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第46話 前より健全で前よりさらに熱い女子会

旅館一階の売店。

まだ夕方過ぎということもあって、生徒でごった返していた。


「うへぇ……ガヤガヤしてる……」


人混みが苦手な俺は、壁際をなぞるようにしながら物色する。

棚には、いかにも京都らしいお土産がずらり。


饅頭、八ツ橋、限定パッケージのポテチ……

お、そばもある。


「うぉ!懐かし……」


ふと目に留まったのは、ドラゴン型のキーホルダー。

小学生男子なら一度は手に取ったであろう、あの謎にカッコいいドラゴン。

まだ売ってたんだな、これ……。


そんなこんなで、

帰ってからのおやつ用に八ツ橋と抹茶。

ついでにそばも購入。


「むふふ……楽しみ……」


小さな袋を両手に抱え、部屋へ戻ろうとした――その時。


「あ、もしかして前川さん?」


「!? ……へ……? は、はい……!」


不意打ちの声に、心臓が跳ねた。


「俺ら、同じクラスの。分かる?」


「あ、あはは……わかるよ〜……!」


うわわわわわ!出た!!

ごめんなさい!!顔は出てくるけど…

名前が!!全然!!出てこない!!

本当に申し訳ない……!!


「修学旅行どう? 楽しんでる?」


「前川さん、クラスじゃあんまり喋らないからさ。

せっかくだし話してみたいなって思ってたんだよね」


「あ、あわわ……そ、そうなんだ……」


え、これは……。

友達として?

それとも……ちょっと狙ってる……?


確か……距離が極端に近いのと

急に連絡先を聞くのと、後は…ボディタッチ……?


……いや、今のところ何もされてない。

これは……ただの談笑……か?


俺はとにかく、失礼にならないように、

でも深入りしすぎないように、

必死で会話を繋いだ。




「……ふぅ」


何事もなく、その場は解散。


「幸い……何も起きなかった……」


……けど。


「相変わらず、正解が分からないな……」


トボトボと廊下を歩き、部屋へ戻ろうとしたところで。


「……ゆかっち?」


「あ……か、神崎さん……」


「今、一人?」


「あ、うん。みんな温泉行ってて……」


今なら、聞けるかもしれない。




自動販売機前・休憩スペース

缶ジュースの前で、俺は意を決して口を開いた。


「き……気のある男子と……そうじゃない男子の見分け方ぁ?」



神崎さんは、少し困ったように視線を逸らした。


「……は……はい……よく……分からなくて……」


声が、我ながら情けないほど小さい…


「あ……うーん……」


神崎さんは腕を組み、考え込む。


(え、えぇぇ…そんな純粋な質問してくる……?

確か翔くんが言ってたけど高校に行けてない時期あったって……

もしかしてこの子、本当に知らないことの方が多いのかな?)


「お……お願いします……!」


俺は、とにかく頭を下げた…!

無知を承知で…神崎さんに!


「え……あ、うん……」

(ううううう!!……可愛い!!こ、こんな…素直に…!!まるで箱入り娘…守りたく……なる……!)


(……いや、ダメダメ!私!!

さっき翔くんにも言われたばっかりでしょ!!

“あんまり追い込むな”って……)


(でも……この子は……この子は…私が…守らねば!!)


「あー……もしかして……男子に話しかけられた?」


「あ……うん……!そうなんだけど……」


「なるほどね……」


「これ!っていう明確なものは、正直ないんだけど……」


「距離感をちゃんと線引きしてくれてるかどうか……かな」


「距離感……?」


「そう。

友達として仲良くなりたいならさ、クラスの話とか、イベントがどうだったとか、そういう他愛もない話が多いでしょ?」


「う、うん……」


「でもね、

休日に何してるか聞いてきたり、やたら褒め始めたり……

プライベートを必要以上に探ろうとし始めたら、

それは“気になってる”可能性が高いかな」


「な……なるほどぉ……」


……とは言われても。

正直、かなり難しい。


「直感の話になってしまうけど『あ、この人ちょっと嫌な目で見てるな』ってゾワッとしたら、

それはもう色恋目的だと思っていいよ」


「ゆかっち、可愛いし。気をつけなよ?」


「へっ……あ、ありがと……」



「逆に…」


神崎さんは少し声のトーンを落として、続けた。


「距離が近くても、不快じゃなくて……

むしろ心地いいなって思うなら」


「それは……たぶん、良い感じってやつ、だね」


「い、良い感じ?」


「ゆかっちさ、高校生活、もうそんなに長くないんだから。

行けるって思ったら自分を信じてみなさいよ?いいなって思った人と」


「困ったら、相談くらい乗るからさ」


「へ……? 行ける?」


「最後の青春は、悔いのないようにってこと!」


……なぜか、

男子との距離感の話から、恋愛の話にすり替わっている。


女子になってから、

“男子との距離感に気をつける”なんて考えなきゃいけないとは……。



た、確かに……

さらっと話しかけてくる人もいれば、

なんとなく近いな……って人もいた。


……板野くん、みたいに…

いやいや! 忘れよう! 忘れよう!!


