第8話 スパークコンプレッション――アルトの本気
二回目の模擬戦。
「本日は簡易模擬戦だ。攻防の確認を行う。過度な魔力行使は禁止」
ハーグが短く告げて、ペアを組む流れになった。
俺が相手を探す前に、声が割り込んだ。
「俺と組め」
アルト・レグナス。
周囲の生徒たちが静かに距離を取る。巻き込まれたくないらしい。俺は肩をすくめた。
「いいのか?」
「前回の件、偶然とは思っていない」
まっすぐ俺を見ながら言う。
「確認させてもらう」
「好きにしろ」
断る理由がない。むしろ、分かるならそれでいい。
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向かい合った瞬間から、アルトの雰囲気が変わった。
無駄な動きが消える。呼吸が整う。完全に戦闘モードだ。
「始め」
踏み込みが速い。一直線。迷いのない動き。
俺は横にずれる。最小限の動きで。
それで十分なはずだった。
でも拳の軌道が、わずかに引き寄せられた。
かすめる。頬のすぐ横を、風が切った。
「……やはりか」
アルトが低く呟く。すぐに二撃目、三撃目。連撃が来る。すべて正確で無駄がない。
俺はそれを避け続ける。完璧には避けられない。何度か軌道がずれる。触れそうで触れない。距離が常に少しだけ狂っている。
「意図的にやっているわけではないな」
攻撃しながら分析している。
「再現性が低い」
「そうだな」
『……スパークコンプレッション』
その瞬間、アルトの拳が光り始めた。
雷だった。でも普通の雷じゃない。放出じゃなく、まとわりついて留まっている。圧縮されている。制御されている。
(……溜めてる)
蓄積させながら保持している。戦闘中に、精度を落とさず。普通はできない。魔力は放てば散る。それを留め続けるだけでも難しいのに。
周囲の空気が変わった。分かる人間には分かる。これは既存の型じゃない。
「オリジナル魔法……」
誰かが息を呑んだ。
アルトは攻撃を止めない。一撃ごとに雷が重なる。密度が上がる。威力ではなく、"質"が変わっていく。
(分かりやすく強い。そして、逃げ続ければ終わる相手じゃない)
積み上がる。当たれば、その分一気に放出される。だから避け続けることに意味はない。いずれどこかで"通る"設計になっている。
「君の現象は」
アルトが言う。攻撃を止めないまま。
「回避行動に紐づいている。避ける"意思"に反応している可能性が高い」
踏み込む。拳が来る。
俺は動く。
今度は大きくずれた。明確に。距離が一気に開く。
アルトの拳が空を切った。
「……今のは」
アルトの目がわずかに細まる。確信に近づいた瞬間。
でも次は起きない。同じ動きをしても、ただ避けるだけだ。
「不安定だ」
「条件が揃っていない」
俺も短く認める。
「そこまでだ」
ハーグが割り込んだ。二人の間に一歩で入り込む。
「課題の範囲を超えている」
アルトが下がる。でも視線は外れない。
「無秩序ではない。だが、規則も掴めない」
静かな評価。
「次は、見極める」
宣言だった。敵意じゃない。でも引く気もない。
「勝手にしろ」
アルトは背を向けて去った。
(さっきの大きなズレ)
あれはいつもより鮮明だった。条件がある。引き金がある。
まだ分からない。でも確実に、何かに近づいている。
そんな感覚だけが、残っていた。




