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彼女  作者: 悠以
7/10

第六話〜女として〜

ブログの方だけで公開しておりました。お待たせ致しました。

苦い思い出を残しつつも、私達は揃って3年生に進級した。色んなことを経験し、何かを決断し、そして次のスタートラインにつく。そんな高校最後の1年が始まった。


でも・・・私はまだ、山本君とのわだかまりを解消できずにいた。


気まずい・・・話したいけど話せない・・・近寄って、話しかける事すらままならない・・・


元来ナヨっちかった私にウジウジも追加装備され、それはそれは鬱陶しかったことだろう。

昨年10月から始まって半年以上が過ぎた5月。しびれを切らしたのは美咲だった。


『ホントにもう・・・。いい?呼び出してあげるから、ちゃんと仲直りしなよ?』


そう言って、山本君を公園に呼び出してくれた。嫌われてると思ってたけど、実は私が気にしすぎてて・・・彼もなんとなく私と話し辛かったんだと言われた。


案ずるより産むが易しって言うけどさ、私一人なら案じ続けるだけだっただろう。

ここでも私は美咲に助けてもらったんだね。本当に感謝の念しか浮かばない。


『なに?おまえらって、まだそんなギクシャクしてたの?』


後に経緯を知った大黒君は、そう言って笑ってた。上手く仲直りできたから笑って済むけどこじれてたら一発殴ってたかも知れないな(笑)


なにはともあれ、なにもかもが元通りになりつつあった。美咲や大黒君、そして山本君との関係が良好なまま、季節は初夏へと移って行く。


この頃から大黒君とよくつるむようになる。恋愛感情とかじゃなくて、気の合う遊び友達として。夜中にゲームセンターに行ったり(良い子はマネしちゃダメだぞ)して、馬鹿みたいに遊んだ。さすがに夜中の3時に帰宅した時は、お母さんにコ~ッテリしぼられたよ・・・。自業自得だけど。



夏の吹奏楽コンクールに向けて、練習も本格的になってくる。私達にとっては高校最後のコンクール。そんな思いもあってか、今まで以上に練習に打ち込んだ。


でもやっぱり、大黒君と遊びまわる毎日は変わらない。ほんの何年か前のことなんだけど・・・若いって凄いなぁって思う。今では想像つかない体力だ。


遊び回ってたある夜、私達は急な雨に降られて、閉店後の家電量販店の駐車場に隠れるように滑り込んで雨をやりすごそうとしてた。


暗い駐車場は・・・なんだか秘密基地みたいで、雨の中を走っていく車のライトも、濡れたアスファルトの音も、むっとした空気も、ふいに訪れる静寂も、どこか現実離れしてた気がする。


出会ってから今までのこと

一緒にいて楽しいって気持ち


そんなとりとめのない会話で時間を繋ぎ、何度目かに訪れた沈黙。


『あのさ・・・。』


あの時、なんで口を開いたのかはわからない。きっと、大黒君に感じていた安心感にも似た友情が私の中から自然に言葉を湧き上がらせたのかも知れない。


『ん?どした?』


今までの会話と同じテンポで返事が返って来る。


『俺がさ・・・女だったら・・・引く?』


『は?どういうこと?イマイチ意味がわからん。』


『いや・・・だからさ・・・見てくれは男だけど、中身が女だってこと。』


『ん?ああ、アレか。何とかっていう・・・。』



『性同一性障害。』


『ふーん・・・。』


『軽っ!あのね、性同一性障害っていうのはね・・・。』


『いやさ、お前がその病気だったとして、お前が【城都 勇気】だって事は変わんないだろ?』


『うん・・・まぁね。でも・・・なんとも思わないの?』


『何か思う必要があんの?お前はお前。それでいいじゃん。全然気にならない。』


『本当に?気持ち悪いとか変だとか思わない?』


『しつこいな。思わないって言ってるだろ。』


また一人、私の理解者になってくれた。本当に救われた。歓喜と安堵で、またも泣きそうだった。


『よっしゃ、帰るか。』


いつの間にか雨は小降りになり、自転車でも十分帰れそうだ。少しは濡れてしまいそうだったけど、そんな事は気にならないぐらい、晴れ晴れとした気分だった。


このあと数日して、冗談っぽく手を繋いでくれた。恋愛感情はないけど、彼の気遣いが嬉しかった。

さらに数日後、またまた冗談っぽく抱きしめられた。それ以上のことは無かったんだけど

父親以外の男の人に生まれて初めて抱きしめられた感覚は、私に進むべき道を示してくれた。


女になろう。


これまで曖昧だった私の【性別】への観念が、しっかり固定された瞬間だった、


『ちゃんと、女になれよ!』


そう言ってくれた大黒君は、今も私の善き理解者であり、友人だ。

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