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第25話 分類外――定義できない存在

第25話 分類外――定義できない存在


 ざわめきはまだ完全には沈んでいなかった。


 だが視線より先に、ハーグの声が落ちた。


「レイン・ヴェリス」


 呼びつける調子ではない。続きとしてそこにある声音だった。


「そのまま、もう少し付き合え」


 レインは頷く。距離は変わらない。だが、先ほどまでの"確認"とは明らかに質が違っていた。


「今の現象――意図して起こせるか」


 現象。能力とは呼ばない。だが偶然でもない、という前提だけが共有されている。


「……やってみます」


 それだけを返す。


 ハーグは頷かない。ただ、動いた。


 踏み込みは速い。直線ではなく、途中で軌道を変える。確実に当てに来ている。


 レインは目で追う。位置と軌道が頭の中で線として結ばれる。当たるはずの一点。そこに自分がいる。


(……その関係が、先に見える)


 回避は間に合わない。だから別のやり方を選ぶ。当たるという結果をそのまま受け入れるんじゃなく、そこに至る"関係"をずらす。


 意識がそこに向いた瞬間、衝撃の軌道がわずかに逸れた。本来なら接触していたはずの位置から、数センチ外れた。


 だが、逸れた力はそのまま消えない。接触点を失ったまま行き場を変え、横へと流れた。地面を抉り、土が弾ける。


 回避とは違う挙動だった。


(外したんじゃない。変えた)


 ハーグは間を置かない。今度は距離を詰める。逃げ場を削り、選択肢を減らす動き。


 回避、防御。レインはそのどちらも選ばなかった。当たるはずの位置を捉え、その"先"を考える。ずらすだけじゃ足りない。どこへ逸れるかを、あらかじめ決める。


 明確な形にはならない。だが方向だけは持たせる。


 衝撃が届く直前、関係がわずかに歪む。接触は成立せず、軌道が外れる。同時に、押し出されるような圧が生まれた。行き場を変えた力が一方向に収束し、前方へと抜ける。


 地面が直線的に削れる。


 ハーグの足が、半歩だけずれた。受け止めたんじゃない。ただ、その軌道から外れるために動いただけだ。


 そこで、ようやく静止が訪れる。


 レインはその場で呼吸を整える。心拍が速い。でも感覚は、はっきりしていた。


(……選んだ。俺が)


 ハーグはしばらく何も言わなかった。視線だけが、まっすぐレインを捉えている。評価でも警戒でもない。確認だ。


「……無属性ではないな」


 静かな声だった。


 今までの前提が、そこできれいに切り離される。


「既存の分類にも当てはまらない」


「分類外、か」


 独り言のように落ちた一言が、場の輪郭を決めた。


 レインは答えない。答えられない。


 ただ、自分の手を見下ろす。


 何かを掴んだ感覚はない。でも確かに、触れてしまったものがある。


 もう戻れない。それだけは理解していた。

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