生徒会第一支部“偽善同盟”
「はあーあ。疲れたー。いや、肉体的には疲れてないんだけど、精神的にね? わかる?」
「……理解し難い」
「はあ?! なんでだよ? 人間にはそういう時があるものじゃないんですか? 加藤くん」
「人間全体に結びつけて考えるのは適切ではない」
「……ああ、そーすか。……やっぱ学年一位は違うねえ」
「その話は今、関係ないだろう」
幼馴染二人の口論に、伊勢健はため息をついた。そのどうでもいい口論を続けている幼馴染は天パチャラメガネの北恵太と、イケメン真面目眼鏡の加藤静だ。
「あー、お前、伊勢ー。ため息つくなよ、バカみたいじゃん、オレが」
「バカだよー。まず、北、なんかしゃべり過ぎ、ってか声でかい。うるさい」
健の代わりに北の言葉に即答したのはもう一人の幼馴染、羽生圭介だ。パソコンの画面から目を離していない。学校内だというのに堂々とエロゲーをやっている勇者だ。ちなみに羽生の髪の毛は肩まである。いわゆる“ロン毛”というやつだ。
「ああ? てめーに言われたくねーんだよ、羽生コノヤロー」
「うるさいなー、RPGオタク。高二にもなって、RPGとか、笑えちゃう」
「ああ!? RPGバカにすんじゃねえぞ!! ってか、エロゲーオタクよりはマシなんだよ」
「なにー? エロゲーバカにすんなよー? この天パやろー」
「これは天パじゃねえーよ!!」
「天パじゃなかったらなに?」
そんな感じで口論は続く。加藤と北より、北と羽生の口論の方が長く、うるさく続く。
加藤はそんな二人を、眼鏡を押し上げちらりと一瞥しながら文庫本を開いた。どうやら無視することにしたようだ。
健も無視することにした。……うん、無視。……無視しよう、……無視、無視。
「っせーよ!!!」
うん。無視できなかった。毎度のことだ。
「すんませーん」
北と羽生が同時に肩をすくめる。
「分かればよろしい」
なんて、言ってみる。これも毎度のことだ。
健の一喝によりこの部室内には平和が訪れた。四人はそれぞれ自分のしたいことをし始める。健は漫画、北はゲーム、羽生もゲーム、加藤は小説。
健達は今、“依頼人”を待っている。健達はこの早鷹高校で“人助け”活動をしているのだ。ここはそのための部室であり、また健達四人のくつろぎの間でもある。本来は部室は“くつろぎ”の為などに使ってはいけないのだが、健達は“偽善魂”をもとに人助けをしているため、プライド面では何の問題もない。早鷹は校則から何から全てがゆるいので、先生に怒られるなどということもほとんどない。まあ、こうしてこの生徒会第一支部、“偽善同盟”うまくやってきたのだ。
「はあーあ。……依頼人さん来ないかなー」
エロゲーに飽きたのか、羽生が伸びをしながら言った。
「まぁ、もうそろそろ来る頃だろ。落とし物とかが」
「落し物ってさぁ、疲れるだけなんだよね」
「まぁ、そうだけどな」
健は頷いた。
そんな時、ドアをコンコン、とノックする音がした。
「おお! 来たぞ!」
北の声に一同は今やっていることをやめ、背筋を伸ばす。
「どうぞ」
ガラ。ドアが開く。そこにいた人物を見て、健は、ため息をついた。
「なんだ…… 。清水先輩か…… 」
「なんだってなんだ。もっと嬉しそうな顔しろよ 」
「自分の感情に逆らえない年頃なんで」
北はわざとらしく赤いメガネを中指で押し上げた。清水先輩は苦笑した。苦笑だけだ。返さないところはやはり先輩なだけある。
清水先輩は、生徒会長だ。生徒会組織は生徒会執行部と、健達生徒会第一支部がある。清水先輩は執行部の方に籍を置いている。だが、たまにこうやって第一支部も見に来るのだ。
日に焼けた肌に整った顔。そして、スタイルの良い筋肉質な体。そっちの気があるわけではないが、健は毎回見とれてしまうほどかっこいいと思っている。
「お前ら、暇だったんだろ? 依頼、持ってきたよ。庶務さんが、中庭の草むしりやって欲しいってさ」
「えぇー。草むしりぃー? マジすか」
そう不満の声を上げたのは、羽生だ。
「マジだ」
清水先輩は深く頷いた。
ため息。執行部にはデスクワーク系な仕事を任せてあるので、肉体労働は全部こっちに回ってくるのだ。
「わかりました。じゃあ、今から行った方がいいですか」
やる気満々なのは加藤だ。無表情だが。まあ、こいつが無表情なのはいつものことだ。
「おう。頼んだ」
やる気すごいな、と清水先輩がまた苦笑する。苦笑なのは下心があることを知ってだろう。
毎回とは限らないが、結局利益が自分達に回ってくることは知っている。ただでさえこの部室を使わせてもらっているのだから、たまにくる面倒な依頼にいちいち文句を言うのもな……。清水先輩の苦笑から健はそう思い直した。
「よっしゃー。行こっか」
「ああ」
北の言葉に健は立ち上がった。背後で羽生も立ち上がるのを感じる。
すると、ああ、おい、と外に出て行こうとする健達に向かって清水先輩が躊躇ったように話しかけてきた。
「なんですか?」
「ああ、いや、お前ら、いい奴らだと思うんだよ」
「なんすか、急に」
「……いや、その……。お前ら、その活動って見返り求めてやってんの?」
沈黙。
なんだそのことかと思って健が答えようとしたら、それより早く加藤が口を開いた。眼鏡を押し上げながら。
「ええ、今のところは。利益がないとやっていけませんから。といってもがめつく訳ではありません。人助け活動をすれば望まずとも様々な形で収益が得られると知っているので」
清水先輩はフッ、と小さく笑った。
「賢いね。生き方を知ってるっていうか」
褒め言葉なのかどうか微妙だったが、健は褒め言葉として受け取ることにした。そして微笑む。
「まあ、オレ達は、“偽善同盟”ですから」
清水先輩はそうか、と小さく笑った。
「じゃあ行くぞ」
「ああ」
健の声に偽善同盟一同は頷いた。
偽善同盟はどんな面倒な依頼でも引き受ける。その見返りのために。
健はそっとそう呟いてから仲間と共に日の入り前の中庭に向かった。




