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真約聖書  作者: 凌田 葭
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第四話 魔術と刻まれた記憶

やっと本題に入ってきました!!読んでくださってる方お待たせしました!!

 三時限目の『宗教学』の授業において、辻風 紫勇の出した問いに正解することの出来なかった刻は、放課後に辻風の研究室に来るように言わた。そして今は指定された放課後である。


「はぁ・・・」


 刻は辻風の研究室のある、学園の南西、宗教学研究棟、別名『地獄の研究棟(ラボラトリオブヘル)』の前にいた。この研究棟は生徒達から「あそこに入ったら二度と戻ってこれない」、「変な儀式の生贄にされる」などの噂が立つほど不気味な研究棟。この研究棟は辻風が学園長に頼んで建ててもらったものであり、不気味な研究棟だが、外見だけは真新しさの残る建造物だ。二階建てで、地下にも一室あり、白い小さなビルのような外見だ。


「何されるんだろ・・・」


 と、刻は一物の不安を抱えながら、研究等に入っていった。


 研究棟に入ると目の前にいきなり床に幾何学的な模様があり、その中に三つの円があり最も内側の円がから中心に向かって何本もの直線や曲線が延びていた。刻は何だろうと思い、その模様に近づいてみた。


「何だこれ?」


 刻がその幾何学模様に触れると模様が青色に発光始め、驚いた刻はすぐに手を離した。模様は離してからしばらく経っても輝き続けていた。


「な、何・・・!?」


 模様をまじまじと見つめていると、不意にまたあの感覚が刻を襲った。


「っ!!」


 刻に脳裏に何かがはしった。浮かび上がる映像。空に雲は無く、一面の青。地面は土ではなく、本来上を見れば浮かんでいるはずの雲が足元にあった。周りを見渡すと草や木、花や蝶などもいた。さらに中でも目を引いたのは自分の立っている雲の下には本来自分のいるはずの町があった。だが、次の瞬間今の町並みが荒野になったり、中世ヨーロッパのような町並みに様変わりした。まるでテレビのチャンネルを変えるかのように変わっていき、遂には恐竜のいる時代にまでなった。


「(何なんだこれは)」


 自分はいったい何を見ているのか、いったい此処は何処なのか、何故雲の上に立てるのか等の疑問が浮かんだが、答えてくれる者は誰もいない。しかし、視界の外から誰かが話しかけてきた。


「―――――、どうした、こんな所で?」


 後ろを振り返り、相手の方を向こうとした時にその映像が消えた。


「!!、はぁ、はぁ、な、なんだったんだ今のは・・・」


 刻は酷く汗をかいており、呼吸も乱れていて、まるでマラソンを今の今まで走っていたかのような状態になっていた。すると何処からか、白衣を着た辻風が目の前にいた。辻風は刻の頭に手を乗せると、何かを呟き始めた。


「大地に眠りし力の根源よ、生命の根源よ、我にその力を使役させ、彼の者に癒しと活力を与えよ」


 辻風が奇怪な言葉を終えた瞬間、刻にあった虚脱感が消えうせた。辻風を見るとタバコをくわえて刻を見下ろしていた。辻風は刻が平気だということを確認すると。


「凪裂、すまなかったな」


「え、どういうことですか?」


「お前の触れたこの術式はお前に刻まれた記憶を引き出すためのものだ。だが、おまえにはまだ負荷が大きかったようだな。ふむ、少し計算が狂ったか・・・」


 刻は辻風が何を言っているのか分からなかった。術式というもの、刻まれた記憶、それを引き出そうとした辻風、先ほどの辻風の行った行動、そして自分の脳裏に浮かんだビジョン、その全てが分からなかった。


「い、いったい何なんですか今のは!?俺の脳裏に浮かんだものは何なんですか!?、辻風先生がやったことって何なんですか!?術式ってなんですか!?辻風先生は何なんですか!?」


 刻が放った声は周りに反響し、部屋を振るわせた。刻の質問を聞いた辻風は五月蝿そうに両耳を手で塞ぎ、気だるそうに口をあけた。


「お前は五月蝿いやつだな、おまけに質問ばかりする幼子の様なやつのようだな。質問をする時は一つずつ聞いて、それを消化していくべきではないのかな?出席番号11番凪裂 刻よ・・・」


