第7話 普通の俺と、普通じゃない現象
ユーク・ハルヴァは、廊下を歩きながら考えていた。
関わりたくない。
これが正直な気持ちだった。
無属性。水晶のひび。実技での意味不明な一撃。どれも説明がつかない。分からないものは怖い。だから距離を取る。それが一番安全だ。
(……会うことなんてないだろ)
曲がり角を曲がった瞬間、肩がぶつかった。
「っと」
「悪い、大丈夫か」
反射で顔を上げて、固まった。
灰色の髪。普通の目。特別鋭くもない、普通の視線。
(よりによって)
レイン・ヴェリス本人だった。
心臓が跳ね上がる。
「だ、大丈夫!」
一歩下がる。
つもりだった。
足の位置が合わない。引いたのに距離がほとんど変わっていない。むしろ近いような気さえする。
(今、なに?)
「これ、落としたぞ」
差し出されたのはノートだった。自分のだ。
「あ、ありがとう……」
手を伸ばす。指先が空を切った。距離は合っているはずなのに、触れない。
少し前に出し直して、やっと受け取れた。
(なんだ、今の)
でもレインは何も気にしていない。特別なことは何も起きていない、みたいな顔で立っている。
「落とし物、気をつけろよ」
それだけ言って、歩き出そうとした。
(あ)
「あのさ」
気づいたら口が動いていた。
レインが振り返る。
「ん?」
待っている。自然に。警戒も苛立ちもなく。
(何を言えばいい。さっきの感覚をどう説明する)
「……いや、なんでもない」
引っ込めた。言葉にできない。
「そうか」
レインは短く言って、また歩き出した。止まらない、振り返らない、人混みに消えていく。
(悪いやつじゃ、ないよな)
ユークは立ち尽くした。心臓の音がまだ速い。
怖かった。はっきりと。
でも。
(気になる)
あのズレ。あの感覚。
近づきたくないのに、少しだけ知りたい気もした。
ノートを握る手に、少しだけ力が入った。




