第10話 傷が残らない――証拠が消える
次の実技は、魔法の制御訓練だった。
的に向かって魔法を撃つ。それだけだ。属性持ちにとっては単純な課題。でも俺には関係ない。
ハーグが俺に言った。
「お前は身体強化で結構だ」
無属性でも、魔力はある。属性変換ができないだけで、体に流せる。身体強化は無属性でも可能な、数少ない選択肢だ。
「わかりました」
俺は魔力を体に流す。
感覚は分かる。力が少し増す。動きが少し速くなる。
でも、それだけだ。
傍らで、生徒たちが魔法を撃っていた。火が飛び、水が流れ、雷が走る。鮮やかで、明確で、誰の目にも見える力だ。
(俺のは見えない)
当然だ。でも今日はそれより気になることがある。
訓練中、何度か的を殴ってみた。拳を使って。
的は動いた。普通に。当たり前だ。
でも、傷が残っていなかった。
打ち付けた場所がへこんでいるはずなのに、打撃痕がない。表面が綺麗なままだ。
(……気のせいか?)
もう一度。今度はしっかり力を入れて殴った。
手応えはある。でも的に傷はない。
隣でクラウスが見ていた。
「……面白い」
「何が?」
「君が殴った的、傷ついていない」
「俺も今気づいた」
「力が入っていないわけじゃない。動いたから」
クラウスは的を細かく観察した。
「接触したはずの痕跡がない。つまり、力は伝わっているのに、接触の"記録"が残っていない」
「どういう意味だ?」
「分からない」
あっさり言った。
「でも、また一つ分かったことがある」
「何が?」
「君の現象は、力そのものじゃなく、"力が伝わる仕組み"に関係している可能性がある」
俺はその言葉を頭の中で転がした。
力が伝わる仕組み。接触の仕方。あるいは、距離と位置の関係。
クラウスが昨日言っていた言葉に、少し近づいた気がした。
「ありがとう」
「礼はいらない。俺は俺の興味で調べているだけだ」
素っ気なく言って、クラウスはノートに何かを書き始めた。
俺は的を見た。
傷が残らない。
触れたはずなのに、証拠がない。
(……関係性を変えている、のか?)
分からない言葉が浮かんだ。でも、何かに近づいている気がした。




