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真約聖書  作者: 凌田 葭
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第五話 事実

 研究棟から逃げ出してきた刻は校舎に置いてきてある鞄を取りにいかずに校門を走って出て行った。


 夏近くと言っても、もう六時近くであり、七受市は日が早く沈むため、すでに空が赤く染まってきているところであった。


 校門を抜けてしばらく走り続け、通学路の途中、普段からよく通る『木のトンネル』の半分を過ぎたあたりで足を止めた。周りに人はおらず、少し離れた所に黒い車が止まっているだけだった。学園から此処までそれなりの距離がある。それをずっと走り続けてきたため、刻の呼吸はかなり乱れていた。乱れた呼吸はすぐに元の速さに戻りつつあり、ただ走ってその場から逃げることだけを考えていた頭が少し冷静になると自分が鞄を持っていないことに気がついた。


「くそ、置いてきたままじゃないか・・・」


 鞄は研究棟に行く時に教室に置いてきた。鞄の中には特に貴重品は入れていないため、何か盗まれて困るようなものは無いのだが、一応やらなければならない課題もあるが、このまま家に帰ると明日の朝に鞄を持たずに登校することになってしまい、周りから変な目で見られてしまうだろう。目立つことをあまり好まない刻にとって、どうでもいいという事ではないのだ。


 刻は噴出した顔の汗を拭うと先ほど走ってきた道を仕方なく戻り始めた。だが、一瞬躊躇って足を止めた。刻は辻風、いや、正確には辻風 紫勇という名前で本来とは違う姿をしていた、虚神 実宵に自分が最悪の堕天使の記憶を引き継いでいるということを告げられ、さらに自分の命まで狙われるという事を言われた。信じられるわけも無いことだが、刻は実際に展開の風景や、彼女の使用した魔法を見た限り、信じるしかないと考えていた。だが、あまりに非日常的過ぎて、信じなければならないであろうことが信じられないのだ。


「何が何なんだよ・・・」


 そう呟いた時、制服のポケットに入れておいた携帯がよく聞くような電話の着信音を鳴らし始めた。携帯を取り出して画面を見ると知らない番号からだった。刻は先ほどのこともあり、電話に出る気になれず、切ろうと思ったが、ボタンを押しかけた瞬間に携帯が通話の状態に何故かなってしまった。


「・・・・・・」


 一瞬戸惑ったが、仕方なく電話を耳に当てた。


「はい、凪裂ですが、どちら様ですか?」


 刻が電話に出ると、スピーカーからはっきりと聞こえて、聞き取りやすい、優しそうな女性の声が聞こえてきた。


『私、舘原学園学園長の秘書をさせて貰っております、山縞 犀香(やましま さいか)と申します。凪裂 刻様ですね?』


 舘原の学園長秘書と聞き、若干驚いた刻だったが、あれだけの私有地の所有者が秘書の一人もいない訳無いか、とすぐに考え、返事を返した。


「学園長の秘書の方だったんですか・・・。確かにぼくが凪裂ですが、何の御用ですか?」


  最早今日何度目の気だるさだろうと、考えるほどの冷静さを取り戻した刻は周りには誰もいないので別にいいだろうと考えその場で山縞と名乗る女性の話を聞いた。


『はい、学園長が刻様とお話をしたいと申しておられまして』


「学園長が?俺に?」


『はい』


 いったい学園長が自分に何の用なのか一切分からなかったが、刻は今は誰かと話したくなかった為、学園長と話すのは断ろうと決めた。


「残念ですが、今は誰とも話したくはないんです。しかも、いきなり話をしたいだなんて困ります・・・」


『そうですか、ではまたの機会に・・・。え?・・・・・・・・・はい、かしこまりました。』


 山縞は会話を終わらせようとしたが、何かあったらしく一瞬だけ黙ってしまったが、すぐにまた話し始めた。


『刻様、学園長が一つだけ自分の口で伝えたいと申しておりまして、これを聞いてから話をするしないを決めて欲しいとことです。すぐに終わると思いますのでどうか聞いてください』


 山縞にそう言われ、すぐに終わるというのでまあいいだろうと思い、山縞に「分かりました」と答えると、『すぐに替わりますので少々お待ちください』と言うと、携帯から保留音が流れたが、ほんの一瞬だけだった。


