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彼女  作者: 悠以
9/10

第八話『一番いいカタチ』

夏休みに女の子を堪能しまくった私だけど、高校では一部の友達と部活のメンバーしか知らない。もちろん、山本君もその場に居たから知ってるんだけど、好きだって気持ちは伝えてない。この気持ちだけは明かせない。部活という繋がりが無くなっても、彼の笑顔を見たかったから。


クラスのみんなも、私が性同一性障害だとは知らない。まだしばらくは、男として高校生活を送らなきゃならない。きっと、男として生活することへの違和感は、夏休み前より大きくなるだろう・・・。


そう不安に思いつつも夏休みは明け、新学期を迎えた。それでも、学校にメイクしていったりしたんだけど、よく思わないクラスメイトもいたよ。こっち見ながらヒソヒソ喋ってた。雰囲気や視線から察するに、きっと悪く言われてたんだろう。

だってね、まだ発表してないから・・・私はタダのメイク男子。そりゃ仕方ないわ。理解を示してくれる子達もいて、自分の居場所があるって幸せだと感じた。

クラスでも相当な理解を示してくれたのは・・・担任の先生。普通にメイクしてれば、近寄らなきゃバレない感じだったんだけど・・・睫毛。つけるにせよ伸ばすにせよ、コイツをやっちゃうと一発でバレちゃう。女性には特に。


『おーい城都くーん。今日の睫毛、ちょっと長くないかなー?』


『え?そうですか?普通じゃないですか?』


『うん、長いから落としてこようねー。わかるけどダメよー(笑)』


そんな感じで、強く咎められることもなかった。先生・・・大好きだ。

先生をはじめ、理解してくれる人達がいたから・・・私は幸せに高校を卒業できたんだろう。学ランが嫌だとか体育が嫌だとか・・・一人で悩めば深刻だったけどこの時期には【些細なこと】だと思えるようになってた。


この9月に、以前紹介状をいただいていた精神科に行き始める。費用や診療内容は割愛するけど、初診での性同一性障害専用の問診票の記入がハンパない。A4用紙で7枚にも及ぶ記入。口頭での問診。結構な時間と手間だけど自分が本当の自分に戻る為に必要なんだって思えば、全然乗り切れる。

その間、自分が今まで感じてきたことや、してきたことを振り返ることになる。これはとても大事なことだと思うよ。自分を見直す、いい機会になるから。



4月からは新しい学校。新しい環境。ホルモン注射。なにもかもが一変する。その事を自覚しながら残りの高校生活を送ろうと思った。卒業式を迎えたら、クラスのみんなにもカミングアウトしようと決めた。


でもまぁ・・・それまでにも少しずつ個人的にカミングアウトしてたんだけどね。約2年、男らしさのカケラもない(いや、当然だけど)私に暴言を吐き続けた男子はそれまでの態度を深く反省して謝罪してくれた。その真摯な態度と、少し心が通った嬉しさで、泣きそうになるのをなんとか堪えた。謝り合戦してたよ(笑)


他の男子でも、いままでの苦労話を聞いてくれたり、今後を心配してくれたりした。やっぱり私は・・・周りの人にとても恵まれてたんだね。カミングアウトの後も、変によそよそしいでもなく、本当に自然に友人として受け入れてくれた。


11月の誕生日には・・・行きましたよ。


THE・脱毛


ヒゲとか指とか・・・目立つ部分だけでもやっておきたかった。4月までに。相当お高かったけどね・・・。


ダイエットも頑張った。ってか、油断してまた頑張ってを繰り返した。今はジムに通ってるんだぜ!劇的な変化だぜ!・・・ごめん、ちょっと調子乗った。そんなに劇的でもないわ。


女声も自然に出るようになってきたし、態度・振る舞いも自分を偽らず、自然体でいようと思った。


変にコソコソせず、堂々としていることで、周りの態度も変わってきた。


ただ、女である・男であるってだけじゃない。そこには、飾らない一人の人間としてどれだけ自分に自信を持ち、どれだけ魅力的でいられるかが重要なんだと気付いた。


外見を女にしたり、手術で体を女にすることは、言葉は悪いけど・・・お金でなんとかなる。でも、人間として人間らしく、魅力的になるには、お金だけじゃどうにもならない。


自分で自分を好きになって自分を変えなきゃ、誰も自分を好きになってはくれないんだ。


そんな私の高校生活も終わりを告げる。卒業・・・その日を迎えた。いよいよカミングアウト・・・。っていうか、フライング気味に結構な人数に明かしていたのでさほど抵抗はなかった。


でもほら、ケジメだから。


待っていたのは・・・祝福。薄々感づいてた人達も、やっと言ったかって感じだった。

もうね、辛い・苦しい・嬉しい・楽しい・愛しい・恋しい・・・色んな感情が、たくさんの思い出がギュッと詰まった高校生活だったね。


小学生の頃からずっと私に付き合ってくれた・・・美咲。家族以外で初めて私を理解してくれて、いつも助けてくれた、私の大切な大切な親友。


厳しくも優しく、私とつるんでくれた・・・大黒君。私を初めて女性として扱ってくれた男性にして、私の善き理解者。


胸が痛くなるような、そんな切ない恋心を私に芽生えさせた・・・山本君。想いを伝える事はなかったけど、時には苦しかったけど、大切な思い出をくれた人。


クラスや部活のみんな・・・時々は嫌な思いもしたけど、最終的には私という人間を理解してくれた、大切な友達だ。


そして・・・あまり触れなかったけど、私の最大の味方で理解者。私に何があっても、どんなに傷ついても、私を支えて、守ってくれる・・・お母さん、家族。


たくさんの人に支えられて、私は今日も私でいられる。とても充実した幸せな毎日を送れてる。自分が嫌で、不安で、自分が不幸なんだと感じている、似た境遇に身を置いてるたくさんの人。きっと、あなただって一人じゃない。確かに、結構な勇気は必要だけど、ほんの少し心を開けばいい。受け入れてくれる人は、きっとあなたの傍にも居るはずだから。だから、自分を嫌いにならないで。【性】【性別】に悩むたくさんの人。それに関しての【正しい】はきっと、人それぞれなんだよ。自分で選ぶ道は、自分で正しいものにしなくちゃいけない。





あなたが無理をせず、あなたでいられること。それがあなたの一番いいカタチなんだからね。





終。

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