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第43話 高校生っ思っていたよりも大人なのかもしれない。

長い時間が経った気がする。

次第に意識がだんだんと…はっきりしてきた…

あれ……?

たしか俺は……寿命と引き換えに、

神々の百合の花畑へ導かれてーー



「う……うーん……」




……あ、生きてたわ。

目を開けると、そこは見慣れた旅館の天井だった。


「……ん…?」


「おっ! ゆかっち、目ぇ覚めたか!」


「おおー! 起きたならUNOするぞー!」


「目が覚めたんだから、離してあげなさいよ。白石さん」


「…………やだ……」


……ん?

ぎゅっ、という感触。

頭の後ろに、やわらかい太ももの感触。

え、これもしかして…白石さん……?



うおぉぉ……!なんでかよくわからないけど

これは……これは……

いいかも!!


まるで我が子を優しく包み込むような

健全なハグ。

なんて心地いいんだ……。


「……うへへぇ〜……」


思わず、だらしなくニヤけてしまう。


「あー!とろけてる! レイがゆかっち独占してるぞ!

悩殺ボディ使いやがって!!」


「やーい! 漁夫の利! 漁夫の利!」


「……魔性の女……」


「ち、違うから! 私がこうしてなきゃ、あなた達なにするか分かんないでしょ! もう!」


……まだ争ってる。

この人達、ほんと元気だな……。

俺って、そんなに良いものなのかな?



なんやかんやあって、白石さんから解放される。

……ちょっと、寂しい。


「というわけで! 今度こそUNOするぞー! 夜はここからだ!」


「はーい! そのあとポーカーもやりたいな!」


「せっかくの修学旅行だしね」


いつもの雰囲気に戻る3人


「う……うん! UNO、やってみたい!」


UNOもトランプも、実は初めてだ。

これは……普通に楽しみ!


「じゃあ、私はそろそろ帰るね」


そう言って立ち上がる神崎さん。


「あまねっち!? そりゃないよ!」


「なはは! 強制参加だぞ! なぁ? レイ、ゆかっち!」


「私は……まぁ、大丈夫だけど」

(この人……正直、苦手なとこもあるんだけど……)


最近、話せるようになった神崎さん。

帰ろうとする姿勢に…正直、寂しさを感じた。

せっかくなら、みんなで楽しみたい。

だから、勇気を出して。


「……私も……いてほしい、かな?」


「……え!? …………まぁ、皆がそう言うなら……少しだけ」


「やったー!!」


「はぁ……うるさい人達……」


神崎さんはそう言いながら、ふっと視線を白石さんに向ける。


「あ、そうだ。白石さん。三日目、久我くんすごく楽しみにしてたよ。絶対いい感じだね、あれ」


「え!? そ、そうなの……? あ、ありがとう……!」

(……あれ? この人、もしかして……いい人?)


「恋バナ!? 天音、まだ早いぞ!」


「違うって。ただの報告。ほら、UNOするんでしょ」


……複雑だけど。

白石さんが幸せそうなら、それでいいのかもしれない。

でも今は――

この時間を、みんなで共有したいな。

こうして。

俺の、健全で、ちょっと騒がしい

修学旅行の夜が始まろうとしていた。




一方、1組男子部屋。


窓際の広縁に置かれた椅子に、翔は沈み込むように深く座っていた。


「はぁ……何やってるんだか……俺は」

(流れが……良くないな。完全に良くない)


(俺の仕込みが、ことごとく真桜に読まれ、妨害されている)


(まだ俺には3日目がある…3日目の自由行動…

確実に二人きりになれる)


(それまでは我慢だ……

過ぎた欲は身を滅ぼす……ここからは慎重に行こう)


(はぁ、人目を気にせず、堂々と裕香と一緒にいたいのにな)


そんな翔の背中に、呆れたような声がかかる。


「何、死にそうな顔して落ち込んでんだよ、翔。

ほら、売店でアイス買ってきたぞ。食おうぜ」


「あ……そうだな。サンキュー、剛」


飯田からアイスを受け取り、翔は身を起こす。

久我もすでに自分の分を開けていた。

男三人、浴衣姿で車座になり、もそもそとアイスを口に運ぶ。


「もう10時前か……」


飯田が時計を見上げ、ニヤリと笑った。

「今ごろこの旅館は、お盛んな奴らの巣窟になってるんだろうな〜」


「ああ、そうだな」

「今は先生の見回りタイムだが……それが終われば、各々で部屋を移動しまくってるだろうな。

まったく、白鳳高校はそこら辺の管理が甘いんじゃないか?

今夜だけで何組の不純異性交遊が生まれることやら」


「バ……バレたらどうなるんだろうか? 神宮寺くん」


久我が恐る恐る尋ねる。


「ん〜、普通に見つかれば強制帰宅だな。停学のおまけ付きだ」


「ひぇ……」


「まぁ、ここの学校の奴らもそこそこ頭は働く。

建前としては『トランプだのボードゲームだのをしに来た』って言い訳を用意して、部屋に潜り込むさ。

そんで朝方、先生が起きる前に情報共有して、何食わぬ顔で自分の部屋に帰る……。

大人をナメてるよな、高校生ってのは」


「そ、そうなんだ……みんなそんなリスクを冒してまで……」


男女のキケンな火遊びを危惧し、青ざめる久我。

そこに――飯田がぬっと近づき、ガシッと肩を組んだ。


「――と、いいつつもよ……久我」


「おわっ!?」


「お前はどうなんだ?…白石とこっそり……なんてできてたらな?」


「……ゴクリ……」


「っ!? ……って、そんな事思う訳ないじゃないか!!