『凪裂 刻君だね?』


 保留音が切れるとすぐに落ち着いた男性の声が聞こえてきた。学園町というのでもっと老人の様な声かと思ったが、予想に反していた。


『ん?どうしたかな?聞こえていないのかな?おーい、聞こえてるなら返事をおくれー』


「え、あ、はい!!」


 自分の予想に反していた声に戸惑ってしまい何も言わないでいると、間の抜けたような声で返事を要求されてしまい、予想していたこととの違いがあったことと、急に呼ばれてしまったことで、刻は思わず舌を噛みながら声を裏返してしまった。


『あっはっはっはっはっは、そんなに驚かないでくれよ。驚かすつもりなんて無かったのに君が変な声を大きく言うから思わず笑っちゃったよ、いやー、ごめんごめん』


「え、あ、はい・・・・・・」


『うん、今度は噛まずに言えたね、よかったよかった、また噛んでたら山縞君に叱られてしまう所だったよ、危ない危ないっと』


 刻の学園長に対する第一印象は変わっているだった。


「・・・あの、用件は何なんですか?出来れば早くしていただきたいいんですが」


『ああ、すまないすまない、すぐに話すとしよう。まず知っているとは思うが私は君の通う舘原学園の学園長の『辻風 紫勇(つじかぜ しゆう)』だ、名前は知らなかったと思うけどね』


「いえ、知っています・・・。虚神(うつろがみ)から聞きました」


『おお、そういえば虚神君とはもう顔を合わせているのだったね。』


「ええ、まぁ・・・」


 此処に来る前にあったことを刻は思い出していた。美少女というに相応しい少女だった。彼女は仮の名前と姿を使って刻達の特殊カリキュラムを担当していたが、今日、刻は正体を見た。


『さて、君に一つだけ言わして欲しい、そしてこれを聞いてから私との談話をするしないを決めて欲しい』


 どうせ、ゆすりか何かでもするのだろうと考えていたが、考えを変えるつもりはなかった。


「分かりました」


『うん、じゃあ前置きとしてだけど、落ち着いてきてね・・・』


 辻風の声のトーンがさっきとはガラリと変わった。さっきまでの『お気楽』な感じではなく、本当に重要なことなのだろうと、刻は察した。


 まさか、一日に二回もこんな場面に遭うとは考えたこともなかった。いったいどんなことを言われる、この人はいったい何を知っている等のことを考え、絶対に驚かず気にしない用に辻風が何を言うのかを予想を立てていた。


(この人はいったい何を言うつもりなんだ?まさかここで冗談なんて言わないだろうし、何かこの人に知られて、有益な物になりそな物なんて思いつかないし・・・・・・)


 刻が試行錯誤していると、辻風が息を吸う音が聞こえた。




『君の両親はただの事故で亡くなられた訳じゃない、


呪受者達(・・・・)によって引き起こされた事故によって亡くなられたんだ』




 刻の脳に雷が落ちたような衝撃がはしった。刻は自分の両親は唯の(・・)事故によって死んでしまったと聞かされていたが、実は両親が事故にあったが、不信な点があったという話をこっそり聞いていた。


 そう、刻の両親が事故にあった場所は人通りの余りない田舎道を走っていたところ、崖崩れに巻き込まれてそのまま帰らぬ人となってしまったのだが、崖崩れの崩れたところに何か獣の爪でえぐった様な大きな跡があったのだ。当初は警察も事件かと考えていたらしいが、その崖崩れはとても大きく、人がこの規模の崖崩れを起こすには爆弾か何かの爆発物が必要であったが、事故の一部始終を見た人がいうにはがけ崩れが起きた時、爆発音は無かったと言う。


