第41話 初めての京都!凄すぎる!
修学旅行まで、あと一週間。
グループ行動のメンバーも固まり、場所も決まりつつある。
そして
次に立ちはだかる決め事。
それは…部屋割り。
「えーっと……どれどれ……?」
配られたプリントに目を落とす。
一人〜六人まで。
決まり次第、申請すること。
一日目・二日目で旅館は変更。
「……一人から……六人……?」
一人……一人もいけるの!?
つまり、一人一部屋ってこと……?
「……白鳳高校、金持ちすぎない……?」
どうやら出資元がかなり太いらしい。
色んな投資家が関わってる学校なのかなぁ…?
「うーん……」
正直、迷った。
でも――
――この前、翔に言われた言葉が頭をよぎる。
「あんまり女子をじろじろ見るなよ」
……うん、確かにその通りだ。
更衣室…真桜さんとの混浴やシャワー…チアユニフォーム…
今まで、十分すぎるほど“堪能”してきた。
そろそろ、自制しよう。
そうだ、それが大人ってやつだ。
「よし……俺は、一人部屋にしよ」
「なははは!温泉入ったらUNOするぞー!」
「私はトランプがいいな〜!」
「私は……ゆっくりお話がしたいわ」
桐谷さん、真桜さん、白石さん。
三人とも、修学旅行モード全開だ。
「ゆかっちは、なにがしたい?」
桐谷さんが、こちらを向く。
「あ、私……は……」
「一人部屋で、ゆっくりしようかなって……」
「「「………えっ……?」」」
「そっかー……UNO、したかったんだけどなー」
「ゆかっち……私たちとお泊まりしたのに……修学旅行なのに……」
「……仕方ないわ…これも本人の意思だから…ね」
「うっ!……………………」
…………やめて下さい…!
そんな顔、しないでください。
胸が、きゅっと締め付けられる。
ううう……違うんです……!
嫌とかじゃなくて……自制……自制なんです……!!
「……あ、私……やっぱり……」
「……入って、いいのかな?」
一瞬の沈黙…
「なーんだ!!そういうことか!!
ゆかっちの毎度のウジウジか!!びっくりした!!」
「わー!!やった!!四人で夜まで騒ぐぞー!!」
「ほっ………ふふ、無理しないでね」
一気に空気が戻る。
…ごめんよ、翔……
一人部屋、選ぼうとしてたんだけど。
こんな顔、されるとは思わなくて。
でも――
……ちょっと、嬉しかったです
考えてみれば、
転校して、まだ間もないのに
この人たちは普通に俺の家に泊まりに来て、
一緒に服を買って、
海にも行って――
学校のイベントで、
こんなにワクワクする日が来るなんて、
前野裕介だった頃の俺には想像もできなかった。
…楽しみだなぁ……
修学旅行
ただの学校行事だったはずなのに、
今はもう、指折り数えるくらい待ち遠しい。
そして一方、1組。
「部屋割り、結構自由なんだな。
流石“翔様”の学校だぜ。金ある出資元は違うなぁ」
「やめろ。別に俺が金出してるわけじゃねぇ。
白鳳高校の“有望な学生”に支援してるだけだ」
そこへ、久我も加わる。
「改めて思うけど……神宮寺製薬って、本当にすごいんだね」
「まぁな。規模が違う」
翔、飯田、久我。
いつもの三人で、部屋割りの話をしていた。
「剛、お前は桐谷と一緒に泊まらねぇのか?
結構いるぞ、カップルで同じ部屋」
「あー、俺らはいいかな。
自由行動は一緒だけど、夜は各々って感じで。
お互い、男女それぞれで楽しもうってスタンスだ」
「へぇ……」
翔が少し含みのある笑みを浮かべる。
「久我くんは?
白石さんと、チャンスじゃないのか?」
「おっ、いいねぇ。
十八は成人だし?高校生でもアダルトに――」
「なななな、何言ってるんだ二人とも!!
