第12話 揃わない結果と、揃い始めるもの
クラウスが俺を呼んだのは、昼休みの訓練場だった。
「今日は少し条件を変えて試したい」
「何を変える?」
「君の意識の向け方だ」
クラウスは手元のノートを開いた。細かい文字がびっしり並んでいる。
「これまでの検証から、いくつか仮定が絞れた」
「聞かせろ」
「まず、現象は君の回避行動に連動している。アルトが指摘した通りだ」
「次に、傷が残らなかった件から、力の伝達と接触の記録が分離している可能性がある」
「そして」
クラウスはペンを立てた。
「最も重要なのが、再現性の問題だ。同じ条件でも起きるときと起きないときがある。これは環境の差ではなく、君の内部の差だと考えた」
「俺の内部?」
「意識だ。より正確には、"注意の向け方"」
俺は少し考えた。
「確かに、大きくズレたときは何か違った気がする」
「どう違った?」
「……漠然とした感じだが、ただ避けようとしたんじゃなく、もう少し具体的に何かを意識していた」
「それだ」
クラウスはノートに書き込んだ。
「今日はそれを意図的に試す。石を投げる。君は避ける際に、"どこに外したいか"を意識してみてくれ」
「やってみる」
距離を取る。クラウスが石を持つ。
「いくぞ」
石が飛んでくる。
俺は動きながら、"右に外したい"と思った。
石が、わずかに右にずれた。
「……」
クラウスが止まる。
「もう一度。今度は左」
左と思いながら避ける。
石が左にずれた。
もう一度。今度はあえて意識しないで避けた。
石はそのまま通り過ぎた。ずれなかった。
「……」
沈黙が落ちた。
「条件が見えた」
クラウスが言った。静かだが、確信がある声だ。
「意図だ。漠然とした"避ける"ではなく、具体的な意図を持ったときに発動する」
俺は手を握った。
「まだ安定しない」
「そうだ。でも、これは訓練できる可能性がある」
俺はそれを聞いて、少しだけ息を吐いた。
訓練できる、か。
分からないままのものが、少しずつ形になっている。
それが、なんか少し嬉しかった。