「・・・・・・人の神経を逆撫でするのがお得意のようだなアンタは」


「おや、先生からアンタに格下げかな?酷いものだな、目上の者には敬意を払うようにと習わなかったのかな?」


「そんな事よりも俺の質問に答えてくれ!」


 辻風は飽きれた言うような表情を浮かべた後、溜め息を一つついた。再び気だるそうに刻の質問に答え始めた。


「まず一つ、お前が触れた術式はいわゆるゲームやオカルトと呼ばれるようなもので使う儀式のようなものを行う上において必要なものだ。二つ目に私がお前に行ったのはいわゆる『魔法』だ」


「・・・儀式、魔法?」


 刻も高校生である、ゲームなど何度もやったことがある。無論その中にはMPを消費して使う魔法もあった。だがそれはゲームの中の創造、フィクション、実際にはありえない事なのだ。しかし、辻風は魔法をを使ったというのだ。刻はありえない、何かの錯覚だと考えた。


「ふむ、どうやら信じていないようだな・・・」


「あ、当たりま・・・」


 ビュンッ!と何かが自分の顔の横を何かが通り抜けていった。刹那、刻の後ろで小さな爆発が起きた。刻が後ろを向くと床でユラユラと火が燃えていた。さらに先ほど何かが横切った側の頬がちくりと痛み、鼻腔を突く焦げ臭さがあった。辻風の方を再び見るとニヤニヤと刻を見て笑っていた。


「魔法は詠唱しその場で発動させるか、このように魔方陣を紙などに描き携帯することが出来る」


「あ、ありえない・・・」


「ありえない、ねぇ・・・。そんな無粋な言葉を言うものではないぞ。ありえないなどと決め付けてしまえば、人間の探求はそこで止まってしまうものだ」


 などと言いながら辻風は右の人差し指を立てると


「降り注ぐ光の星を包む熱き魂よ、その魂を具現し我が指先に灯したまえ」


 と先ほどのように詠唱をすると、辻風の立てた指先に小さな火が現れた。その一部始終を見た刻は目を見開いていた。その顔に満足したのか、指を折り曲げ火を握りつぶして消した。


「これで信じてもらえたかな?」


「・・・・・・・・・」


「ふむ、唖然、というか間抜けだな。まあいい、では三つ目だ。私は―――」


 と言いながら右手を上に掲げ指を鳴らした。その瞬間辻風を中心として白い風が吹き上がりその姿が見えなくなった。


「なっ!?また魔法か!?」


 ビュオオオオオォォォォォォッッ!!!


 と轟音を挙げ始めた。風は凄まじく強く、足から力を抜いたら壁に叩きつけられそうな程強く、目も開けてられない程で、刻は何とか踏ん張り、耐えていた。


 しばらくして風が弱まっていき、ついに風が掻き消えた。風に包まれていた辻風はどうなっているのかという疑問を浮かべながら閉じていた目をゆっくり開けていった。


「つ、辻風?」


 風が止み辻風がいた所に辻風はいなかった。辻風はいなかった、が、刻よりやや背の低い少女がいた。少女を見てまず目に付くのはその長く美しい黒髪。長さは腰の辺りまで長く、まるで濡れた鴉の様に深い黒色であった。目は凛としており、眉も整っている。体つきもしっかりしており、胸の膨らみ、体のしなやかさ、どれも美しいというに相応しく、その少女を表すのに『美少女』、『美人』等の言葉以外一切当てはまらない程の美しさであった、服装は先ほどまでいた辻風と同じ服装だが、あきらかにサイズが違った。