ぼ、僕は……純粋に彼女の事を……尊敬していて……その……!!」


顔を真っ赤にして否定する久我。


「ほーう……動揺してんなぁ、久我」


「えっ……神宮寺くん?」


「よし、興が乗ってきた。

……これより『ゲス男子会』を開催する!」


「いいねぇ、翔。

ピュアな久我くんに、大人の保健体育を教えてやろうぜ」


「え、ええ……!? そ、そんな……!」


逃げ場のない和室の真ん中。

無垢な子羊を囲む、二匹の狼。

修学旅行の夜、男子部屋のあられもないトークが幕を開けようとしていた。


「で、どうなんだ? 剛。最近、桐谷とは?」



「ん? まぁ、普通に遊ぶ時もあれば……ラブホに行く時もあるな」


「ら、ら、ラブホ……ッ!? み、未成年って確か……!」


「意外とバレねぇぞ?

そんじゃ、世の高校生カップルはどこでするんだって話だよ」


「……そ、そうなるのかな……?」


「どっちかの家って言っても、家族の目もあるしな。落ち着かねぇだろ」


「まぁな。俺は元カノとは普通に家でしてたがな」


「翔ん家はまた別格だろ! あれはもう家っていうか、ホテルみたいなもんだし!防音も完璧なんだろ? 全く」


「え……えぇ……そうなんだ……」


「で、翔は最近ご無沙汰だろ?

それとも、他にそういう……セフレ的なのがいるのか?」


「いや。俺は今、そんな事してる余裕はない」

「……専念したくてな」


「ほぅ……ってことは……狙ってる奴が、いるんだな?」



「し、神宮寺くんも……好きな人が、いるんだ……」


「まぁな。俺だって人間だ、恋くらいするぞ。

……それより久我、お前はどうなんだ? 今回の旅行で、アタックしないのか?」


翔が矛先を変えると、久我は一瞬びくりと体を震わせ、

そして――意を決したように顔を上げた。


「……実は……明日」


「旅館の人気のない落ち着く場所で…そこで。

告白しようかな、と……」


「なにぃ!? ついに!! おい! まじか!」


「ほぉ! やるじゃん! 久我くんよ!」

(よし! よし! よっしゃあああああ!!

やっとか!! やっと動くか久我!!これで……! これで……!

最大の懸念事項だった『白石×裕香』の百合ルートは確実に無くなる……!あ〜、ここまで長かったなぁ……!

………あとは真桜か…)


「あはは……受けて貰えるかどうかは、分からないけど……」


「いや、俺の見立てじゃ確実に行ける!

……頑張れよ、全力で応援する」


「ありがとう……!」


久我は嬉しそうに微笑み、そして少し真剣な顔つきになった。


「僕も……聞きたいな。

翔くんの……その……想い人って……誰なのかな?

僕だけ話すのも不公平だし……折角なら、教えて欲しい」


「あ〜、俺も聞きたいな。

まぁ俺は大体予想がついてるが、お前の口から聞きてぇ」


二人の視線が、翔に集中する。

翔は少しの間沈黙し、天井を仰いだ。


「おいおい、それ聞くかよ……」


「……まぁ、正直俺も一人でずっと悩んでたし……相談相手欲しかったし…お前らになら、言ってもいいかもな」



「ただし、マジのマジで内緒だぞ?

俺のこういう話は、冗談抜きで学内の女子達がパニック起こしかねんからな?」


部屋中に、重く、強い沈黙が響く。

翔は一度深く息を吸い、覚悟を決めたように口を開く。


「…………裕香だ」


「はぁ!? 前川!?? 神崎じゃねぇのか!?」


剛が目を剥いて素っ頓狂な声を上げる。

一方で、久我は納得したように深く頷いた。


「あ〜、やっぱりそうなんだ。教えてくれてありがとう……! 神宮寺くん」


「……え? 俺、そんなにボロ出してたか?」


「うん、結構。まず目で追いかけてる勢いが違うし……あと、僕と裕香さんが話してる時、なんかこう、背中から強烈な『圧』を感じてさ……。

なんとなく、そうなんだろうなぁって」


「あ〜……そうなのか……感じてたのか……」


「お、おいおい! 翔! なんか……意外だな……。

俺はてっきり、お前と釣り合う神崎とか、あるいは白石とかかと思ってたぞ??

