第40話 もう鬼畜イベントとはいわせない!
色々と決断した事もあり、
俺は今日も今日とて女子を勉強中である。
そして、教室がやけにざわついていた。
ワクワク、ソワソワ。
落ち着きがない空気が漂っている。
……まぁ、正直に言おう。
俺もだ。
内心、ウキウキで堪らない。
なぜなら――
「修学旅行!!」
そう、修学旅行である。
いやぁ……
こんな俺でも、学校行事でワクワクできる日が来るとはな!
中学の頃は、
グループからはじわっと距離を取られ、
旅館では実質ぼっち。
夜は布団の中で天井を見つめるだけの、
悲惨すぎる修学旅行だった。
だが――
今は違う。
前川裕香には、友達がいる!!
行き先は京都。
1日目はクラス行動。
2日目はグループ行動。
3日目は自由行動。
「むふふ……楽しみだなぁ……」
そして今回の俺は、一味違う。
今まで受け身だった俺が――
グループ行動、俺から誘う!
真桜さんたちを!
俺から!!
(できる……俺ならできる……!)
その時。
「やっほ〜、ゆかっち!」
来た。
いつもの真桜さんだ。この辺はもう予測すら出来る!
よし……今だ……誘うぞ……!
「あ、ああの、あの、よかよか、よかっかか!!」
「ん?ラップ?」
「なはは!グループ行動、我らで行くぞ〜!」
「もう……勝手に決めて……」
「ヒカ流石!やっぱりこの4人だね!」
「わ〜……やった〜……」
ダメでした。
しかし…周りを見渡すと、
クラスのあちこちでグループがまとまり始めていた。
男同士、女同士、気になるあの人を誘うかどうか
きっとみんなこの修学旅行で一発決めてやろうって人もいるんだろうなぁ………爆発しろ。
ても、まぁ嬉しい。
俺は俺で、修学旅行を「一緒に共有できる友達」ができたことが、純粋に嬉しかった。
「よーし!それなら京都の観光名所、探るぞ!」
「私、京都よく行くから案内できるよ!」
「おお!真桜すげぇ!」
……うん、相変わらずだ。
よく京都に行くとか、案内できるとか。
神宮寺家、スケールが違う。
でも――
本当の問題は、そこじゃない。
「光は、自由行動誰と行くの?」
「私は剛と行くかな!」
……これだ。
自由行動。
俺は――俺は、白石さんと……行きたいが…
「じゃあ、真桜はどうするの?」
「うーん、特に考えてないかな。レイは?」
「え!? わ、私は……その……」
その瞬間、
胃がキュッと痛んだ。
……予想は、してた。
「おおぉ? レイ、誤魔化してるぞ〜?」
「わー!もしかして、もしかして〜?」
「う……うん……久我くん、誘われちゃった……かな?」
「「きゃあああーー!!」」
……だよな。
正直、
何もしなかった俺が悪い。
いや、そもそも――
勝負にすら、なれてなかった。
久我さん相手じゃ
(うぅ……憧れの白石さんが……遠のいていく……)
「じゃあ、ゆかっちはどうするの?」
「え?」
真桜さんの視線が、こっちに向けられた。
「あ、えっと……考えてなかったや。一人で、ぶらぶらしようかなって……」
「えぇ!? 大丈夫かゆかっち!? 最近立て続けに絡まれてるのに! 私と剛と一緒に行くぞ!」
「それは私も反対、かな……。よ、よかったら……私達とでも……」
「ゆかっち〜! 私も空いてるよ〜!」
……三人の気遣いが、逆に胸に刺さる。
ありがたいが…君たちには行きたい人と行ってほしい…
ピコン。
スマホが震えた。
「……!……私、大丈夫!」
一方その頃・3年1組
「翔、修学旅行だぜ」
「そうだな。京都は行き飽きてるが」
「おいおい、つまんねぇ奴だな」
「勘違いするな。京都は飽きたが、高校生の修学旅行は楽しみだ」
「いいね、旅行。僕も最近ヨーロッパ行ってないし楽しみだ」
「お前らスケールでけぇな……俺だけ置いてかれてね?」
翔・飯田・久我の三人、男子は集まりこちらも修学旅行に向けて予定を立てていた。
「グループ行動は四人か……俺と剛と久我……あと一人だな」
「適当に誘うのか?」
「まぁ、そんな感じ」
ーーーー
「……え? 私?」
「神崎がよければな。都合悪いか?」
「う、ううん! 全然! 翔くんと行動できるなんて……!」
「神崎か。一緒になんかすんのは久々だな」
「よ、よろしくお願いします……」
(ぼ、僕この人ちょっと怖いんだけど……大丈夫かな?)