「ふふふ、そんなに見つめられると、少々私も恥ずかしいぞ」


 あまりの美しさに言葉を失っており、その少女を凝視し続けていた刻は、少しの間を置いてやっと我を取り戻した。


「え、あっ、き、君はいったい・・・」


 刻が質問をすると、少女は「フゥッ・・・」と嘆息をついた。


「また君は質問をするのか・・・。まったく呆れてものが言えないよ」


 と少女が言った瞬間刻はある仮定を思い浮かべた。刻は恐る恐る彼女にその仮定をぶつけた。


「ま、まさか、つ、辻風なのか・・・?」


「おいおい、先生を呼び捨てにするなよ」


「い、いやどう見たって俺と同い年くらいじゃないか・・・」


「残念だったな、私は今年で54歳だ」


「えっ!?」


「嘘だ」


 と少女が冗談を言い、刻はこんな美少女が三十路や四十を超えた人でなくて安心していた。


「ククク、良かったな、私のような美少女が三十路や四十を超えた中年でなくてお前と同じ16歳で」


「うっ・・・!」


 自分の考えていた事を見透かされ、刻は恥ずかしさを覚えた。また魔法でも使って自分の頭の中でも覗いたのかと思うほどだった。


「な、何で、辻風が、た、確か無精髭の生えた男じゃあ・・・・・・」


「なら下を見てみるか?」


「んなっ、なっ・・・・・・!?」


 少女の一言に思わず顔を赤らめた。刻も思春期の高校生であり、こういった類のものにも興味はあったが、顔を少女から離していた。


「ジョーダンだ」


「お、おまっ・・・・・・」


 最早刻は少女のおもちゃとされてしまったようである。刻は怪訝な顔を浮かべながら肩を落した。


「いい加減にしてくれ・・・・・・」


 完全に少女のペースに持ち込まれてしまい、此処から持ち直すのは無理と考え、先に進ませようとした。


「そうだな、もう飽きたし」


「・・・・・・」


 刻はもう黙るしかなかった。


「さて、補足だが私の名前は辻風 紫勇ではなく、本名は虚神 実宵(うつろがみ さねよい)だ」


「・・・辻風 紫勇じゃないのか?」


「辻風 紫勇は私が静華で働く上での仮名だ。だが確かに辻風 紫勇は存在し、それはこの学校の学園長だ」


「何!?」


 確かに今まで学園長の名前を聞いたことはなかったがまさか、自分の授業を担当していた教員の名が学園長の名を借りたものだったとは考えたこともなかった。


「だが何故、この学園で働いているんだ・・・」


「それは単純だ、此処は私にとって有益だからだ。ここで私の本当の名を知っているのは学園長と、お前だけだ」


「だが、何故働けるんだ・・・」


 そう、ここは日本、法のある国だ。法によって定められた年齢を迎えなければ働くことは出来ない。


「んっ?それは、まあ、細かいことだ、気にするな」


「いや、ぜんぜん細かくないから!!」


「えぇー、だってー、説明すんのめんどくさいしー」


「いきなりキャラを変えるな!!ていうか、飽きたんじゃなかったのかよ!!!」


「おー、つっこむねぇー。まあ、冗談はこのくらいにしてっと」


「うぉいこら・・・」


 と実宵と刻のやり取りが一段らくして、実宵は最後の質問に答えることにした。


「さて、最後の質問に答えてやろう、凪裂・・・、いや、ここは刻と呼ぼうかな、この方が親しみがあっていいな、うん、それがいい」


「・・・・・・好きにしてくれ」 


「ああ、そうさせて貰おう」


「早く最後の質問に答えてくれ!!俺が見たあれは何なんだ!!!」


 刻が見た謎の光景、雲の地面、その下の移り変わる自分達の社会、そのどれもが普通はありえないことだ。だが、その光景を見たのは刻だけだ、その事に今更気づいた刻はあわてて説明用使用としたが、喋ろうとした瞬間、実宵に手で制され、黙ってしまった。


