第三話「あわれなチンピラ共と広域殲滅雷撃魔法(サンダーストーム)」
空が少しずつ明るくなっていくこの時間。
まだ起きている人は少ないだろう。
証拠に窓から見える大道には警備のための自警団が、一人真面目に見回りをしているだけであった。
少し早目に目が覚めた自分ことシンラは、目を開けるといきなりヒメがいて文字通りドッキリとした。
「そおぃ!!」
バシャアァァアァア…と机の上においてあった魔法陣によって、よく冷やされた水を頭からかぶり、雑念を吹き飛ばす。
水も滴るなんとやら。
しばらく特にやる事はないので、椅子に座りながら自分の愛刀『黒刀』を磨いた。
『黒刀』と呼ぶだけあって、その刀身は真っ黒である。
おおよそ勇者が持つ物には見えない。
まず『剣』でなく『刀』と言うじてんでおかしいのだが…。
まあ、その分強いんですよ。
恐怖を通り越して笑える位に。
例をあげると地面に置くだけで、刃の部分全て刺さってしまう。
もっと果てし無く長ければ、『ストラール』つまり世界を真っ二つにしてしまいかねない。
特殊効果もHP常時回復、MP常時回復、毒無効、麻痺無効、即死無効、敵の弱点属性付与、物理攻撃無効、魔法攻撃無効…etc…。
装備するだけで無敵になれる。
まあ『黒刀』はシンラ自身が一か月ほどかかりっきりで作ったもので、力を入れすぎたため装備可能レベルが250となり、シンラでもギリギリになってしまった。
もちろん他の人が装備するどころか、持つ事も出来ない。
外が朝のにぎわいを醸し出してきた。
もう少ししたら部屋に朝ご飯が運ばれて来るので、それまでにヒメを起こしておく事にする。
「ヒメちゃん、ヒメちゃん、朝だよ」
軽くゆすると、「む~~~~」という可愛い声を出しながら伸びをするヒメになごみながら、もうすぐ朝ご飯が運ばれて来る事をつたえる。
「は、はい…わかりました~」
まだおねむなようで、目を手でコスリコスリしているのがなんとも言えない。
さらに、顔を洗ってきたヒメがタオル「タオル何処ですか~~~」と目をつぶってヨタヨタと歩いてくるので、自分の今までの不条理な戦いに明け暮れた日々は、これを見るための代償だったとしたら許せるな~となごんだ後、すぐにタオルで顔をふいてあげる。
「むぁ…一人でふけますよ~」
と言っているが可愛いのでそのまま拭いていると、ドアをノックする音が聞こえた。
ドアを開けると、次々に料理が運ばれて来る。
「それでは、ごゆっくり」
運んできた従業員は部屋を出ていった。
ヒメと向かい合わせに座り、「いただきます」と両手を合わせた自分に、それはなにをしているんですか?と聞いてきたヒメに、これは料理を作った人や食材に感謝の気持ちを伝えるための物なんだよ。
と、教えると…。
「い、いただきます」
それを聞くと、ヒメも納得したかのように両手を合わせて同じ事をする。
しばらくして、食事を終えた自分は凄く驚いたようなヒメに話かける。
「ヒメちゃん、さっきから驚いているようだけどどうしたの?」
あ、そういえばいつの間にか話しかけるときの呼び方がヒメちゃんになってる、と思いながらきくと…。
「はい、その…今まで食べて事がないくらい美味しくて…」
「そう?」
まあ、確かに美味しいけどヒメもお姫様なんだからもっと美味しい物食べてるんじゃないのかな?と疑問に思う。
「ヒメちゃんは何時もどんな物食べてたの?」
「え…え~と………に、人間です」
今なんかとんでもない事聞いたような…あ、でも駄目だ、なんかヒメが食べたい言うたら自分取ってくるかもしれん。
普通の食べ物の方が美味しいみたいでよかった。
自分殺人鬼になっちゃうよ。
「あ、あの…驚きましたよね…」
うん、驚きました。自分がするかもしれない行動に…。
「驚きましたよね、怖いですよね…」
ウルウルした目で見てくるって…ちょっなんで泣きそうなの!?
