過去 異形の者
今ではない数年前のことである。
髪の長い男は石を拾った。見た目は数珠のように繋がった石であった。
顔に傷を持つ男は石を拾った。見た目は下流の川の石ころのような石であった。
女は石を拾った。見た目はダイアモンドのような形の小さな石であった
ベッドで横たわっていた者は石を貰った。見た目は獣の牙のような石であった。
血まみれの男は石を持っていた。黒く光る黒曜石のようであった。
男は石を持っていなかった。右手の甲に紅く輝く石が埋まっていた。
最後にフードを被った者は石を拾った。見た目は石というよりは指輪のような石であった。
この七人は石がすべての石が所有されたとき、同時に脳裏に声が響いた。
『汝、願いはあるか。汝の欲望、夢、復讐、死者の生還、汝らの如何なる願いでも叶えよう。』
声は優しくもあり、怖くもあり、恐ろしくもあり、弱弱しくもあり、強くもあり、いかれており、神々しく、狂っているかのようにも聞こえた。
『ただし、条件がある。汝らは無意識のうちにある者の近くまで行く。汝らは自分の本能で判断し、彼のものを殺す、それだけの遊戯だ。』
声は言った
『しかし、彼は普通では殺せない。したがって、遊戯の開始時に各々に力を与えよう。使役方法は与えられると同時に手足を使うような感覚で使えるようになる。…では、遊戯を開始する』
瞬間、七人、各々に力が与えられ、声の言う『遊戯』が始まった。
…それから数か月後、ある曇りの日、人通りの少ない田舎道で崖崩れが起き、車がそれに驚きハンドルを切り間違い、ガードレールにぶつかった。
その一部始終を見ている男がいた。
ただの男ではない。男の腕は巨大に膨れ上がっており、獣の足、というよりも化け物の腕の様な筋肉隆起しており、指も同様で、指先にはあらゆるものを抉り取るような爪が生えており、そこには泥がこびり付いていた。
男の腕が一瞬にして人間の腕に戻ったが、男の両足が獣の足に変わった。男は足を曲げ、力を込めて車の下に跳んだ。普通の人間であるなら確実に死ぬような高さから跳んだが、男は常人ではない。呪受者だ。男は両腕を翼に変え、静かに地面に降り立った。
男は翼を再び化け物の腕に変え、崖崩れで落ちてきた巨大な岩を軽々と持ち上げて、車を叩き潰した。
車からは乗っていた者の血と混じったガソリンが漏れていた、しばらくすれば引火して爆発するかもしれない。
男がその場を離れようと車に背を向け、歩き始めると男に水滴が当たった。曇り空が遂に均衡を崩し、雨が降り始め、すぐにどしゃ降りになった。
男は自分の右手を見るとすでに元の状態に戻っており、泥と鮮血が雨で混ざり合いながら腕を下って行った。
男は高らかに笑い、勝利を手にしたかのようだった。
その男の首には紐で下げられた黒曜石があった。