤がいたから目立たなかっただけで」
羽生も頷く。自分の顔についてとやかく言われるのは恥ずかしい。恥ずかしいので健は話を変えた。
「それだったら、清水先輩が勧誘すれば良いじゃないすか」
だが、あっさりと返されてしまう。
「いや、それだったら依頼しにきた意味ないじゃん」
「……まあ、そうですけど」
言葉が出なかった。ずるい。そんな健の様子を見て、清水はまた快活に笑う。
「まあ、そういう訳だから、よろしく頼むわ」
清水はそう言って立ち上がり、じゃあ俺はこれで、と言って教室を出て行った。
二人は清水が出て行った後もしばらくぼーっとしていた。
***
「えーっとぉ……生徒会に入る人募集してるんで、入りたいと思う人はオレか、伊勢に連絡してね」
朝のHRで皆の前に立ってそう発表したのは羽生だ。健は発表とかそういうのは苦手なので自分の席についている。発表を聞いた後クラスの中は少しざわついた。
「急にどうしたの? このメンバーでやっていくとか言ってなかったっけ?」
唐突にミサキ先生が聞く。羽生はちょっと考えてから、
「まあ、いろいろかなあ……」
と意味のわからない言葉を返した。ミサキ先生は苦笑しながら、そう、と羽生に返した。
そのとき、手が挙がった。
「はーい。おれおれ。おれやりたいでーす」
どんだけ“おれ”を連発すんだよ、と健は心の中で突っ込んだ。その男子生徒の名前は佐部という。北と同じぐらいチャラチャラしてる奴だ。羽生は顎に人差し指を当てた。そして言う。
「あー、えーとね……男子は募集してないよ」
その言葉を聞き、クラス内はまたざわついた。佐部はぎゃあぎゃあと不満の声を上げている。さすがのミサキ先生も怪訝そうな顔をした。クラス内からは“差別だー”などの声も上がる。高二にもなるのに幼稚なやつらだな、と健は思った。中学生かよ。まあ、疑問はごもっともだとは思うが。
「じゃあ、女子しか募集してないってわけ?」
そう聞いたのはクラスの活発な女子、安藤だ。
「そうだよ」
羽生はこともなげに答えた。
「えー、なにそれきもちわるーい」
チャラ女、長崎が声を上げた。大声ではないが、健の耳には確かに聞き取れた。はあ。健はため息をついた。長崎のことは好きにはなれなかった。顔はかわいい部類に入るのだろうが、性格が最悪だ。今だって、長崎の一言のせいで、生徒会に入りたいと思う女子はいなくなっただろう。心の底から溢れ出る嫌悪感を押さえつけながら健はもう終わりにしろ、と羽生にジェスチャーで話しかけた。
羽生はうん、と頷いた。そしてミサキ先生に話しかけた。クラスのざわつきの中で聞き取れなかったが、多分終わりにして良いよ、などということを言ったのだろう。
そのすぐ後、先生の例の手拍子で朝のHRは終わった。
***
「はあーあ。どうすりゃいいんだぁー?ねえ、伊勢っち」
羽生は座りながら大きく後ろに身体を反らした。机に手をついて椅子の後ろ足だけで立っている。六時限の授業、終令が終わり、健達はフリーになった。部室にはまだ行っていない。まだ終令が終わってからあまり時間が経っていないので教室内にはまだ人が残っている。部活の準備でバットを手入れする男子、たむろしておしゃべりをする女子などだ。男子と女子の境目はくっきりついている。男子は教室の前の方、女子は後ろの方だ。
「……そうだな……やっばり、直接勧誘するしかないでしょ。肝心の加藤もいないんだし」
「だよねー。静がいれば客寄せになるよねー」
二、三秒の沈黙。少し後、健はガタッ、と椅子を引いてゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ、行くか。勧誘」
健がそう言い、羽生もうん、と言って立ち上がった。
その時、健の肩が二回軽く叩かれた。それと同時に声も聞こえた。
「ねえ、ちょっと」
健はドキッ、とした。聞こえてきた声が女の子のものだったからだ。健の肩には手が置かれたままだ。ワイシャツごしにその子の手の温度を感じる。ひんやりとしていた。
健は振り返った。そこにある顔を見て健はドキッとしてしまったことを後悔した。
そこには健が苦手な女子、長崎なつめがいたのだ。




