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第9話 ラグと風と、消えない違和感


 昼過ぎの中庭。俺が一人でぼんやりしていたら、声をかけてきた奴がいた。


「よ、無属性くん」


 軽い声。


 振り向くと、茶色い髪の少年が手を振っていた。緊張感がゼロだ。こういう人間がいるのか、と思った。


「ラグ・エルディン。気さくに話しかけてくれてありがとな」


 一人で話を進めながら座ってくる。


「別に俺は話しかけてないが」


「俺が話しかけたんだよ。無属性」


「そうか」


「実技、見てたぜ。アルトと戦ったとこ」


 ラグはさらっと言った。


「あれ、どうやってんの?」


「分からない」


「本当に分からないの?」


「本当に分からない」


 ラグは少しだけ考えてから、頷いた。


「……それ、たぶん本当だな」


「?」


「嘘ついてる人間の空気じゃない」


 ラグはさらっと言ったが、俺は少し引っかかった。


「空気が分かるのか」


「風属性なんで。大雑把な感覚の話だけど、空気の流れで変なもんは分かる」


 槍を持っているのに気づいた。細い、軽そうな槍だ。


「で、レインの周りって空気が変なんだよ」


「変?」


「うん。流れが少しだけ歪んでる。さっきのアルトとの模擬戦でも、拳が通るはずのとこで空気が乱れてた」


 ラグは首を傾ける。


「俺には説明できないけど、確かにそこに何かある」


 俺は少しだけ息を吐いた。


「それが何か分かるか?」


「分かんない。ただ、ある」


 あっさりしている。でも確信がある言い方だった。


「そっか」


「レインは変だよね」


「よく言われる」


「いや、悪い意味じゃなくて」


 ラグは槍を軽く回した。


「強さって、積み上げるだけじゃないだろうなって、なんとなく思ってた。でもレインを見てると、もっと違う形があるのかもって気がしてくる」


 俺は少しだけ考えた。


「俺はまだそういう段階じゃないが」


「でも、なるんじゃない? そのうち」


 ラグは笑って立ち上がった。


「邪魔したな。また」


 軽く手を振って、行ってしまった。


 風が吹く。


 (空気が歪んでる、か)


 俺には見えない。感じ方も違う。でもラグには何か見えているらしい。


 いくつかの視点が集まってきている。


 分からないことは変わらない。でも、輪郭が少しずつ見えてくる気がした。

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