でもそれで…いうと…

翔の近づき方って……

友達としては、確かに近い。

でも……不快には、ならない。




「うーーー!!ここ直近、翔のことばっか考えてる!!

もう……部屋でゆっくりしよう!!」



逃げるように、その場を後にした。

部屋にて



ガラッ。


「た、ただいまぁー……」


「おおーー!! ゆかっち!! おかえり!」


「どこ行ってたの?」


部屋にいたのは、桐谷さんと真桜さん。

……あれ?


「えっと……売店で、お土産を。白石さんは……?」


「レイはな〜……」


真桜さんが、やけに楽しそうな溜めを作る。


「な、なんと……!久我くんとやらと、どこかへ行ってしまったのだ!」


ななな、なんだってぇぇぇ!?!?


俺は――

なぜか、胸の奥がひやりとするような悪い予感がしていた。

その予感を的中するようにタイミングよく扉が開く。


ガラッ……


「…………」


部屋に入った瞬間、空気が違う。

そこにいたのは、

頬を赤く染めて、落ち着きなく指先をもじもじさせている白石さんだった。


「レイ! おかえり!」


「なはは〜!!

どうだったのだ!? 久我くんとのお散歩は!」


二人に挟まれて、白石さんは一度、大きく息を吸い――

意を決したように、小さく口を開く。


「……つ……付き合っちゃい……ました……♡」


一瞬の静寂。



次の瞬間――



「「わーーー!!! おめでとう!!!!」」



部屋が一気に沸騰した。


「どこで!? どこで告られたの!?」


「なんて言われた!? 今夜は長いぞ〜!!」


「や、やめて……! も、もう……!」


照れながらも、嬉しさを隠しきれない白石さん。

それを全力で囃し立てる、桐谷さんと真桜さん。


その光景を眺めながら――

俺の胸に、小さなズキリとした痛みが走った。

……少しだけ、寂しい。



でも、不思議と

心のどこかは、驚くほど冷静だった

羨ましさも、焦りも、確かにある。

それでも――



「白石さん……おめでとう」


そう言った声は、自分でも驚くほど自然だった。


「ゆ……裕香さんまで……!ありがとう……!」


白石さんは、くしゃっとした笑顔を向けてくれる。

不思議だ。

嫉妬で胸がぐちゃぐちゃになると思っていたのに

俺は、二人の幸せを素直に祝福できていた。


……精神的に、余裕があったのかな。



そして――

二日目の夜、再び女子会が開かれた。


……とはいえ、前回とは明らかに空気が違う。

今夜の主役は、間違いなく白石さんだった。



「それで……突然、二人きりになって……」


布団の上で膝を抱えながら、白石さんは少し照れたように語り出す。


「夜風が気持ちよくて……少し外を歩いたの。 ……夜景の見える、すごく素敵な場所で……」


「おおぉぉ……!」


「くーくん、男だなぁ! あのレイを落とすとは!」


「うーむ……久我くん、やるのぉ……」


素敵すぎる色恋の空間。

部屋全体が、ほわっと甘い雰囲気に包まれていく。


何より――

白石さんの表情が、今まで見たことがないくらい柔らかい。

まるで、恋を覚えたばかりの天使みたいに…

無邪気で、幸せそうで。


「レイ、三日目はどうするのだ?」


「うーん……普通に、色々巡る感じかな。 ……まぁ……恋人として……」


「おおお! 言うようになったねぇ!」


「恋人かぁ……! なはは!いつか剛とダブルデートだ!」


「ま、まぁ、そういう日があっても……いいかもね!」


「くーくん良い人っぽいから、大事にしなよレイ!恋人だからね! 」



――恋人

あの白石さんが、

こんなにも幼い乙女みたいな笑顔を見せるなんて。

それくらい、楽しくて、幸せで、


特別なもの……なのかな。


……その光景を見ていたら、

胸の奥に、じんわりとした寂しさが広がって―

気づけば、俺は口を開いてしまっていた。



「……白石さんは、これからは…… 久我さんと、一緒にいることが多くなるのかな……?」


しまった…!

正直、あまり良くない質問だと思った。


でも――


「ゆかっち〜、大丈夫だよ!」

レイはね、友達もちゃんと大事にするタイプ! ……でも、これでゆかっちは、私が独占するってのも、アリかもだけどね!」


「なはは! そうはいかん!恋人と友達と、ゆかっちは別腹なのだ!


「わ、わわ……!」


早速、真桜さんと桐谷さんが身を寄せてくる。


「そ、そんな……! 裕香さんとも、これからもちゃんと……!」


白石さんが、慌ててそう言ってくれる。



……なんだろう。 胸の奥が、少しだけ温かくなった。


恋人と、友達。

似ているようで、でも違う関係。


どこからが、恋人で

どこまでが、友達なんだろう。

……そんなことを考えていると。



「ふふふ〜……レイの話だけで終わると思ったか? ゆかっち、そろそろ観念してもらうぞ〜?」


「……ん?」


「明日〜……誰と行くのだ?」



「!????!!」


うわぁ、来た!!


