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第31話 侵入――内側にある外

 学園の廊下は、いつもと同じだった。


 昼のざわめき。行き交う生徒。窓から差し込む光。変わらない。


 レインは人の流れの中を歩いていた。


 前から数人の生徒が来る。自然と道が分かれ、互いに避ける。当たり前の動き。


 一瞬。視界の中で、わずかな"空き"が生まれた。


(……?)


 人の流れが、ほんの少しだけ歪む。誰もいない場所を、避けるように。すぐに戻る。


(……今の)


 言葉にするほどでもない。でも見過ごしていいものでもない。


 階段へ向かう。踊り場に差し掛かる。数人が降りてくる。距離は十分。ぶつかることはない。はずだった。


 触れた。


 肩口。軽く、何かがかすめる。


 すれ違った生徒の一人が振り返る。


 だが、それだけだ。何も言わず、また歩き出す。


 レインはその場に立ったまま、視線を横に向けた。誰もいない。距離も合っている。接触する理由がない。


(……今のは)


 考える。だが結論は出ない。触れた。だが、触れるものがない。それだけが残る。


「止まってどうした」


 クラウスだった。すぐ後ろに立っている。


「何でもない」


「次の授業、遅れるぞ」


「ああ」


 歩き出す。


 廊下に出ると、窓際にイリスが立っていた。外を見ている。レインが横を通り過ぎる。


「……さっき」


 小さな声。足が止まる。


 イリスは視線を外に向けたまま続ける。


「変だった」


「……何が」


「流れ。一瞬、抜けてた」


 レインは何も言わない。同じものを見ていた。それだけでいい。


 少し遅れてラグがやってくる。途中で足を止める。周囲に視線を走らせる。


「……さっきからさ。妙に、空いてない?」


 レインは答えない。否定もしない。


 視線を落とす。床。何もない。見える範囲では。


 それでも。


 確かに、何かがある。そうとしか思えない。


 チャイムが鳴る。思考が切れる。


「行くぞ」


 クラウスが言う。歩き出す。


 席に着く。授業が始まる。


 レインは前を見たまま、ふと視線を横にずらした。窓際。さっきイリスが立っていた場所。


 今は誰もいない。そのはずの場所に、"気配"がある。


 視線が合う、ような気がした。


 次の瞬間。何もない。ただの空間。


(……外で起きていたものが、今この中にある)


 レインはゆっくりと視線を戻した。授業は続いている。誰も気づいていない。


 変わらない日常の中で、ただ一つだけ確実に。


 何かが、入り込んでいる。

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