「離さなくても分かる、さっき説明した、あの術式によって私も見ていた。お前の見ていた光景は―――」


 ゴクリッ、一番気になっていたことが語られるということは、とても気になるというものである。しかも、今日の授業のこともある。


「ルシフェルの記憶だ」


「ルシフェルって・・・、確か今日の授業でやった、あの?」


「ああ、そうだ、神に謀反を行い、地獄に堕された天使。その記憶がお前の中にある。」


 驚愕だった、まさか今日の授業でやったことがそのまま自分に関係することが起きるとは夢にも思っていなかったからである。


「ルシフェルの記憶がお前の中にあると気がついたのは、今日の授業でだ。あの質問の初めのことは興味のあるものなら誰でも答えられる。だが二つ目の質問で刻、お前はイザヤ書のことと、どこかの国に自分の力を注ぎ込んだ石をばら撒いたといった。この、どこかの国に自分の力を注ぎ込んだ石をばら撒いた、このことは何処の記述にも載っておらず、私などを除いて数少ない聖職者達しか知らないことだ。だがお前は知っていた、何の変哲もないただの一介の高校生であるお前がだ、つまりお前がルシフェルか、その記憶を引き継いでしまっているということ意外無いんだ。お前の見た光景は私も初めて見るものだったが、恐らくあれは天使や神の住む『天界』と呼ばれる所で、あれはルシフェルが反乱を起こす前に見たことのあるものだったのだろう」


「あ、ありえない・・・」


「ありえない、さっきも言ったがそれは間違っている、この私達の生きる世界においてありえないと呼ばれるようなことの数の方がありえないというに相応しいほど少ないのだからな。この魔法だって、結局は有限で、魔力というモノがあるという過程で置けば、全て説明がつく。実際お前のように、天使などの記憶を引き継いだ者は数多く存在している。だがお前は普通ではない、堕天使の中で最も厄介なルシフェルの記憶を持っている。記憶を持っているということは、少なからずルシフェルの力を持っているということだ。お前ははっきり言って、かなり珍しい存在であると共に、危険な存在でもあるんだ」


 刻は自分はいったい何なのかが分からなくなっていた。今までは普通の生活をしてきた、これからだってそういう生き方をしていくのだろうと考えていた。しかしもう、もとの生活に戻れる気がしなかった。自分は謀反を起こした堕天使の力と記憶を持っている、それはもう一般人とは言えない。化け物と呼べるのかもしれない。


「確かにお前は危険な存在だが、まだ力の方は覚醒して内容だな。もう一つ、お前に伝えなければならない事がある。それは、ルシフェルがばら撒いた石のことだ。石は数珠のような形をしていて、それを誰かが拾い、不の感情を拾ったものが抱いた時、石の力が解放されてしまい、石ごとの力が所有者に与えられる。石の種類は七種、それぞれ『狂』、『嘘』、『裁』、『召』、『逆』、『操』、『蝕』となっていて、この石の力を持つ者のことを『呪受者』という。この呪受者はルシフェルの記憶を捜し求めている、つまり、お前に向かって来ると言うことだ」


「な、なんで俺なんだ!?何で俺に変な記憶があるんだよ!?」


 刻は叫んだ。何故自分なのか、自分でなければならなかったのか、という疑問が刻を襲う。


「それは私にも分からない、だがこれは事実だ。ゲームやおとぎ話なんかじゃないんだ。お前はお前に向かってくる呪受者をどうにかしなければならない。呪受者は不の感情を抱き石の力を解放すると所有者にあなたを殺せば願いを叶えてくれるようになると教える。そして異能を使う変わりに自分の寿命という代償を支払わなければならない。その代償の量は力の大きさによって変わり、失われた寿命は戻らない。だが、ルシフェルの記憶を持つ者を殺すとその記憶が自分に宿り、尽きることの無い寿命を手に入れる。不の感情を開放したものの第一目標は呪受者はお前を殺すことに変わり自然とお前の方に近寄ってくる。お前が何処に逃げようとも奴らは追いかけてくる。同じルシフェルからできたモノだ、自然と引き合ってしまうのだろう。だからお前は戦うしかないんだ」


 実宵に未だに信じ切れない現実を前に刻はただただ、呆けることしかできない。さらに、自分が殺されかかっているということを聞かされ、怯えていた。


「信じられるをけが無いんだよ!!!まず根本的に戦いたくない!!俺は普通の人生を生きていきたかったんだ、そんないきなり戦わなければ死ぬなんて言われて納得で切るわけ無いだろう!!!死ぬのなんて嫌だ、俺は普通に生きていられればそれで良かったのに、何でこうなってるんだよ!!!」


「甘えたことばかり言ってんじゃないわよ!!」


 パシッ、と平手打ちをし、実宵が今まで使っていた口調とは異なる口調で刻を叱った。


「クッ・・・・・・」


 と自分が言ったことと、自分の弱さに恥ずかしさを覚え、刻はその場から駆け出して、研究棟から出て行った。

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