予想してなかった方向からの、直球質問。

桐谷さんは、にやにやしながら一切の容赦がない。




本当なら――

変な誤解を招かないためにも、

この話は秘密にしてた良かったのかもしれない…


三人の熱を帯びた視線

白石さんの、幸せそうな恋バナ。


……女子として

俺は……この空間に…女子会に…少しだけ踏み込んでみたくなった。


だから

逃げるのを、やめてしまった。



「……そ、その……えっと……」


「……し、翔……と……」


次の瞬間。


「どぇぇぇ!!! やっぱりか!!」


「予想はしてたけど……! これは……!!」


「ふふふ。私は、もう知ってたけどね?」


部屋の熱気が再来してしまった。


「そ、そんな……大したことじゃない……よ? たぶん……私に気を遣ってくれて……」


必死の弁解も、むなしく。


「ゆかっち! ここまで来たら、もう友達とかじゃないぞ!? チャンスだぞ!?」


「……確かに……! あの人、わざわざ幼馴染って理由だけで誘うタイプじゃないわよ。 裕香さん……多分……良い感じ!」


「兄ぃは、ずっとゆかっち追いかけてたからなぁ〜! さぁ、どう攻略するのかな〜?」


え、えええええ……!

やっぱり、こうなるのか……! 俺はただ、友達として気楽に――

そういう意味だと思ってただけなんだけど……!


「ゆかっち?」


桐谷さんが、ずいっと距離を詰めてくる!


「もし、だよ? もし……翔くんにアタックされたら? ……もしくは、向こうに気があるって分かったら??」


「今日は聞くぞ〜、ゆかっち……!!」


真桜さんまで、逃げ道を塞ぐ…!!


「わ……私も……! 気になる!! 裕香さん、教えて!!」



どええええ!?

白石さんまで!?

た、助けて……神崎さん……!!



……でも。 ここまで来たら、もう

観念して、俺は小さく息を吸い。


「あ……あ……」


「……あり……かも……?」




「「「おおおおおお!!!」」」



最高潮の熱。

本来なら、白石さんが主役の女子会だったはずなのに。

いつの間にか、スポットライトは完全に俺へと向いていた。

……俺は。

とんでもないことを、口にしてしまったのかもしれない。


「で、でも……私は……なんか……恋愛なんて……!」



発動!!【自己否定】


陰キャの、長年染みついた専用特性!



何度もいってたが

明らかに、俺と翔は釣り合わない。


それに……元男が、男に恋をするなんて

流石に…キショすぎる…!


「いやいやいや!! ゆかっち!!

ここまで来てそれ言うの、翔くんにめちゃくちゃ失礼だぞ!?」


「そ、そうよ! 裕香さん! これはもう……ちゃんと向き合って、答えるべきところよ!」


うう……。

熱の入った女子って、どうしてこんなにエネルギーがあるんだ……。


逃げ道が、どんどん塞がれていく。

ど、どうすれば……。


すると。


「ふふ……」


それまで一歩引いていた真桜さんが、静かに口を開いた。


「ゆかっち。いいんだよ?恋しても」


「……たとえ、相手が男でも、女でも」


「……そ、そう……かな……?」


自信なく返す俺に、真桜さんは微笑む。


「うん。私、ずっと見てたよ?」


「兄ぃと遊んでた頃から……色々と辛いこともあったのにさ。 それでも高校に来て、環境が変わって…… それでも逃げずに、一生懸命やってきた」


「だからね私は、ゆかっちに恋をしてほしいなぁって思う」

「幸せになってほしいし」


……ずるい。

こういう時の、冷静で論理的な真桜さんは、本当に手強い。


「……が……頑張って……みます……明日……」


搾り出すように言うと。


「よーし!!」


桐谷さんが、勢いよく手を叩いた。


「レイに続いて! ゆかっち恋愛大作戦だー!! 内容は――頑張る!!以上!!」


「はぁ……もう。 少しは具体的にしなさいよ、光……」


白石さんが呆れつつも、どこか楽しそうに微笑む。


「明日は張り切らなきゃね!」


真桜さんは笑顔を向ける


「あはは……そうだね……」


そうして、いつもより少し早めの就寝。

布団に潜り込み、天井を見つめる。


明日――

翔と、自由行動。


「……翔……と……付き合う……?」


胸の奥が、じわりと熱くなる。


「うぅ……なんで、こんなことに……」


「……ほんとに……俺……翔と……いけるのか……?」


考えないようにしても、どうしても浮かんでしまう。


翔の声

横顔

何気ないやり取り。


俺は

このまま、素直に自分の気持ちに従っていいんだろうか?

答えの出ない問いを抱えたまま、 意識はゆっくりと、眠りの底へ沈んでいった。


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