第26話 成立しない完成――レオルドとの遭遇
午後の実技場に、まだ熱が残っていた。
授業は終わっているが、区画にはあちこちで軽い打ち合いが続いている。
レインはその外れに立っていた。何をするでもなく、ただいるだけ。それでも視線は集まる。
「……へえ」
横から声が落ちた。
振り向くと、赤い髪の少年がこちらを見ていた。深い赤、整えられた短髪、姿勢に無駄がない。だがその目は観察ではなく、気に入らないものを見る目だ。
「君が例の"無属性"か」
穏やかな口調。だが温度はない。
「随分と騒がれているね。無属性の落ちこぼれが僕より目立つなんて、不愉快だ」
「……そうか」
レインは短く返す。否定も受け流しもしない。そのまま受け取る。
「ああ、そうだよ」
赤髪の少年はわずかに笑い、区画の中央へ歩き出した。
「レオルド・ルクレ。覚えておくといい。すぐ終わるから」
周囲がざわめく。自然と、人の輪ができていた。
レインは小さく息を吐く。構えない。ただ立つ。
「――静かにしてもらおうか」
次の瞬間。
「『フレイムバレット』」
火が弾けた。連なる火弾が一直線に走る。速い。無駄がない。狙いも正確だ。
レインは半歩ずれる。火弾は横を抜けた。間を置かず次。角度を変えた。逃げ道を潰す配置。
だが、同じだ。体をわずかに傾けるだけで、すべて外れる。
「……」
レオルドの目がわずかに細くなる。苛立ちが混じる。
「『ブレイズランス』」
炎が槍となり一直線に伸びる。レインは横に動く。それだけで、槍は空を裂いた。
「「ヴォルカニックレイジ」」
地面が爆ぜた。足元から炎が噴き上がる。逃げ場はない。完成された魔法のはずだった。
炎が、逸れる。
ほんのわずかに。レインの立つ位置だけを避けるように。数センチの空白。それだけで、成立しない。
レインは一歩も動かずに、その中に立っていた。
「……は?」
レオルドの声が初めて崩れる。
「精度は落ちていない。構築も崩れていない」
事実だ。魔法は完成している。それでも。
「なぜ外れる」
(……試してみるか)
レインは意識を向けた。距離。位置。自分と相手の"間"。そこに手を伸ばす。引っかかる。わずかに。確かに、そこにある。
それを掴んで、引く。弓を引き絞るように張り詰めさせて、解き放つ。
空気が弾けた。見えない衝撃が一直線に走る。
「っ――!」
レオルドの体が揺れる。一歩崩れる。それで十分だった。構えが乱れ、魔力の流れが途切れる。完成が、維持できない。
「当たってない。それだけだ」
静かな声でレインは言った。
レオルドはそれ以上続けなかった。
レインは区画の外へ出る。
(使える)
まだ不安定だ。でも、もう偶然ではない。
完成されたはずのものが、成立しないまま崩れていく。その中心に自分がいる。
それはもう、例外ではなかった。




