身代わり
初投稿です。温かい目で読んでもらえれば嬉しいです。
「すみません。あなたM氏でございますよね」
タクシーから降りたM氏は不意に声をかけられふりかえる。肩まで伸びた髪にサングラスをかけたこの男にM氏は怪しいという印象を受けた。
「なんだね君は人に名前を尋ねるのならまず自分から名乗るのが礼儀ではないのかね」
「いえいえ、そんな必要はありませんよ」
男はそう言って懐から何かをとりだす。黒光りするその物体は拳銃だった。
「ちょ、ちょっとまて、そ、それはいったいどういうことなんだ。冗談にも・・・」
「ほどがある。ですか?残念ながら冗談じゃあないんですよ。」
男はMの額に拳銃を突きつける。
「なんで私が殺されなきゃならんのだ」
「それはご自身がよくご存じのはずですが」
「ま、まさか!」
Mは、某企業の会長であった。彼は世間の表側だけではなく、政界など裏側にも通じていた。彼を消したいと思う者がいてもおかしくないのだ。
「だ、誰だ、いったい誰なんだ、私を狙っているやつは、山本か、それとも山口か」 男は拳銃の引き金を引く。
「これから死ぬあなたがそれを知っても意味はない」 男は夜の闇へと消えていった。
「会長少しお時間よろしいですか?」
幾人かの重役を相手にワイングラス片手に談笑している会長に囁くように男は話かけた。男はこの会長と呼ばれた男の秘書であった。
「影武者の死亡が確認されました」 その言葉に会長は表情を変える。しかし、秘書にはその表情の意味はわからない。
驚きか。
歓喜か。
哀しみではないことは確かだ。
「そうか、片割れが、か・・・」
そう言ってグラスの中のワインを飲み干す。
「至急、次の準備をするように言ってくれ、データはあるんだろう?」
「しかし、クローン一体造るのにお金も時間もかかります」
「データがあればわしと同じになるまで一年もかからんだろ。それに」
Mは窓越し月を見上げる 「金ならいくらでもある」