そんなことするわけないじゃないか!!」
久我が真っ赤になって声を上げる。
「ははは、分かりやすいな」
(……裕香には、前もって念押ししておいた。
女子に下心、あんまり抱くなよって)
(あいつ、一人部屋にすると想定し……
遊びに行っても、いいよな?…そんでついでにあわよくば…!)
(…いや、流石にそれは、違う…!!何考えてんだ!俺は!
裕香は…裕香だけは…想い合いの果てに…そう決めてる!)
(俺は、そういう所はちゃんと大事にする男だ
でも、……まぁ、話してて寝落ちくらいなら……いけるよな?)
(なんせ、友達だからな!)
相変わらずの願望であった。
ーーーー
そして、学校も終わり。
それぞれ期待を抱い帰宅
神宮寺家
「やっほ〜、ただいま〜!」
「おう」
「ねえ兄ぃ、部屋割りどうなったの?」
「いつもの三人だよ。
神崎は一人でゆるゆるしたいってさ」
「ふーん……そうなんだ」
「そっちはどうなんだ?」
「ふふふ……こっちも、いつもの四人だよ!」
「まぁ、そうなるな……………え?四人?」
「……裕香も?」
「そだよ?」
「いや、でも……あいつ、まずくないか?
女子の中に――」
「だってもう七ヶ月近くだよ?
ゆかっちも、すっかり女の子だし!
私たちが誘ったの!いえい!」
「……へぇ…………そうか……」
(はぁぁぁぁ!?!?
いえい!!じゃねぇよ!!何やってんだこのバカ妹!!
畜生!!裕香と二人きりの時間が減っちまったじゃねぇか!!
あーーーくそ!!余計なことしやがって!!)
「……まぁ、真桜が言うならいいが」
「大丈夫だって〜。
ゆかっちは純粋だから、寝込みを襲うなんてしないよ。
まぁ、私だったら襲われてもいいけどね?」
「変な冗談言うな……。俺は部屋に戻る。
健全に修学旅行、過ごしてくれよ?」
「ラジャー!」
バタン。
翔は研究所を後にし、廊下を歩く。
「くそ……!
裕香が男子と女子の思考を行ったり来たりしてる時期に、
なんてことを……油断も隙もない妹だな……」
「しかし…これはまずい…。せっかく白石への危険性が消えたというのに…真桜はまずいな。
そこらのモブ男子程度ならいい、俺なら問題ない。真桜…あいつは異性どころか同性にも普通にモテる」
「こちらのアドバンテージが少ないな…それにしても…最近やたら裕香に絡んでんな?本気なのか?本気じゃなければほっといてもいいんだが」
一方、その頃。
研究所に残った真桜は、くすりと笑った。
「ふふ……のんびりしてると、先に取られちゃうよ?兄ぃ」
「ゆかっち…これからどうなっちゃうのかな?…楽しみ!」
――そして、1週間後。
裕香の部屋。
「着替えよし……インナーよし……下着よし……エチケットよし……」
「そして……コスメ……よし……!」
女子にしては、やたら大きめのキャリーケース。
あれ?荷物やっぱり多いよな?
男子なら着替えと下着、せいぜいワックスくらいじゃない?
なんか……男女で荷物、逆じゃないよな、これ?
「旅行かぁ……。
裕香になってからは初めてだな……」
「そもそも、自分の部屋以外で泊まるのも初めてだし……」
「おお……ワクワクしてきた!」
ゴロゴロとケースを引きずりながら外へ。
学校に着くと、すでにバスが何台も並んでいた。
バスでクラス別に乗り込み、いざ――。
高速道路を揺られながら、窓の外をぼんやり眺めていると、
ふいに視界に飛び込んできた大きな文字。
ようこそ京都
「おー… ここから京都だ!」
思わず声が出た。
正直、看板をくぐっただけで街並みが急に変わるわけでもない、舞妓さんがいるわけでも、瓦の家が出てくるわけでもない
それでも――。
俺たちは確かに、京都へたどり着いたのだ!!
