第十一話 関係
最近何かと忙しかったので、ものすごく投稿が遅れてしまいました…。
氷我思が那実の剛撃を喰らうも、僅か十秒足らずで復活した。
「で、クールに落ち着いて聴かせて貰おうか、お二方の関係を…」
氷我思が片目をCGか何かで加工したかのように目の周りを青くしたゾンビの様な顔をズイっと近くに寄せてきた。
「いや、関係と言われても、お互いに共通の知り合いがいるだけだし…なあ…?」
そう言って刻は自分の横にいるラフアに同意を求めた。
ラフアは自分に回された視線に若干の戸惑いを感じながらも、刻の言葉を肯定した。
「え、えぇ、そうです、私と刻さんははっきり言ってしまいますと、そこまで親しい関係ではありません」
「ほらな?」
顔をラフアから先程よりも色の濃くなった痣を持った氷我思の方に向き直った。
されど氷我思は疑いの目を向けていた。
すると、半ば興味なさげだった那実が助け舟をだしてきた。
「別に良いじゃない、あんたが気にする事じゃ無いんでしょ、おんなじ事ばっか言ってると天河さんに嫌われちゃうわよ?」
それを言われた氷我思は腕を組んで少しの間の葛藤の後、顔を上げた。
「ま、そうだな、女の子に嫌われてまで知りたい事なんか俺には無いし、それに考えてみたら、刻みたいな奴でも既にクラスに知り合いがいた方が何かと楽だもんな」
「誰がみたいな奴だ、バカ天才…いや、成績一位のラフアの方が頭良い訳だから、天才が消えてただのバカだな」
「お前、そりゃねぇよ…」
氷我思が落ち込むと、そのやりとりが面白かったのか、はたまた下らなかったのか、ラフアはクスクスと笑っていた。
「お二人共仲がよろしいんですね、そんなご友人がいらっしゃって羨ましいです」
ラフアがそう言うと、刻、氷我思、それと那実は顔を合わせ、再びラフアの方を向くと三人共満面の笑みを浮かべた。
「何言ってんだ、ラフアはもう俺達の友達だぜ?」
刻が言った。
「そうそう、こんな感じの事は日常茶飯事だぜ?」
氷我思が茶々を入れる様に言った。
「こいつが変な事しようとしたり、されたりしたらあたしに言ってね、ブッ飛ばしてやるから」
那実が妹を守る姉の様に言った。
「このクラスにいる限り、飽きたなんて言葉はいわせないよ~‼」
「うおっ!?」
何処からかやって来た、と言うよりも背負われてやって来た磨輝が何処からともなく現れ、氷我思が驚いてのけ反った。
「大変かもしれないでござるが、楽しいでござるよ」
磨輝を肩車した剣吾が穏やかな口調で言った。
磨輝を言葉で表すなら神出鬼没、天真爛漫である―――。彼女を天真爛漫と表されるのは恐らくすぐに分かるだろう。
しかし、神出鬼没―――。この言葉が磨輝に当てはめられるのは彼女の下、つまり、剣吾の存在があるためである。
しかし、この事は後に置いておこう。ネタバレを此処でするのは無粋だ。
「お前らは本当にいきなり現れるな…」
氷我思が呆れた様に二人を見て言うと、
「アハハハ、驚いて貰う為にやってるんだもん、いきなり出てこなきゃ驚いてくれないもん(笑)」
「括弧笑いを口で言うな!!」
磨輝と氷我思の絡みにより、二人に那実と剣吾を加えた四人でラフアそっちのけで騒ぎ始めてしまった。
刻がラフアを横目で見ると、少しオドオドとしていた。
刻はそっと肩に手を置いた。
「オドオドしなくたって平気だよ。みんな俺の友達だし、かなり濃いメンツだけど、悪い奴は誰一人としていないから安心しなよ」
刻はラフアがまだ緊張していると思い、笑って和らげようとした。
「はい、でも不安は一切有りません。刻さんのご友人なら、良い方々だと信じていますから」
そう言って、ラフアは自ら四人の会話に入って行った。
刻の心配は必要はなかったわけであった。
――――うん、良かったな。……しっかし、ラフアがあんなに行動的だったのは以外だよな……
うむうむ、と口から若干洩らしながら頷き、刻自身も会って間も無いのだが、さながら親が子を見るかの様に眺めていた。
しかし、話に盛り上がるラフア達の会話に加わろうとした時、刻は僅かな違和感を覚えた。
その違和感の正体は直ぐに分かった。
糸である。
糸、といっても服のほつれによる糸屑などでは無い。那実、剣吾、磨輝の三人から、いや、刻の目にはラフアと氷我思以外の教室にいる全員の頭の上から上に向かうもくうちゅうで途中で切れたキラリと光る糸が延びていた。