「ま、待ってください・・・、百歩譲って学園長の話が本当だとして、何故学園長はそのことを知っているんですか!?」


『私が話すのはここまでだよ。続きが聞きたかったら、私のもとに来て欲しい』


「クッ・・・・!」


 刻は歯軋りをした。何があっても驚かないと考えていたが、結局辻風の一言に動揺してしまった。


「・・・そちらに行けば何があったか話して貰えるんですね?」


『勿論だよ。君の質問にも私の答えられる限りなら答えよう』


「・・・・・・分かりました、今から行けばいいんですね」


 辻風の処に行けば両親が死んでしまった本当の理由が分かるかもしれないという希望をもち、刻は辻風の処に行くことを決めた。


『いや、君が歩いてくることはない、実はもうすでに車を用意してあるんだ。少し離れたところに黒い車が見えないかい?』


「え・・・・・・、はい、ありますね」


 そういえば、自分がここに来たときからあったことを刻は思い出した。


『そこに私の部下がいる、さっき連絡させたから、すぐにそっちに行くはずだからそれに乗って、こっちに来て欲しいんだ』


 辻風の言うとおり、黒い車が刻の方へと近づいて、目の前で止まった。


「乗るだけでいいんですね?」


『そう、君は乗るだけで良いんだ』


 刻がドアに触れようとした瞬間、ドアが自動的に人が入れるほど開いた。刻は一瞬訝しげな顔をしたが、何もなかったかのように車に乗った。


『では、こっちで待っているよ』


 辻風がそう言うと直ぐに通話が切られた。ドアは開いた時と同じように自動で閉まった。


 車の中には女性と男性がいた。男性は運転席に、女性は後部座席にいた。男性はドアが閉まったのを確認すると、車を発進させた。


 運転をする男性はイヤホンマイクを付けており、服装は夏にも拘らず黒いスーツをしっかりと着ており、刻の隣に座る女性は男性とは対照的に、薄手のシャツと白を基調としたスカートを履いた女性だった。


 女性は資料を手に持ち数枚ほどめくっていき、途中何度か刻の方を横目で見ていた。資料をめくるのを止めた女性は刻の方を向くと、小さくお辞儀した。


「初めまして、私、学園長のボディーガード兼舘原学園図書委員長をさせて頂いている、『栞紙(しおりがみ) 四葉(よつば)』と申します。以後お見知り置きを」


「え!?が、学生だったんですか?」


「はい、学年は刻様より一つ上なんです。刻様は一つ下ですので余り見たことはないと思いますけど」


 事実、刻は四葉を見かけた記憶がなかった。というよりも、スーツを着た四葉は社会人ですと言えば信じてしまうほど大人びていた。綺麗で艶のあるロングヘアーで、鼻梁も高く、目は若干下がり気味で、とても優しそうな印象を抱かせる。そんな女性が自分の横に居るとなると刻も高校生である、先ほどから脈が速まって、緊張状態に陥っており、顔も赤くなっているのではない方いうくらい熱さを感じていた。そんな刻の姿を見て、四葉は首を一瞬傾げたが、直ぐに察したらしくクスリと笑っていた。


「フフッ」


 そんな矢先、運転をしている男性が口をあけた。


「・・・・栞紙、もう直ぐ着く、無駄話は止めておけ」


 男の声は何処かぎこちなかった。


「別に無駄話なんてしていませんよ、明途さん。それより、自己紹介しないあなたの方が失礼では御座いませんか?」


 明途と呼ばれた運転手は、黙り込んでしまったが、直ぐに口を開いた。


「佐々奴 明途だ・・・・・・。・・・・・・・・・よろしく」


「は、はい、此方こそ・・・」


 最後のほうの言葉は、仕方なく付けた様な気もしたが、四葉が微笑みながら頷いていたので刻は気にしないことにした。


 そして、先ほど明途の言った通り、舘原学園の門が見えてきた。因みに舘原学園で車が入るのは正門で、刻としては入学式以来入ったことが無かったので、まるで始めて入るかの様な気分でいた。


 校門の守衛は門ごとに二人以上常におり、正門の二人は車を見ると脇により、軽く会釈して車を通らせた。正門を抜けると目の前に坂がありそこに階段が設けられている。車は階段の左右にある緩やかなカーブを描いた車道を下っていく。坂を下りきると二つの車道が一つになり、学園本部に向かって伸びる道路

にのって進んでいった。


 そして本部前に車が止まると四葉がわのドアがやはり勝手に開き、四葉が降りた後、刻も降りた。


「学園長がお部屋でお待ちです。学園長室は本部最上階、五階にあります、ご案内いたしますわ」


 明途も降りるのかと思ったが、刻が降りると直ぐにドアが閉まり、車は何処かへ行ってしまった。


「さあ、参りましょうか」


「・・・はい」


 四葉に促され、刻は四葉の後について行った。

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