まずは、やたら広い飲食店で昼食。
「湯葉……へぇ……薄っぺらいんだなぁ」
箸で持ち上げると、ふるりと揺れる。
正直、味が想像できない。
恐る恐る口に運ぶと――。
「……うまい……!」
味は主張しすぎない。
でも、噛むほどにふわっと広がる風味。
なるほど、これが京都か…よくわからないけど
「なはは!! おかわり!!」
「光……はしたない……」
横でいつものやり取りが繰り広げられているのを見て、
思わず笑ってしまう。
本格的に始まる旅行…!!
そして、京都の代名詞のひとつ。
「き……金閣寺だ〜!!」
目の前に現れた建物は、
想像以上に金!金んん!足利義満さんすげぇ金持ち!!
神宮寺家とどっちが金持ちなのかな?
「うっひょー!! すげぇ……!!
生で見るの初めてだ……!」
男っぽいリアクションも出るくらいの驚愕…!
水面に映る姿まで含めて、圧倒的な存在感。
写真で見たのとは、全然違う。
「す……凄い……これ、全部金なのかな?」
「あ、それメッキだよ」
「へ!?そうなんだね……」
さらっと真実を告げられ、少しだけ夢が現実に戻る。
でも、凄いものは凄い。
続いて向かったのは銀閣寺。
「……銀……? 銀色……じゃない?」
「それはね、わびさびを意識してるからだって」
「わび……さび……?」
「そうそう!
経年や劣化、そのままの変化を受け入れて美しさとする考え方。まあ、いろんな解釈があるけどね」
真桜さんの解説を聞きながら、庭を眺める。
やっぱり普段の感じから忘れがちだけど
この人、ほんとに博識だなぁ
派手さはない。
でも、不思議と落ち着く空間だった。
その後、有名な観光地を巡る3年2組。
そんなこんなで、1日目のクラス行動はあっという間。
歩いて、見て、食べて、聞いて。
真桜さんの意外な解説もあって、思っていた以上に楽しかった。
そして、夕方前。
旅館へ到着。
「……すげぇ……」
立派な門構え。
手入れの行き届いた庭。
廊下からして、もう雰囲気が違う。
さっきから「すげぇ」しか言ってない気がするけど、
とにかく――すげぇ!
「それでは各割り当ての部屋に荷物を置き、
消灯時間まで自由行動とします。
くれぐれも節度を持ち、白鳳高校生としてふさわしい行動をしてくださいね」
解散。
部屋へ向かう。
「おわー!! 広い!!」
「へへへ! 神宮寺製薬のおかげだぞ! 敬え!」
「!?…これは……とても素敵ね。
真桜のお父さんたちに感謝しなくちゃ」
「ほ……ほぇ……」
俺でも分かる。
これは本気で凄い内装だ。
艶のある畳に、落ち着いた色合いの襖。
窓を開ければ、手入れの行き届いた日本庭園が見える。
廊下も静かで、足音が吸い込まれるように消える。
どこからか、ほのかに檜の香りが漂ってくる。
テレビで見る“京都の高級旅館”そのものって感じ…
高校の修学旅行で泊まる場所じゃない。
取り敢えず俺はもう神宮寺製薬に足向けて寝ないように
心掛けよう…出資ありがとうございます!
荷物を置いて、少し休憩。
そして、夕食。
大広間に並ぶ、一人用の小鍋。
中身はすき焼きだ!
「……う、うんまぁ……」
甘辛い香り、主張しすぎない味付け…
柔らかい国産和牛肉…うひゃ…ほっぺた落ちるぅ…
京都、強すぎる。
もう、1日目にして大満足。
思い出でお腹いっぱいだ。
……しかし。このあと、
最高…いや最大にして最難関の試練が待ち構えていることを、
この時の俺はまだ知らなかった。