刻は一番近くにいる那実に近づき、頭上の糸を振り払おうとしたが、糸に触れた感触は無く、糸も切れることもなく、虚しく空を切るのみだった。
「どうした?那実の頭に何かあるのか?」
刻の謎の行動に氷我思が尋ねてきた。
「え、ああ、蜘蛛がいたから追い払っただけだ」
「え!?蜘蛛!?」
那実は自分の頭の上を払い始めた。
刻は那実の苦手なモノである蜘蛛がいたと言って、頭上を払わせて糸が消えるかどうかを試したが、結局自分でも当人にやらせても糸は消えなかった。
――――駄目か…
しかし、しばらくすると刻の視界から糸が消えてしまい、あの糸の真意は分からなかった。
# # #
その後、ラフアは見事にクラスに溶け込むことが出来た。
ラフアは話し上手、と言うよりは返し上手と言ったところで、話されたことの返しが上手いのである。つまり、何かを言えばその返答で相手の求めるものや、確実に相手に何かを与える返答を返してくれるのだ。それは、まさに聖職者の聞き上手の賜物と言ったところだろうか。
そして、午前中の授業が終わり昼休みとなった。
「キザミ~、昼飯食おうぜ~」
氷我思が授業が終わると同時に刻の元にやってきた。
「ああ。…そうだ、ラフアもどうだ?」
「はい、ご一緒させてもらいます」
屈託のない笑顔で快く刻の誘いを受けてくれた。これがラフアをたった一日でクラスに溶け込ませた力である。
美人、美女の笑顔は武器になる、という事を刻は実感した。
「そうか、ありがとう」
「あ、ラフアちゃんも一緒なんだ」
「はい、お邪魔します那実さん」
ラフアと話していると、氷我思に続いて那実、剣吾、剣吾に肩車された磨輝もやってきた。
因みに那実がラフアを名前で呼んでいるのはラフアが名前で呼んでほしいと言ったからであり、それならばという事でラフアも那実や氷我思を名前で呼ぶことになったのである。
「わ~い、ファーちゃんと一緒にご飯だー」
「ふぁ、ファーちゃん?」
「磨輝殿は気に入られた方にはあだ名を付けられるのでござるよ。つまり、ラフア殿は磨輝殿に気に入られたという分けでござる」
磨輝の謎のあだ名に戸惑うラフアに剣吾はその意を簡潔にして伝えた。
剣吾の言うように磨輝は親しいものにあだ名を付ける趣味がある。刻、那実、剣吾には磨輝の付けたあだ名があり、それ以外の者には苗字に「――っち」や「――ちゃん」を付けて呼んでいる。
「そうなんですか。皆さんは何と呼ばれているんですか?」
ラフアが尋ねると、名付けた本人である磨輝が答えた。
「えっとねー、ナミナミとミーくんでしょ、ブレくんでしょ、―――」
磨輝が那実、刻、剣吾の順に見ながらそれぞれのあだ名を言っていく。
「―――あと細菌類!!」
「なんで俺だけ、単細胞生物なんだよ!!」
「きゃー、イースト菌に襲われる―!」
「デジャビュを感じさせるな―――‼」
氷我思が大声を上げて磨輝に襲いかかろうとしたが、横にいた那実が飛びすぎないように力を抑えた、されど確実にダメージが入るようなラリアットを氷我思の首に叩き込み、ラリアットを喰らった氷我思は元の座っていた椅子に再び座らせられた。ぐったりとした状態で。
「女の子に手を上げるなんてサイテーね」
那実は氷我思にゴミを見るような目線を送っていた。
「え?あ、あの、大丈夫ですか⁉」
氷我思がぐったりしているのを見てラフアがすぐさま氷我思を回復させようとカーディガンの袖を捲ろうとした。
しかし、制服の袖を捲ろうとするラフアの手が誰かの手に止められた。
ラフアが自分のではない手の持ち主を見ると、刻が落ち着いた眼差しでラフアを見ていた。
「大丈夫だよ、さっきみたいにすぐまた復活するから」
「そのとーり!!俺が簡単にやられるわけがない!」
氷我思が勢いよく立ち上がった。
「相変わらず身体だけは無駄に丈夫だな、無駄に、ホント無駄に」
と、刻。
「そうね、無駄に」
続いて、那実。
「無駄にを強調するなよ…」
氷我思は口を尖らせて違う形でぐったりとした状態になった。
それを聞いていた磨輝は、悪乗りで氷我思に言った。
「ホント、ゴ(ピー)、見たいにね」
『食事前にそれを言うな!!』
クラスにいた全員から言われてしまった。
彼女に常識と言うものは通用しない。
# # #
ラフアの登校は結果として成功となった。
