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第9話 女子になった俺の部屋に、男友達が遊びに来てしまった結果

日曜日。三人が帰ってから少し片付けをして、そのまま眠りにつき、気づけばかなり時間が過ぎていた。

その日はずっと部屋でのんびりしながら、お泊まり会の余韻に浸っていた。


「楽しかったな……夢みたいだったな」


俺の中の“女子”のイメージといえば、カフェで紅茶を飲みながら自撮りしてストーリー上げてキャッキャッするそんな感じだった。

けど、実際は違う。ゲームをしたらみんな子供みたいに大はしゃぎして、笑い転げて。

その光景がやけに眩しくて、心の底から楽しかった。


「あ〜……またやりたいな」


思わずそう呟きながら、その日は静かに過ごした。


──そして翌日、学校。


「ゆかっちおはー!」

「おはよ!」

「おはよう。裕香さん」


「おはよう…!」


挨拶くらいなら、もう自然に返せるようになってきた。

……うん、俺も少しずつ女子高生として適応してきてるみたいだ。

とはいえ、やっぱり会話となるとまだ苦手だ。

その辺りはいつも真桜さんがフォローしてくれる。本当にありがたい。


5限目の休み時間。


ピコン!


スマホが震える。翔からのメッセージだった。


【裕香、今日学校終わったらお前の家にいっていいか?】


久しぶりに翔から遊びの誘い。

最近はなかなか一緒に過ごせてなかったから、俺も会いたいと思っていたところだった。


【大丈夫。待ってる】


そう返すと、ほんの少しだけ胸が高鳴った。



放課後。帰宅して部屋を軽く整え、部屋着に着替える。


ピンポーン。


「お、来た来た」


ガチャ。翔が扉を開け入ってくる。


「……!!!!……お疲れー、元気してたか?」


「そうだな〜、最近は結構元気なほうかな?」


「あー………そうか。それは良かった」


翔の返答に一瞬間があったように感じたが……気のせいだろうか。

とりあえずリビングへ案内する。


――そのとき、翔の思考がよぎる。


(……女子っぽい匂いがする。裕香と二人っきり、やっと俺の番が回ってきたって感じだが……しかし……!)


出迎えの一瞬で翔は気づいてしまった。


(お前……ブラ外してるだろ!?わかるんだよ……シャツの微妙なラインで……!元カノもよくやってたからな。こうなると服の下がどうなってるかイメージできちまうんだよ…!)


確かに裕香のシャツには、下着の線がなく、年ごろの女子の胸の膨らみにピンっと2つ突起してるものがはっきりと浮かび上がっていた。


さらに視線を横へやると、リビングの隅には水色の可愛いブラジャーが脱ぎ捨てられている。


(あれは……!? さっきまで付けてたやつか!? いやいやいや……これって……ハプニング……なのか……? どう受け止めればいいんだ俺!?)


「……翔?」


「……ん!!? お、おう! 部屋、しっかり片付けてるな! あっ、これ良かったら食べてけ!」


取り繕うように、翔は紙袋を差し出す。

中身は高そうなシュークリームだった。


「うぉぉ……高そうなやつ……!」


裕香は目を丸くして喜ぶ。

一方の翔は、心臓のドキドキがまだ収まらなかった。


「あー、シュークリーム美味しいなぁ…」


小さく頬を赤らめながら、幸せそうに食べる裕香。

その柔らかな微笑みを横目で眺め、翔は内心で葛藤していた。


(美味しいそうに食べてるな…可愛いなぁ……裕香の胸にも美味しそうなのが二つ……いや、待て俺!そんなこと考えるな!)


(でも……これは指摘したほうがいいのか? “ブラ外してるぞ”って言えば、女子としての自覚も芽生えるだろうし、思考も女子っぽくなる。女子にさえなれば……俺なら落とせる。全力で落とす……!)


(逆に言わなければ、今のように警戒心ゼロの距離感のまま……いや、もしかしたらもっといいハプニングが……?でもその時の感情は……友情なんだろうな……)


頭の中でぐるぐると葛藤する翔。

だがその様子に気付くことなく、裕香は両手を合わせて笑顔を見せた。


「ごちそうさま!久しぶりにやるか!」


「お、おう!そうだな!」

そして始まるゲーム。


「翔!めちゃくちゃ強くなってるぞ!いつの間にコンボ覚えたんだ?」


「ふっ……俺は優秀だからな。要領さえ掴めば容易い」


「なにそのドヤ顔!ぐっ危ない!」


バーーーン!

画面に赤黒い稲妻が走り、決着の演出が流れる。

テクニカルな怪盗を圧勝する魔王。


「あー!負けた!結構なボロ負けだ!」


「悪いな裕香、勝たせてもらった」


「…もう一回だ!」


再び向かい合う2人。

自然と笑い声が出て、かつて裕貴だった頃と同じように、ゲームの世界に没頭していた。


「ぐっ…ぐっ…ちょっまて!」


バーーーン!!


