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彼女  作者: 悠以
6/10

第五話〜カミングアウト〜

高校2年の7月、私たちは吹奏楽コンクールの地区予選に出場した。

私に関しては圧倒的に練習不足だったわけで・・・でも吹き切った。

結果は・・・まあ、そんなこと・・・別にいいじゃない(笑)


それでも私はチューバを練習した。

私と山本君を繋ぐのは吹奏楽だったし、少しでも長く同じ時間を共有したかったし。

私・山本君・大黒君の3人は交流を深め、10月頃には一緒に映画に行く約束をしたりと仲良し3人組になっていた。


が、そんな約束を交わした翌日のこと・・・


『なあ・・・お前さ、本当にやる気あんの?ないんならもう、吹奏楽やめたら?』


そう言って私に厳しい言葉を浴びせたのは大黒君だった。パート変更からこっち、練習するもののイマイチ気分が乗らないままだったのを見透かされていた。

そしてそれは、山本君にも伝わってたみたい。


男子グループの中で【私】【山本君・大黒君】といった感じに分かれてしまう。自分の技術不足も、精神的な未熟さにも、それ他人に悟らせてしまう事にも、少し嫌気がさした。


この頃には、自分が男であると認識させるものすべてへの嫌悪が、憎悪と呼べる程に強くなり自分自身の性別に対する葛藤が大きくなってくる。


声・顔・体・・・。


とりわけ、ヒゲへのコンプレックスが酷かった。剃っても残る剃り跡が嫌で嫌で堪らなくて、延々と抜いた。そんなことを繰り返していれば当たり前だけど、出血したし肌も荒れた。

それでも、男から遠ざかりたかった。私自身、男である事が許せなくなってきていた。


【私はきっと、男じゃない。この体は間違いなんだ・・・。】


はっきり自覚したのは、この頃だったと思う。


その他にもクセ毛が嫌で、市販の縮毛矯正剤で髪を傷めたり・・・。今にして思うと馬鹿馬鹿しいことだって失笑ものだけどさ、当時はそれぐらい深刻だったの。そんな事を繰り返してりゃ、やっぱり不審に思う人も少なくないよね。


でも、私には理解者がいたんだ。お母さんや家族なんだけど、それ以外の人は知らなかったの。


そして12月のある日、私は美咲にメールを送った。


「あのさ・・・俺、実は美咲に隠してることがある。」


「・・・何?」


「俺って、美咲から見て・・・ってか、普通に見てどう思う?」


「んー・・・なんかナヨナヨしてる感じがする。」


「うん、大正解。」


「それが何?いまさらじゃないの?」


「いや・・・だから俺・・・じゃなくて、私は・・・。」


そんな感じで美咲にカミングアウト。きっと理解してくれると信じてたけど、それでも怖かった。


「そっか・・・そうだったんだ・・・。わかった。」


そう返信してくれた美咲は翌日、マジョリカマジョルカのチークをプレゼントしてくれた。


「勇気って少し地黒だから、きっとオレンジ系のチークが似合うと思うんだ。」


もうね・・・本当に泣きそうなぐらい嬉しかったよ。美咲の気遣い・思いやり・・・私を理解してくれて、友達でいてくれること全部が嬉しかった。やっぱり、一番の親友は美咲なんだって強く思った。



で、部活の方に話を戻すんだけど、2月にアンサンブルコンテストがあるのね。その出場の向けて、私・美咲・山本君・大黒君・後輩の5人で金管五重奏の練習に励んだ。


大黒君とは割とすぐに元通りになったんだけど、山本君とはまだちょっとギクシャクしたままで

仲直りのきっかけすら見つからないまま年が明け、もうすぐコンテストって時期になった。


美咲の前でだけなんだけど女の子としていられるようになった私は大量のバレンタインチョコを作った。


アタマ、大丈夫?馬鹿なの?


ってぐらい作った。でも、誰にも渡せなかった。もちろん、山本君にも・・・。チョコを誰かにあげることに急に嫌悪感をおぼえたから。そのチョコは全て私が食べてしまった。


それでも時間は容赦なく過ぎていき、コンテストは目前に迫っていた。


相変わらずギクシャクしたままの私と山本君。

時々交わされる言葉も部活で最低限必要な、事務的な会話ばかり。


泣きそうになりながらも練習を重ね、コンテスト当日になった。本番を迎えても私達の関係は改善されないまま。会話すらままならないもどかしさと、自分の不甲斐無さにおしつぶされるように私はトイレで泣き崩れた。


コンテストには出場し、演奏した。私が音を外してしまったこともあって、残念な結果に終わる。


山本君に激しく叱責してもらいたかったけど、それも叶わなかった。凄く・・・凄く・・・彼が遠い場所に居る気がした。


本当に・・・何の関係も無い他人のように認識されてる気がして辛かった。

女友達へのカミングアウト。当時はまだカミングアウトが怖かった時期でした。


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