終礼時に氷我思が歓迎会をやろうと提案した、が、ラフアは決められた時間に教会に戻らなければならないと言った。したがって、歓迎会は行われることは無かった。
そして終礼後、掃除をする者、部活の準備をする者、下校し始める者がいる教室。
「なあ、キザミ~~、遊びに行こうぜー」
刻が下校の支度をしていると、氷我思が刻の右腕にに絡みついてきた。文字通りに。
「悪いけど今日は無理なんだ、てかやめろ、気色悪い」
刻は氷我思の顔を押して引きはがそうとするが、がっちりと絡みついているためはがれなかった。
「良いじゃねーか、行こうぜ」
「用事があるんだ、は―な―れ―ろ―!」
「遊びにいこーぜー」
「いこーよー」
「あ―、お前もかよ!」
いつの間にか刻の背中には磨輝が張り付いていた。
「磨輝殿…」
保護者役である剣吾さえも呆れていた。
刻は剣吾に見てないで助けてほしいと思っているが、そんなことは起こらなかった。
磨輝は見た目通り重くは無いため刻にとって苦ではないが、氷我思の事もあり、更には今は夏のため、暑苦しさを覚えていた。
氷我思が絡みを強めてきたため、刻は自分の腕から血の気が引いていくのを感じていた。
「暑苦しいっての!!」
「ケブラッ!!」
ゴスッ、という鈍い音と自分のすぐそばで一陣の風を感じると共に氷我思の腹に那実の鉄拳が入れられ、氷我思の体が数メートル程飛ばされた。
刻にとっての救世主――那実が氷我思の拘束を強制的、かつ暴力的に開放してくれたのだ。
「見苦しい、気持ち悪い、暑苦しいの三拍子なんて揃えてんじゃないわよ」
那実が殴り飛ばした先を見据えて、毒づいた。
「何しやがるとは言わねえ。だが、限度を弁えろ!一瞬、河が見えたじゃねえか!!」
一秒もしないうちに氷我思は復活を果たし、すぐに立ち上がった。
「なんだ、そのまま行けば良かったのに」
「酷くね!?」
「酷くないわよ、あたしの独断だけど」
「勝手に物事を決めるな!!てか、幼馴染を殴るな!!」
「幼馴染なんて恥ずかしいこと言わないでよ、あたしの唯一の欠点なんだから」
「お前にはその暴力性という女子としての欠点があるだろ!!」
「で、何の話をしてたの?」
「まさかの無視!?」
氷我思の事など気にもとめず、刻の方を向いた。
「氷我思が遊びに行きたいんだとさ」
「だって、ラフアちゃんの歓迎会が出来なかったし、遊びたくもなるっての!!」
氷我思の声が聞こえてばつが悪くなったのか、ラフアが刻達の方へと急ぎ足でやってきた。
「あの、すみません……。私のせいで皆さんにご迷惑をお掛けしてしまったようで…」
「ラフアちゃんの所為じゃないわよ、こいつが唯単にバカなだけよ」
「でも…」
「いいのよ、別に。ほら、氷我思行くわよ」
那実が氷我思を呼ぶと氷我思は立ち上がった。
「ちっ、今日も帰るだけか…」
「何言ってんの、遊びに行くに決まってるでしょ。あたしが付き合ってあげるんだから感謝しなさいよ?」
「えーお前とー?」
「あら、何?あたしとじゃ『嫌』だとでも言うのかしら?仁思 氷我思君?」
那実は笑みを浮かべながら、―――ただし、目は笑っていない、氷我思に問かけた。
那実の恐ろしさから、氷我思はこのまま断ったりでもしたら間違いなく酷い目(暴力系の)にあうことが容易に想像できた。
「い、いや、そ、そんなことは無いぜ?すっごく嬉しいんだがな、た、唯、お前とだけってのも人数的に寂しいなー、って思っただけで、ほら、俺ってたくさんの人と遊ぶのが好きだからさ、そうだ、磨輝達も一緒に行こうぜ?そうだ、それがいい、そうに決まっている。うんうん」
矢継ぎ早にそう言うと、一人で勝手に頷き始めてしまった。
那実は氷我思を視界から外し未だに刻の背中に張り付いている磨輝の方を向いた。
「どうする、磨輝?アイツもああ言ってるし、一緒に来ない?」
那実が磨輝に言うと、
「もちろん、行くよ!!今日は歌いまくるよー!ブレくん、ライドモード!」
「了解したでござる」
磨輝が剣吾に戦隊ヒーロー物の掛け声の様に言うと、剣吾は磨輝を肩車した。
「よかったな、氷我思、さっきも言ったが、俺は用事があるから帰らしてもらうよ」
磨輝達が一緒に遊びに行ってくれれば、刻が行く必要性は余り無くなる。
「おう、じゃあなまた明日」
「また明日」
そして刻は教室を早足で出て行った。