……悪く言うつもりはねぇが、前川のどの部分に惹かれたんだ?」


「よくある話だよ」

「あいつは……俺の肩書きとか家柄じゃなくて、中身までしっかり見てくれてる気がしてな……。

一緒にいて、変に気を張らなくていいし、ほっとするんだ。

……そうしたら、自然とな」


「うん、素敵な話だ……。

僕もなんとなく分かるよ。自分がどんな人間なのか、内面を理解してくれたら嬉しいよね」


「そういうことだ」

(……神崎の時もそうだったが、やっぱりこの設定便利だな〜)


「そ……そうなのか……へぇ…

翔が……あの神宮寺翔が……

前川裕香……とんでもねぇ女だな……」



「だが、久我みたいにサクッといければいいんだが……『友達』からだと難しいんだこれが。

どうしても、そういう目で見られにくくなるからな

それに……あいつ、自己肯定感がかなり低いんだ。

そこも問題だ」


「……可愛いんだがなぁ」



「多分だけど、あの子、過去に色々とあったんだと思うよ?」

「僕の古い、愛着障害をイメージした曲にすごく共感してたから。

心のどこかに、深い孤独とか、傷があるのかもしれないね」


「……流石だな、久我。かなり重たい過去があるだよ」

「これでも俺もフォローは頑張ってるつもりなんだがな……」



「お前がそんなに真剣になるとはな。

俺で良ければ、困った時に話ぐらい聞くぞ? 愚痴でもなんでもこぼせよ。なんとかなる、くらいしかいえねぇがな!」


剛がニカっと笑って、翔の背中を叩く。


「僕も、同じ恋愛に挑戦する身として……応援してるよ、神宮寺くん」


「……はは。ありがとうよ、二人とも」

「やっぱり、こういう話って……言えば楽になるもんだな!」



一通り秘密を共有し、妙な連帯感が生まれた男子部屋。

翔は天井を仰ぎ、しみじみと呟いた。


「あ〜、いいなぁ

俺もこの浮ついた高校生どもに混ざりてぇなぁ……」


「はは、翔!わかってるじゃねぇか。男だもんな!」


「しゃーねぇよ。男だからな。

想像してみろ? 普段はそんな事しそうにない子が……自分と夜を過ごす時だけ見せてくれる、女の顔……。

……くぅー! 堪んねぇな!

なぁ剛、実際どうなんだ? 桐谷は」



「あいつか?

あいつはまぁ……朝も夜も、あのまんまだぞ?

「意外と可愛い声出るんだな、とは思うが」


「う、おぉ……ゴクリ……」


生々しい証言に、久我は無言で喉を鳴らす。

そんな久我に、翔がさらに畳み掛ける。


「久我よ……想像してみろ。

あの清楚系のむっちりボディ美女がだ……。

二人きりの時、お前にだけ『Sっ気』を見せてきたら……どう思う?」


「う……っ!!」


「……ま、まぁ……ナシでは……ない……かな」


「ははは! 正直でよろしい!」


「そ……それを言うなら神宮寺くんこそ!」

「あんな華奢で小動物みたいな子が……!

君を喜ばせようと、不慣れながらもあの手この手で……してきたら、どうなんだい!?」


「うぉ……っ!?

や、やめろ……想像しちまった……じゃねぇか……ッ!」

(不慣れな裕香が……上目遣いで……必死に……?…俺の…アレやコレを…うぉぉぉ!!)


顔を覆う翔を見て、剛が手を叩いて笑う。


「いいねぇ、久我も言うようになったな!

これでこそ健全な『ゲス男子会』だ!」


落ち着きを取り戻す翔。

「ま、男が集まったらこんなもんだろ。

女子って今頃何話してんだ? やっぱり恋バナか?」


「さぁな?

『ここの映えスポットが〜』とか、『新作のコスメが〜』とか、キャーキャー言ってんじゃねぇの?」


「うーん、もう疲れて寝てるかもしれないね」



男たちは、勝手にそう結論づけた。

しかし――現実は、彼らの想像を遥かに超えていた。




場面は戻る


2組女子の部屋



「でさー、剛が言うんだよ! 『まだいけんだろ?』って!

なはは! アイツほんと性欲が強くてな!」


「へー! でもヒカも強いと思うけどね!相性いいし!丁度いいんじゃない?」


「まぁな!アツアツだぞ!真桜は最近どうだ? 相手はいるのか??」


「うーん、私? 国内ではまだかな〜?」


「うわぁ……真桜ちゃんのスケールにはついていけないわ、私」


「国内でいい男がいないだけだよ〜!

あまねっちはどうなの??」


「……高校1年の以来かな。…勢いゆえに、って感じだったけど」


「「えー! 聞かせて聞せて!!」」



布団の上で繰り広げられる、

赤裸々…なんて言葉じゃ収まらないトーク。



俺は……俺は今……



「女子の真の姿」を見ているのかもしれない……



「…………」


隣では、白石さんが顔を真っ赤にして黙り込んでいる。


俺も一緒だ。

膝を抱えて、小さくなるしかない。

UNOとポーカーは、めちゃくちゃ楽しかったし、盛り上がった……!


でも。

この話をしてる時のほうが…

盛り上がりが半端ない……!!



(あわわわわわ!!……ど……どうすれば……!?健全…ああ!健全はどこに!?)



俺の……

そして白石さんの、

眠れない「危ない夜」は、まだまだ続きそうだった。

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