「大丈夫だよ?ヒメちゃんの事怖がるはずないじゃないか。確かに驚いたけどそれは、ヒメちゃんが食べたいって言ったら取ってきそうな自分にたいしてだよ」
「そ、そうだったんですか…あ、ありがとうございます…」
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うん、なんだかんだあったけど、ただいま自分はヒメと買い物に来ています。
なにしろ急な事だったので(自分のせいです)着替えなどを持ってきていないヒメのために色々買おう!と言う事で来たセリアノーズ中心街。
「あの、服屋さんじゃなくていいんですか?」
首をかしげるヒメに大丈夫だよ。と答える。
「『クラフトスキル』色々持ってるからね」
「あの…シンラさん『クラフトスキル』ってなんですか?」
「…知らないの?」
「す…すいません。知らないです…」
ウルっときていたので、あわてて大丈夫だよ教えてあげるから、ね?と頭をなでなでしながら落ち着かせる。
というかめっさサラサラなんですけど。
「え~と、まず『魔術』もしくは、『魔法』は知ってるよね?」
「はい。お父様はそれがとても強かったから恐れられていたんですよね?」
「まあそうだね。で次に特技ってしってる?」
「えっと、はい知ってます。シンラさんがお父様の魔法とかを切って、消したりしていたときに技として使っていたものですよね?たしか次元…「じゃあ次いくね」…はい」
やめて~自分は中二病なんかじゃないんだ。
でも声に出さないと技発動しないんだよ。
「そして、『クラフトスキル』は、魔法にも特技にも分類されない。まあ、逆にどちらともとれるかもしれないけどね」
「どういう事ですか?」
「大まかに言うと、材料があればそれから作れる物だったら力量次第でいくらでもつくれるんだ。瞬時に作れるという点では魔法みたいだし、魔力も使う。作ろうと思えばクラフトスキルなしでも作る事ができる。それは、つきつめれば特技と言える。武器で強力なのを作ったりするのは、その人個人の特技だからね、そんな感じの能力なんだ」
「わかりました。つまり、シンラさんが私の服作ってくれるんですね!」
「ああ、可愛いヒメちゃんに似合う可愛い服を作ってあげるからね」
「か、可愛い…って…あ、ありがとうございます」
またしたも赤くなってるヒメ。いやあ本当に可愛いな。
「ところ、でヒメちゃんはどんな色が好き?」
「黒が好きです」
「自分と同じか」
「はい、同じです」
自分のきている物を見ると、黒率90パーセント以上である。
残りは銀で紋章のような模様が書いてあるだけだ。
それと比べるとヒメの服はまだ白のフリフリがある分黒率は少ないが、それでも80パーセント以上は黒い。
と、言う訳で黒い布を中心に買ったわけだが…。
「シンラさんどうかしましたか?」
「ん?いや、なんでもないよ。それよりあそこでおかし売ってるから買っておいで?」
シンラは銅貨を10枚ほど渡す。
「はい、いってきます!」
と元気な声で嬉しそうに走っていくヒメ。
「さて…」
~チンピラサイド~
物陰からこっそりと黒い服を着た男と、歳の若い魔族を見ているチンピラ達がいた。
「おい、あそこにいるの魔族じゃねぇか!」
「なんでこんな所にいるんだ?」
「しるか!」
「でもなんか可愛いな」
「ゲッお前そういう趣味かよ…」
お酒も少し入っていたため気持ちの高ぶっていた。
何処にでもいそうなチンピラ3人組みだった。
「俺たちで捕まえないか?」
「お前はしたいだけだろ」
「まあな」
「だが賞金ももらえるぜ?」
実際はもうそのような事はないのだがまだ、魔族との戦争が終わったという情報が伝わるには相当な時間がかかる。
「お?優男が離れたぞ!」
「運が向いてる、行くぞ!!」
剣を構えるリーダーっぽい人。
ナイフを持つ人。
肉弾戦が得意なのか何も持たない人。
魔法を唱えた人?
3人の動きが止まる。金縛りにあったように動けないのだ。
「人の…」
冷や汗をだらだらながしていると、チンピラの前にさっきの優男登場。
「人の嫁に何しようとしてくれとんじゃああああああああぁああああああぁああぁぁぁああああ!!広域殲滅雷撃魔法うううおおりやああぁあああ!!」
「「「ぎゃあああああああああああああああああ!!」」」
「まったく、死ねや糞共が…」
~ヒメサイド~
目の前には色とりどりの美味しそうなおかしが並べられていた。
店番をしていたおばさんは魔族のヒメが来た事で最初は驚いたが、このセリアノーズは魔族から一切被害を受けていないので偏見というかなんというか、そういうのが少ない。
さらに、自分の子供と同じ位の子が目をキラキラさせていたので、怖いというより可愛いが先にきていた。
「お嬢ちゃん、どれにするんだい?」
「あ、あの、え~っとこ、これにします!」
「はい、石貨三枚だよ?」
「こ、これで大丈夫ですか?」
シンラにもらった物を渡す。
「あ、お嬢ちゃん三枚で大丈夫だよ?」
「すいません、よくわからなくて…」
今思えば物を自分で買うのは初めてなヒメであった。
「あ、ありがとうございました!」
「いえいえこちらこそ、まいどあり!またきなね?可愛いお嬢ちゃん」
「か…かわ…そ、そういえばおばちゃんは私の事怖くないんですか?」
それに優しく微笑んだおばちゃんは、お嬢ちゃんは怖い事するのかい?と聞いてきた。
「い、いえ…そんな事…」
「じゃあ大丈夫だ。そりゃあ悪い魔族もいるだろうけどお嬢ちゃんはしてないだろ?」
「は…はい」
まあ、ヒメ自身がなにか悪い事したわけではなかった。
人間を食べていたのだって、食卓に出てくるのがそれなのだから仕方がなかったのだ。
「お嬢ちゃんの事悪く言う人もいるだろうけど、色々頑張るんだよ!」
「はい!」
なんかうれしくなってきた。
「じゃこれサービスね!」
そう言っておばちゃんは、小さな飴玉をくれた。
「あ、あとおばちゃんじゃなくお姉さんね!」
「はい!ありがとうございました。お姉さん!」
ヒメはシンラのもとに戻るためかけだした。
そのうしろすがたをおば…お姉さんは「いい子だねぇ…」とほほえましく見ていた。
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「シンラさ~ん、買ってきました!」
ヒメの手にはカラフルなペロペロキャンディーが握られていた。
「これ甘くて凄く美味しいですよ!シンラさんも少しなめてみますか?」
「い、いや…」
「そうですか、では私が全部食べちゃいますね」
またぺロぺロハムハムとなめ始めるヒメ。
この時シンラはどれほどなめたいと思った事か…。
でも間接キスならぬ間接ぺロぺロをするのは、なんかものすごく恥ずかしかった。
まあ見ているだけで幸せになれるからいいか。
二人は手をつなぎながら歩いていく。
「あれ?シンラさん。なんか赤いのがほっぺたに付いてますよ?」
「ん?…ああ、なんでもないよ?どこかでインクでも付いたんだろう」
ちなみに、石貨=10円
銅貨=100円
銀貨=1,000円
金貨=10,000円
精霊貨=100,000円
位の価値です。