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真約聖書  作者: 凌田 葭
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第三話 記憶

 学校に着いてから朝のHR、1時限目、2時限目と順に終わり、3時限目の『宗教学』という、静華高校の特殊な授業の一つだ。『宗教学』はその名の通り、世界中の宗教、さらに世界中の神話、すなわちギリシャ神話、北欧神話などの一般教養ではないため、何のためにあるのかと刻は考えたこともあった。その時に刻が調べてみると、どうやらまた学園長が「いろんな宗教の事を知ってもらい、教養を身につけてもらいたい」とのことで作ったと刻は聞いた。つまり、また学園長の権力であったのだ。


 そんな、学園長の職権乱用によって作られた特別カリキュラムをまじめに受ける者はほとんどおらず、刻、那実に剣吾、更には磨輝も授業を受けようとはあまりしない。しかし、氷我思ただ一人はこの授業をしっかりと受けている。因みにこの授業にはテストというものは無い、しかし希望者にはテストが一応受けられる、が、勿論これも受験者はわずかしかいない。また、氷我思はこのクラスでほぼいない受験者で「無論受ける」と言っている。


 今日の内容はキリスト教の七つの大罪についての授業である。


 七つの大罪とは4世紀のエジプトの修道士エヴァグリオス・ポンティコスの著作に八つの「枢要罪」として現れたのが起源である。八つの枢要罪は「暴食(ぼうしょく)」、「色欲(しきよく)」、「強欲(ごうよく)」、「憂鬱(ゆううつ)」、「憤怒(ふんぬ)」、「怠惰(たいだ)」、「虚飾(きょしょく)」、「傲慢(ごうまん)」である。6世紀後半には、グレゴリウス1世により、八つから現在の七つに改正された。「虚飾」は「傲慢」に含まれ、「怠惰」と「憂鬱」は一つの大罪となり、「嫉妬(しっと)」が追加されたことにより、「暴食」、「色欲」、「憤怒」、「強欲」、「怠惰」、「嫉妬」、「傲慢」となっている。七つの大罪には関連する『悪魔』がおり、前述の大罪の順に『ベル・ゼブブ』、『アスモデウス』、『サタン』、『マモン』、『ベルフェゴール』、『レヴィアタン』、『ルシフェル』となっている。


 そして今は「傲慢」についての話を無精髭を生やした三十代の担当の教員がしていた。この教員は『辻風 紫勇(つじかぜ しゆう)』といい、何でも、大学の時に宗教にはまり、その後教職免許を取り舘原を受けたところ学園長が是非その宗教の知識を我が校で活かして欲しいとのことで静華に来たのだという。


「『傲慢』は高い自尊心、他人より重要、魅力的になりたいという欲望、賞賛をそれに値する者へ送ることの怠慢、過度の自己愛などを指しており、旧約聖書の『箴言』に「奢る者は久しからず」という言葉がある。自尊心或いは虚栄心は、自分の能力に対する過信を意味し、それは、神の恩恵を理解する上でのさまたげとなるという意味だ」


 と担当教員がやや命令口調で説明していた。


「では・・・、凪裂、この『傲慢』に関連される悪魔とその悪魔に関してなにか答えてみろ」


「えっ!?え、えっと・・・」


(ま、まずい、辻風先生、答えられないマズいんだよな・・・)


 この辻風は生徒に授業をちゃんと受けている、受けていないにかかわらず、ほぼ無作為に生徒を選び、質問をし、3回答えられなかった場合、否応に無しに宗教学のテストを受けなければならない。さらにこのテストで50点以上を取れないと何かをされてしまうらしい。この「何か」とは、未だ誰もそれを知らず、その事を辻風に聞いても「ククク、何、受けてみれば分かることさ。ま、どうなっても知らんがな」と、意味深な言葉を言ってそれ以上何も言わないため、皆いろんな噂が立っており、その中には口にも出したくないような内容もある。


「ククク、どうした?分からないか?」


(くっ、どうする、これで答えられないと、強制的にテストを受けなきゃならないじゃないか!くそ、まず、こんなの分かるわけ無いだろ!興味なんて無いのに・・・)


 刻がなどと、頭の中で辻風に毒づいたが、状況は良い方向へ一切変わらない。むしろ、時間が過ぎてゆき、強制テストへの道が到達していきそうになる。


(仕方ない、ゲームで出てきそうな適当なモンスターの名前でも言って間違えておこう、そして今日から宗教学の勉強をしよう・・・)


「オルゴデミ・・・」


『・・・ル・・・フェル・・・』


「・・・・・・っ!」


 刻が某RPGのモンスター名を言おうとした瞬間、脳裏に何かが自分に囁く様に言葉が浮かんできた。刻が周りを見回すと、他のクラスメイトが雑談などを止めて刻の事を何事かと見ている。辻風も何事かと見ていた。


「どうした凪裂?」


「え・・・、あ・・・、な、何でもありません」


『・・・ルシフェル・・・・・・』


(まただ・・・)


 こんどははっきりと感じ取ることが出来た。この自分の頭に浮かび上がってくるものは刻には分からなかったが、目の前に迫る強制テストの方に意識がいってしまっていた。刻は先ほど言いかけた某RPGの魔王の名前ではなく


「ル、ルシフェル、ですか・・・?」


 先ほど脳裏に浮かんだ事を刻は答えてしまった。「しまった」と、刻は思ったが、言い切ってしまったので、もうどうにでもなれ心境になったており、「テストだろうが、その次の何やら恐ろしそうなことでもやってやる」と腹を括っていた。しかし、辻風のほうを見ると、予想外の三文字が顔に書いてあるかのような、まさにその表情を浮かべていた。


「正解だ、よく知っていたな・・・」


「ど、どうも・・・」


 刻の予想に反して、刻の言った答えはあっていた。


「では、その悪魔に関して説明してみろ」


 今度こそ、終わったと思ったが、再び脳裏にまるで記憶の箱を引っ繰り返したかのように言葉が思い浮かんできた。


『「暁の子、ルシファーよ、どうして天から落ちたのか。 世界に並ぶ者のな い権力者だったのに、どうして切り倒されたのか。それは、心の中でこううそぶいたからです。 「天にのぼり、最高の王座について、御使いたちを支配してやろう。 北の果てにある集会の山で議長になりたい。 一番上の天にのぼって、全能の神様のようになってやろう。」 ところが、実際は地獄の深い穴に落とされ、しかも底の底まで落とされます。と、イザヤ書に記されており、『地獄』に堕とされる前に、ルシフェルはとある島国に七種の石の中に自分の力を注ぎ込み、各地にばら撒いたのです」』


 刻が自分の脳裏に浮かんだことをすぐに自分のことのようにしゃべっていき、それが終わった瞬間、他のクラスメイトがドッ、と沸いた。


「すげぇー、刻よく知ってんな!」


「実は影で勉強してたんじゃないの?」


 などと、他の生徒が騒ぐ中、辻風が手を二回叩き、意識を自分の方へ向けた。


「んんっ!・・・凪裂、見事な語りだった。・・・が、残念だが私のテストを受けてもらう」


「え!?」


「確かにあっていた、しかしそれはイザヤ書の所までだ、ルシフェルが島国に自分の力をばら撒いたなどという記術は無い。残念だが蛇足だったな」


「そ、そんな・・・」



 刻は机にうな垂れた。しかし、辻風は冷や汗を背中に掻いていた。


 刻が顔を上げた瞬間チャイムが鳴り、授業が終わった。


「凪裂、放課後に私の研究室に来い、いいな」


 と、辻風はその一言を残して教室出て行った。

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