第27話 外界――境界の外
外へ出る。
それだけのことに、わずかなざわめきがあった。課外学習。班ごとに分かれ、指定区域の確認を行う。ただそれだけだ。
だが、学園の外に出るという一点で空気は変わった。
班分けが行われる。特別な基準はない。人数を均等に割るだけ。
レインに割り当てられたのは、リュシアとイリスだった。
(……まあ、そんなもんか)
三人で門を越えた瞬間、空気が変わった。広い。音が抜ける。建物に遮られない分、すべてがそのまま届く。
「……なんか、違うね」
リュシアが小さく呟く。
「外だからな」
答えながら、レインは足元を踏みしめた。
土の感触が変わる。踏みしめた分だけわずかに沈む。自然なはずのそれが、少しだけ遠い。
(……ズレてる)
ほんのわずか。でも確かに。学園の中よりその感覚が強い。
進むと、指定された区域に入る。木がまばらに生え、視界がほどよく開けた地形。魔物の出現も珍しくはない区域だ。
気配を探るまでもなかった。
低い唸り声。草を踏む音。正面の茂みが揺れた。
「来る!」
リュシアの声と同時に、魔物が飛び出す。四足の獣型。一直線の突進。
レインは一歩横にずれる。風が頬をかすめる。当たらない。そのまま後ろへ流す。
イリスが動く。最小限の動きで位置を取り、短剣が閃く。浅い。だが確実に当てる。
魔物が反転する。今度はイリスへ。
リュシアの手が光る。傷を補い動きを整える。
再び踏み込んでくる。今度はレインへ。
半歩下がる。間合いが外れる。爪が空を切る。体勢が崩れる。
レインは手を出した。軽く、押すように。
ほんのわずかに、ズレる。魔物の体が予想より外側へ流れ、地面へ落ちる。
「今!」
イリスが踏み込む。無駄のない一撃。動きが止まる。
終わりだ。
「普通だね」
イリスが言う。
「ああ」
特別なことは何もない。そのはずだった。
風が抜ける。さっきまであった音が、すっと引いた。静かになる。不自然ではない。でも妙に整っている。
レインは視線を上げた。何もない空間を見る。見えるものは、何もない。
それでも。
(……いる)
そう感じた。距離も位置も分からない。でも確かに"こちらを見ている"何かがある。
「レイン?」
「……分からない」
正直に答える。見えていない。でも感じている。
イリスは数秒同じ方向を見て、小さく言った。
「見てるね」
断定ではない。でも否定でもない。
レインは目を細めた。
感覚は消えない。むしろ、はっきりしている。見えていないだけで、確かにそこにいる。
視線が、重なる。
その瞬間、ほんのわずかに空気が揺れた気がした。




