第11話 ハーグの視点――観察から検証へ
ハーグ・レイゼンは、放課後の教員室で報告書を書きながら、今日の訓練を振り返っていた。
レイン・ヴェリス。
無属性。入学時点で規格外だ。本来なら一次試験で弾かれる。なぜ通ったのか、彼自身は知らない。
ハーグは知っている。
コルセア学園長の指示だ。「通してみろ」という一言だった。理由は告げられなかった。でも、長年この場所にいれば察しがつく。
普通じゃない何かを、持っている可能性がある。
そして今日、ハーグはそれを確認した。
的に傷が残らない。拳を当てたはずなのに、痕跡がない。しかし的は動いた。力は確かに伝わっている。
(接触判定が、ずれている)
物理的な力の伝達と、接触という事象が、分離している。
これは魔法ではない。少なくとも、既存の魔法体系には当てはまらない。
ハーグはペンを止めた。
彼が今まで見てきた中で、最も近い例が一つある。
異能だ。
学園の"表"の話ではない。裏の話だ。国家が管理し、騎士団が利用し、コルセアが設計した構造の中にある、もう一つの力の話。
ハーグはその全貌を知っているわけではない。でも、輪郭は分かる。
魔法とは異なる原理で動く力。属性に縛られない。分類できない。だから価値がある、と上が言う。
(レイン・ヴェリスが、そうなのか)
まだ確信はない。
でも、観察を続ける理由は十分だ。
そばに置いてあるチョークを見る。明日の授業で使える確認の方法が、一つ思い浮かんでいた。
自然に、不自然にならない形で。
レインが気づかないように。
でも確実に、再現性を試せる形で。
ハーグはノートに一行書いた。
「意図の有無――要確認」
ペンを置く。
報告書の続きを書き始めた。コルセアへの報告は、まだ早い。もう少し情報が必要だ。
もう少し、見えてからでいい。