「あ、うん、よろしくね。久我くん」
(そんなオドオドして欲しくないんだけど…)
コソコソと話す、翔と神崎。
「……で、翔くん…自由行動は?」
「……誘う、つもり」
「つ、つもり!? 最近あの子、他の男子からも目つけられてるんだから、早めに! ほら、メッセージ!」
「まじかよ!………ああ」
【裕香、自由行動よかったらどうだ?
友達として、のんびり回りたい】
「うわっ!……凄い保身」
(翔くん……恋愛攻めに回るとになると、こんなにヘタレたったんだ。なんか意外)
「送らないよりマシだ」
(くそ……口説くった決めたはずなのに……
なんで俺、こんなに逃げ腰なんだ……)
(というか、まじで攻め方が定まらねぇんだ…
落ち着け、友達からでも…って手段もある)
(あいつの女性的思考にとにかく増やすように行動する、そうしよう)
「自由行動かぁ。俺は光と回るけど、久我はどうするんだ?もう決めてるのか?」
「あ……僕は……もう、誘ってるんだ」
「へぇ、なんかオドオドしてんな。……女か?」
「ええ!?……あ、まぁ、そうだね。白石さんだよ」
「おお!そりゃいいとこ行ったな!」
「うん、白石さんいいと思う!。すごくお似合いだと思うよ」
「うわっ……あ、ありがとう……神崎さん」
(この人、こういう時はちゃんと褒めるんだな……)
「そうか!久我!白石はいいぞ!優しいし!美人だし!音楽性いいし!ピッタリだ!」
(よっっっしゃ!!!これで裕香×白石要素は無くなりつつある!久我よ!よく頑張った!後は告れ!もう告ってくっついちまえ!俺も頑張るからよ!)
「翔はどうすんだ?」
「俺も、もう決まってる」
「お、そうか誰なんだ?」
「そりゃ内緒だな、まぁ楽しんでくるさ」
「お?、おお…そうか」
(ん?内緒? 神崎じゃねぇのか?バスケの時じっくり見てたのに?
なんか……気になる相手がいるのは分かるが、誰だ?)
「そうなんだ。楽しんでね」
(内緒…そりゃそうか。仮に女子だとしたら
噂が広がってパニックになりかねない。
しかし…神宮寺くん……神崎さんじゃないというと
ほぼ確信だろうな、あの子に…)
「いいなぁ、みんな。私、自由行動どうしよっかな……」
「ん、あー……それなら」
場所は変わって、休み時間。
「あまねっち〜! 私も暇してたし、一緒でいいよ〜!」
「わー、ありがと。鬱陶しいわ」
「ひどっ!? あまねっちの鬼!
せっかく京都のコスメスポット教えてあげようと思ったのに!」
「おいおい、京都に行くんだから観光しろよ」
「一人行動でも全然よかったんだけどなぁ……」
「私といるとお得だよ?顔、きかせられるし?」
「なはは!権利行使してるぞ!」
「高校生が言っていい冗談じゃないわよ」
「飯田くん、前から思ってたんだけど……神宮寺家のスペックって、やばくない?」
「今さら気づいたか。今のうちに媚び売っとけ。
一緒に遊ぶと、地元感覚で海外に連れてかれるぞ」
……と、そんなやり取りの流れで。
気づけば休憩時間、
1組のメンバーが自然と合流していたんだけど――
……なにこれ?