「勝ったーー!!やった!危なかった……!」


裕香は両手を高く上げて喜ぶ。

そのたびにシャツの下のか膨らみがポヨンッと揺れて、翔は目をそらすのに必死だった。


「あ〜…いいとこまでは行ったんだがな。裕香には勝てなかったか」


「でも翔、流石だな。忙しいのにすごい上達してた」


「はは……ありがとうな」

(……さっき喜んで飛び跳ねたとき、結構揺れてたな……。体格の割に大きいし、勝負には負けたけど……俺個人としては勝ちだな)



一息ついて軽食を取りながら、翔が切り出す。


「そういえばさ、この前のお泊り会ってやつ。どうだった?」


「お泊り会……」


裕香は少し頬を染めて、当時の光景を思い出す。

笑顔、ゲーム、風呂上がり、そして……夜の出来事。


心臓がドクンと跳ね、思わず言葉に詰まった。


「そりゃ…もう色々とあったけど、楽しかったなぁ」


「それは良かった。お前、アウェーだから大丈夫かなって思ってたんだ」


「まぁ、何話せばいいのか分からなかったけど……でもレースゲームのおかげでなんとか乗り切った!あとは……なんか謎にハグされたし」


「……は?」


翔の眉がぴくりと動く。


「風呂上がりに、ぽかぽかゆかっちって呼ばれてな。順番にハグされて……白石さんなんて正面から……胸が顔にな」


「…………そうか……羨ましいな」


その声色は落ち着いていたが、確かにいつもと違う響きがあった。

今まで翔は何人も彼女がいたはずなのに、今さら女子とハグ程度で動揺するなんて――。

(もしかして……白石さんとか桐谷さんのこと、気になってるのか…?)


「あ、安心してくれ!変なことじゃなくて、ノリが強かっただけだから!」


「……ああ、大丈夫だ」

(羨ましい……そりゃ羨ましいさ。だけど俺が羨ましいのは"白石や桐谷に抱きしめられたお前"じゃない……“お前を抱きしめた三人"に対してだ!)


翔の胸中は荒れていたが、それを押し殺すように口角を上げる。


「まさか、この姿になって新しく友達ができるとはなぁ」


「まぁ……真桜の気まぐれに付き合ってやってくれ」


「いや、俺はめちゃくちゃ感謝してるよ、真桜さんには。……でも、なんだかんだお前と一緒にいる方が安心できるなぁ」


「……!?……俺もだ」


その一言に翔は一瞬言葉を失ったが、すぐに小さく笑った。

俺も自然と安心したように微笑む。


久しぶりに並んでゲームして、笑い合って。

やっぱり、この時間が一番落ち着く。


「さて……そろそろ帰るか」


翔が帰ろうとした、その前に。どうしても渡しておきたいものがあった。


「あっ、待ってくれ!」


「ん?」


「これ……良かったらどうだ?真桜さんたちにだけ渡して翔にあげないのも変だし」


手渡したのは前に作ったクッキー。

翔には紅茶じゃなく、コーヒーを混ぜ込んである。普段からブラック派だし、気に入ってくれるはずだ。


「……おお。あ、その……ありがとうな」


「いやいや、いつもお世話になってるし。大したものじゃなくて申し訳ないけど」


「いや、ありがたい。……大事に食べるよ」


翔は少し照れながらも、しっかりと袋を受け取った。


そして玄関に向かいかけたとき――ふと振り返る。


「あと、裕香」


「え?」


「俺はいいんだが……今後もし別の男を家に呼ぶなら、ちゃんとブラはつけとけ。元男だから分かるけど、お前が変な目で見られるのは……嫌だから」


「……っ!?あ、いや、その……翔ならいいかなって思って……。うん、気をつける」


「それと、下着は専用の脱衣箱にしまっとけよ。じゃあな」


「えっ……あ……うん。また」


バタン、と扉が閉まったあと。

裕香は一気に頬が熱くなる。


「うわぁぁ……!うかつだった!!翔は今更女子の身体なんて飽きるほど見たから俺程度は大丈夫って思ってたけど……確かに、これが他の男子だったら……危なかったかも…」


経験豊富な友達を持ってて良かった。ほんと、翔ありがとう。

――でも。


「男友達にクッキーって……やっぱり気持ち悪かったかな……? なんか、ぎこちなかったし……うぅ、急に恥ずかしい……」


その頃。


家路につく翔の手には、裕香からもらった小さな袋。

歩きながら、ぎゅっと握りしめる。


「……しゃ……しゃっ……しゃーー!! やったぞ! もらった……もらってやった! クッキー……青春ハプニング……勝った!」


思わず誰もいない道で小さく叫ぶ。

抑えきれないほど心臓がバクバクしていた。


「好きな人の部屋に行くだけで、こんなにドキドキするなんて……俺…今までこんな事なかった。心の底から好きになったらこうなるのか…」


ふと浮かぶのは、部屋着姿で笑っていた裕香の横顔。

ラフで、自然で、でもやけに可愛かった。


「……可愛かったなぁ。住みたいなぁ……」


夜風の中、翔の足取りは軽くなる。

それは確かに、少し眩しい青春の一幕だった。




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