第15話 積み上がらない理論と、積み上がっていく感覚
翌日のクラウスへの報告で、空中固定の話をした。
「本当か」
「ああ。五秒だが」
「見せろ」
俺は石を持ち、意識を向けた。
一秒。二秒。三秒。
落ちた。
「……三秒だった」
「昨日は五秒だった」
「再現性が不安定だ」
「分かってる」
クラウスはノートに書き込んだ。険しい顔をしている。
「空中固定は、軌道操作とは性質が異なる」
「何が違う?」
「軌道操作は"動いているものの関係を変える"。空中固定は"静止した状態の関係を維持する"。どちらも位置関係の操作だが、方向性が逆だ」
「なるほど」
「つまり」
クラウスはペンを立てた。
「君の能力は"軌道をずらす"でも"ものを動かす"でもない。"対象との位置関係そのものに干渉する"ことができる」
「どういう意味だ?」
「例えば、"これは右にある"という事実を"これは左にある"に書き換えるイメージだ。実際に動かすわけじゃなく、関係性を変えている」
俺はそれを頭の中で転がした。
関係性を変える。
当たるはずのものが外れるのも、落ちるはずのものが落ちないのも、全部同じ原理だとすれば。
「……なんか、しっくりくる」
「しっくりきても、式にはならない」
「お前の夢は砕けたままか」
「砕けてない。ただ、今の俺の知識では説明できないだけだ」
なんか強い奴だ、と思った。
「分かった。じゃあ俺は感覚で磨いていく」
「それでいい。俺は理論を探す。どちらかが先に答えに辿り着く」
「競争みたいだな」
「そのつもりはないが、まあそうかもしれない」
クラウスは少しだけ表情を和らげた。
俺はまた石を拾った。
今度は意識を変えてみた。"維持する"じゃなく、"ここにある、という関係を続ける"。
一秒。二秒。三秒。四秒。五秒。六秒。七秒。
落ちた。
「七秒だった」
「……伸びてるな」
クラウスは何かを書き込んだ。
俺は石を見た。
積み上がらない理論の傍らで、感覚は着実に積み上がっていた。