有名企業の天才双子兄妹。
トップアスリートが三人。
バイオリンとピアノのプロ級二人。
スペックの暴力。
俺、前川裕香、一般女子、特技なし、取り柄なし。
……俺、帰っていいですか?
あまりにも眩しすぎて、
この空間にいるだけでHPが削られるんですけど。
誰か俺にスペックください。
ステータスギフトしてください。
秘密研究の被験体っていう
よくわからない経歴くらいしかありません!!
「なはは!剛、楽しみだな!」
「まぁ、京都ならぶらぶらしてるだけでも、それっぽく観光できるしな」
「白石さん、当日はよろしくね……!」
「う、うん……こちらこそ……」
――いいなぁ。
みんな、当たり前みたいに予定が決まってて、
当たり前みたいに“誰かと行く前提”で話してて。
修学旅行という名の恋愛親睦会だ。
一方、俺はというと――
チラッ……と、翔を見る。
コクッ。
ほんの一瞬、翔が小さく頷いた
それだけで、胸の奥が妙に落ち着いた
言葉はないのに、「約束はできてる」って分かる感じ
出来る男は違うなぁ。
よし、これで一件落着――
……かと思いきや。
ガバッ……!
「……ゆかっち」
「ひゃっ……!」
突然、背後から距離ゼロ。
「ちゃんとオッケーしたの?」
「え……まぁ……一応……友達、だし……」
そう。
最近やたらと絡み方が変わった人神崎さんだ。
正直、怖い。
でも、ちゃんといい所があるのも分かってる。
ただし、この詰め方だけは未だに慣れない。
「友達か……ま、いいんじゃない?」
「……?」
「全く……アンタ、自覚なさすぎ。
どんだけの女子が“断られて”きたと思ってるの?」
「へ?えっと…」
いや、何の話!?
自覚ってなんの??
俺はなにか成し遂げねばならないの??
神崎さんは、ため息を軽くついた。
(やっぱり……お互い“友達”で止まってる……
ほんと、ばっっかみたい)
(はぁ……ゆかっちに言いたい。
翔くんの気持ち、全部)
(でも、それは絶対に本人から言わせたい)
(私は……その“きっかけ”になれれば、それでいい)
「……とにかくさ」
「せっかくなんだから、自信持って楽しみなさいよ。
凄い人と行動するんだから」
「……う、うん」
ま、まぁ…有名人と行動するって訳だし
それなりに俺もオシャレしていこう。
そして、帰り道。
夕方の風に吹かれながら、ゆるゆると歩く。
「白石さん……久我さんと……かぁ……」
胸の奥が、ちくりとする。
一緒に楽しみたかった悔しさと、
でも正直、久我さんと一緒のほうが絶対楽しいんだろうな、という納得。
……ぐちゃぐちゃだ。
「桐谷さんと飯田くんは……まぁ、当然だよね……」
「真桜さんと神崎さんの組み合わせは……意外だなぁ……」
あの二人、何話すんだろ。
バスケ?恋愛?コスメ?それとも、俺の話……?
想像できないな。
「そして……俺は……翔と……か……」
その名前を思い浮かべた瞬間、
胸が、きゅっと鳴った。
「……ちょっと……嬉しかったな……」
誘ってくれたこと。
“一緒に行こう”って、自然に言ってくれたこと。
「友達……そうだよな……」
こんな俺に、まだ友達として見てくれてる。
それでも、こうして声をかけてくれるのは……本当にありがたい。
「……感謝、しなきゃ……」
なのに。
あの時の“彼女”って言葉が、
どうしても頭から離れない。
「ううぅ……」
なんか最近、
心の置き場所がわからない。
「……よし」
「余計なこと考えるのやめ!思いっきり楽しめばいいんだ!」
修学旅行。
京都での行動。
恋愛への駆け引き。
「……楽しみだな……」
そう言い聞かせるように呟いて、
俺は、少しだけ歩くスピードを上げた。




