第19話 一致しない観測――イリスの限界
イリスが言った。
「レイン、最近変わったよね」
「そうか?」
「うん。"いる"感じが濃くなった」
訓練場の隅で、イリスは俺を真剣な顔で見ていた。
「いる感じ?」
「うまく言えないんだけど……前のレインって、なんか薄かった。存在感が、じゃなくて、周りとの接続が、みたいな感じ?」
俺は少し考えた。
「周りとの接続?」
「そう。前は自分と周りが切れてる感じがした。でも今は繋がってきてる」
イリスは頭を抱えた。
「ごめん、言語化できない」
「いや、なんとなく分かる」
「本当に?」
「ああ。俺自身の感覚でも、最近は周りとのズレを意識して、それを操れるようになってきた。接続、という表現は近いかもしれない」
イリスが目を開いた。
「分かんないけど分かった」
「お前は面白い理解の仕方をするな」
「闇属性って認識系なんだよね。見えないものが少し見える」
イリスは少し黙った。
「……でもほとんど見えない」
「そうか」
「理解できないものを理解しようとしてるのに、理解できなくて、それが少しだけ悔しい」
素直な言葉だった。
「でもね」
イリスが続ける。
「理解できないからって、見るのをやめようとは思わない」
「なんで?」
「分かんないものが好きだって言ったじゃん。諦めたら面白くないじゃん」
俺は少しだけ笑った。
「そうだな」
「あと」
イリスがまっすぐ俺を見た。
「レインは分かんなくても、悪くない人だっていうのは分かる」
「それは分かるのか」
「うん。見えないだけで、そこにある感じが悪くない」
変な言い方だが、嬉しいのか嫌なのか分からない。でも否定したくはなかった。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
イリスは笑った。
観察を続けながら、限界も認めながら、それでも見るのをやめない。
この女は、変わった意味で強いと思った。




